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「法人所得税務処理に関する不確実性」(IFRIC第23号)の公表

2017年9月29日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2017年10月号 IFRS実務講座

第3事業部 公認会計士 藤田裕久

当法人入所後、国内監査部門にて一般事業会社の監査業務、監査関連業務に携わる。2014年よりIFRSデスクにて、IFRS導入支援、IFRS関連の研修講師、執筆等の業務を担当。17年より再び監査部門で、IFRS適用会社の監査業務に従事している。

Ⅰ  はじめに

2017年6月、国際会計基準審議会のIFRS解釈指針委員会から、IFRIC第23号「法人所得税務処理に関する不確実性」(以下、本解釈指針)が公表されました。本解釈指針では、現行の日本基準にはない不確実な税務上のポジションに関する会計処理が定められている点で、特徴的なものとなっています。本稿では、IFRSに従い不確実な税務上のポジションを会計処理する際に実務で広く用いられている考え方である「一段階法」「二段階法」を紹介した上で、本解釈指針で定められている処理について、概説します。なお、本稿における意見に係る部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ   不確実な税務上のポジションに関する従来の会計処理方法

不確実な税務上のポジションとは、例えば損金算入が認められる研究開発支出の範囲のように、税務上の取扱いが不明確な項目、又は報告企業と関連税務当局との未解決の紛争に係る項目を指しています。IAS第12号「法人所得税」では、この測定に関して特別な規定を設けていないため、企業は不確実な税務上のポジションについて、税務当局に納付又は還付されると予想される額で算定するという基本原則に基づいて処理する必要があります。実務上は、<表1>に示されるいわゆる「一段階法」「二段階法」を含む容認される会計処理方法の中から選択されており、ばらつきが生じています。

表1 不確実な税務上のポジションの認識方法

日本基準においても、当期法人税等の認識及び測定に関する個別の規定が存在しない点は同じですが、実務上、不確実な税務上のポジションについて追加の負債を認識していないケースが見られます。この点、日本基準からIFRSに移行する企業は、会計処理に差異が生じる可能性があるため、留意が必要です。

Ⅲ 本解釈指針の概要

前記のような実務の不統一を減少させ、企業間の比較可能性を改善することを目指して本解釈指針が公表されました。その概要は以下の通りです。

1. 不確実な税務処理を個別に考慮すべきかどうか

税務上の取扱いが不明確な取引が複数存在する場合、それらを個別に考慮すべきか、あるいは、集合的に考慮すべきかについては、企業はどちらのアプローチが不確実性の解消についてより適切な予測を提供するかに基づいて、決定する必要があります。

2. 税務当局による調査

不確実な税務処理の評価に当たっては、税務当局は調査権限を有する金額について調査すること、及び全ての関連情報について十分な知識を有していることを仮定する必要があります。

3. 課税所得(税務上の欠損金)、税務基準額、繰越欠損金、繰越税額控除及び税率(以下、課税所得等)の決定

企業の行った不確実な税務処理を税務当局が認める可能性が高いと企業が結論付ける場合は、不確実性の影響を反映せず、実際の法人所得税申告と整合するように課税所得等を決定(例えば、申告書で使用した数値をそのまま用いる)する必要があります。
他方、そのような可能性が高くはないと企業が結論付ける場合には、課税所得等を算定する際に、不確実性の影響を反映しなければなりません。その方法は、「最も可能性の高い金額(最頻値)」「期待値」のうち、不確実性の解消について、より適切な予測を提供すると判断する方法を使用するものとされています。<設例>を示すと次の通りです。この<設例>において、もし税務当局が当該処理を認容する可能性が高いのであれば(例えば、結果1が生じる確率が70%)、不確実性の影響は反映されないため、結果2~6の見積りに関わらず、追加認識される課税所得は0となります。

設例(IFRIC第23号IE2-6より一部抜粋)

4. 事実及び状況の変化の考慮

判断及び見積りに影響する事実及び状況の変化又は新しい情報があった場合には、それらの影響を、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬(ごびゅう)」に従った会計上の見積りの変更として、又は、報告期間後に生じた変化についてはIAS第10号「後発事象」に従った修正後発事象又は開示後発事象として反映することを検討するものとされています。

5. 開示

新たな要求事項はなく、IAS第1号「財務諸表の表示」等で要求されている事項の開示の要否を検討するする必要があります。

6. 発効日及び経過措置

本解釈指針は、19年1月1日以後に開始する事業年度からの適用が求められています。早期適用は認められます。適用に当たっては、以下いずれかの経過措置を適用する必要があります。

(1)IAS第8号に従った遡及(そきゅう)適用をする(事後的判断(後知恵)を用いずに適用可能な場合のみ適用可)

(2)適用開始による累積的影響額を、適用開始日(適用初年度の期首)の利益剰余金又はその他適切な資本の構成要素の期首残高で認識する

Ⅳ おわりに

本解釈指針ではⅢ3.に記載の通り、企業はまず、税務当局が不確実な税務処理を認める可能性が高いか否かを判断し、高くない場合には二通りの測定方法(最頻値又は期待値)のうち、より適切な予測を提供すると判断する方法を用いて不確実性の影響を反映することになります。このことから本解釈指針は、前記Ⅱで紹介した二段階法のアプローチに近いと考えられます。
また、税務当局が不確実な税務処理を認める可能性が高いと判断する場合には、これに関する追加の負債を認識しないことになります。この場合、不確実性の潜在的な影響は財務諸表には反映されませんが、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」を参照し、偶発事象として開示することを検討することとなります。

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