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新任監査役のための監査役監査の基礎 -監査役の役割と責任-

2017年10月31日 PDF
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情報センサー2017年11月号 コーポレートガバナンス

EY弁護士法人 弁護士 坂本有毅

長島・大野・常松法律事務所(2006~12年)にて、資金調達取引、金融規制に係る助言などの案件に従事。その後、金融庁総務企画局政策課(12~14年)へ出向し金融関係の税制改正に関与。14年7月よりEY弁護士法人に入所し、金融法務や一般企業法務の他、コーポレートガバナンスや内部監査、国内外のデータ保護関連の案件にも取り組む。宅地建物取引士、日本証券アナリスト協会 検定会員。

Ⅰ 監査役監査とは

1. 概説

監査役監査とは、一言でいえば、企業の内部に存在する問題の有無に関する一般的な調査です。
調査や検査というと、まず思い浮かぶのは警察の犯罪捜査ですが、犯罪捜査は、すでに発生した窃盗等の犯罪の犯人や証拠を調べるものであり、対象が明確かつ個別具体的、そして強制力を有するという点で、監査役監査とは性質が幾分異なります。また、税務調査や規制業種における監督官庁の検査(金融庁検査等)も例として挙げられますが、これらも事実上強制であり、かつ対象も個別具体的ではないものの担当官が実際に調査可能な範囲にとどまる、という差異がみられます。
これに対し、監査役監査は企業全体という無限定な対象につき、多くの場合は問題がないことを前提としてその確認をしつつも予断を抱かず、あるかもしれない問題を発見し指摘するという活動といえます。
(<表1>参照)

表1 監査役監査と類似活動の比較

2. 問題かどうかの基準

問題の内容については、まず違法行為や定款違反の行為が含まれます。このような違法行為等の有無の調査は、適法性監査と呼ばれます。
一方で、違法ではないものの、経営判断として不当な行為も調査の対象となるか(妥当性監査の要否)は争いがあります。もっとも、経営判断の基礎となる事実の誤認がある、経営判断が通常の経営者であれば行わない不合理なものである、といった不当性の程度が著しいものは、法的にもいわゆる善管注意義務違反となり、適法性監査の対象に含まれてくることから、結局のところ、一定の範囲では経営判断の当不当についても、調査をすべきことになります。

3. 監査活動及び監査意見の水準

監査役監査は、対象が無限定であり、監査役は本来企業全体を調査する必要があります。他方、監査役と補助使用人(いわゆる監査役事務局のスタッフ)のみで企業の全てを調査し尽くすことは現実には困難といえます。
この点、監査役監査は問題がないことを絶対的に保証する、すなわち問題が存在した場合に監査役が結果責任を問われるものではなく、問題がないことを合理的に保証するものにすぎません。合理的な保証とは、端的にいえば、一定の部分的な調査を実施した上で、調査の対象外の事項についても、その部分的な調査の結果に基づけば問題がないと考えるのが合理的であると判断する方法で、監査報告における監査意見の主文も「~と認める。」という記載になります。
そのため、監査活動も、何もかもを調査はしないものの、定性的又は統計的な観点から、対象外の事項についても問題がないと合理的に考えられる水準のものが求められます。それを実施していた場合、仮に問題が事後的に発覚したとしても、その問題の看過は合理性の範囲外にある一種の異常事態と評価され、監査役は任務懈怠(けたい)の責任を問われないことになります。
そして、どの水準のものが求められるかを定めるのが監査基準ですが、監査基準は会社法にはほとんど規定がないため、日本監査役協会の監査役監査基準を中心に、日本内部監査協会や日本公認会計士協会の監査基準も適宜参考にすることになります。
なお、合理的な保証以外にも、「~に問題があると信じさせる事項は認められない。」との主文による、限定的な保証を行う場合もあります。このような限定的な保証は、監査法人による金融商品取引法(以下、金商法)上の四半期レビュー等でみられますが、その場合、調査活動はさらに限定的になります。

4. 監査計画

監査役監査が、部分的な調査により合理的な保証を付与するものであるとしても、監査活動のための人員及び時間にはやはり限りがあります。従って、リスクの高い事項、重点的に監査すべき事項に注力して調査を行うこと(いわゆるリスク・アプローチ)が重要であり、そのためには綿密な監査計画を立てる必要があります。
具体的には、新規参入事業や買収した事業、海外拠点といった、問題が発生しないための内部統制が類型的に弱い部門等が挙げられます。また、例えば情報セキュリティのように、財務数値とは直接の関係が薄い事項は、監査役監査で重点的に調べる必要があります。

Ⅱ 監査役監査と内部統制

内部統制とは、簡潔にいえば企業内部での問題発生を防止する仕組みです。防止の対象となる問題は、金商法上の内部統制(いわゆるJ-SOX)であれば不適正な内容の財務報告が作成されること、会社法上の内部統制であれば法令違反やリスク管理体制への抵触が発生すること等です。
内部統制は、それが充実していればいるほど問題が生じる可能性は低くなるので、監査活動の計画を立てる際には内部統制の有効性の評価が必要となります。そして、評価の結果、内部統制が整っていないと判断された事項、領域等には、深度ある調査を実施することでメリハリのある監査活動を実施することができます。
また、内部統制の有効性はそれ自体も監査役監査の対象となります。監査の方法は、会社法上は特に規定されていませんが、人員や時間を考慮すると、監査役が自ら直接有効性を調べる(ダイレクト・レポーティング)のではなく、金商法上の内部統制と同様に、いったん経営者が行った有効性の自己評価を監査対象とするのが現実的と考えられます。

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