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情報センサー2017年8月・9月合併号 M&A Law

カーブアウト検討時における法務上の問題点

EY弁護士法人 弁護士 辻畑泰伸
EY弁護士法人でパートナーとして法務デューデリジェンス・契約交渉等のM&A・組織再編の法務に携わる。長島・大野・常松法律事務所(2003~14年)でM&A法務に従事するとともに、総合商社や証券取引等監視委員会事務局の勤務経験もある。著書(共著)に『会社分割の法務』(中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

会社の一事業を切り出すカーブアウト取引は、事業の第三者への売却というM&Aの局面のみならず、持株会社化やグループ内再編などで頻繁に利用されます。典型的には会社法上の会社分割が用いられることが多いですが、社内でカーブアウトの検討を開始した際に、スキーム・スケジュールをどうするか、実行上の留意点を把握するために早期に検討すべき事項はないか、調査・整理を求められることがあります。本稿では、法務の観点から、カーブアウトにおける主要な検討事項を概観します。

Ⅱ 主要な検討事項

1. 会社分割にするか事業譲渡にするか

小規模な取引を除けば、比較的多くのカーブアウト取引で会社分割が用いられます。法務上の理由は、会社分割では会社法等の一定の手続きを履践する代わりに、契約・債務・従業員の承継について原則として相手方の同意取得が不要であることが挙げられます。多数の契約相手方や従業員がいる場合、事業譲渡では、実務上の工夫もあり得るものの、承継にあたり原則として同意取得が必要であり、手間がかかります。一方で、①小規模な取引の場合は同意取得の手間も大きくなく、かえって会社分割の債権者異議や労働契約承継法の手続きが大変になる場合もあること、②承継する従業員の範囲や(場合によっては)労働条件を変更する場合は、事業譲渡の方が柔軟性があることから、そのような場合は事業譲渡が採用されます。

2. 許認可等を承継できるか

許認可が会社分割によって新会社に承継できず、新規の取得が必要になる場合、効力発生日初日から許認可が得られるよう、事前に準備会社で許認可取得を進めておくことや、場合によっては対象事業以外を切り出すといったスキームを検討する必要があります。そのため、自社の重要な許認可を洗い出し、①新会社に自動的に承継される許認可②簡易な手続きで承継される許認可③新会社で新規取得が必要な許認可のいずれに当たるか、法令調査や必要に応じ監督官庁への問い合わせを行います。
なお、政府の許認可に限らず、会社によっては、プライバシーマークや官公庁の入札資格などが事業上重要な場合もあるので、会社ごとに整理が必要になります。

3. 承継させる契約は自動的に移るのか

切り出す事業に重要な契約が存在する場合(例えばメーカーで、承継事業で重要な特許を第三者からライセンスを受けている)、その契約が会社分割で契約違反となることなく新会社に承継されるか問題になります。先に述べた通り、契約上の地位が相手方の同意なく自動的に承継されるのが会社分割のメリットですが、個別の契約に、会社分割による承継を禁止する条項や支配株主の変更があるとき解除権が発生する条項、権利義務の承継禁止条項がある場合などに、同意を取得しないで承継させると、契約相手方から契約違反の主張をされる恐れがあります。もちろん、条項の内容や契約の相手方、会社分割の相手方次第でリスクの程度は異なり、全ての契約について同意を取るのはやぶ蛇となる可能性があります。一方で、非常に重要性の高い契約で契約違反が問題になると、承継事業が立ち行かなくなることもあり得るので、そのような契約の存否と問題となる条項について整理が必要となります。

4. 共有する知的財産等の資産はどうするか

メーカー等では、切り出す事業に必要な重要な特許があり、他の事業でもそれを利用している場合、当該特許を会社分割で承継させるか、それとも自社に残したままライセンスを与えるかという問題が生じます。グループ内再編であれば問題になることは少ないのですが、第三者への売却案件では、当該特許を手放したくない売主と取得したい買主とで綱引きとなりますし、ライセンス契約の条件も交渉事項となります。これらは買主のデューデリジェンスが終了し交渉が始まったときに重要な論点となるので、早いうちから会社の方針を練っておくことが望まれます。

5. 従業員との関係で気を付けることは

会社分割は会社法が根拠法ですが、従業員との関係では「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」を遵守する必要があります。実行段階で行うべきさまざまな手続きが規定されていますが、検討初期段階で留意すべきは、当該手続きを適切に履践すれば、①承継する事業に主として従事する従業員を移すときは従業員に異議権がなく(つまり同意なく承継される)、②逆に残すときに異議権がある、一方で、③主として従事していない従業員を移すときは従業員に異議権があり、④残すときは異議権がないというルールです。会社分割時には従業員は新会社に承継させずにしばらくは出向で対応し、その後に順次転籍を考えるという方針をとろうとする場合、人事上の段階的でスムーズな移行という目的とともに、会社分割時の前記①のメリットや事業譲渡の際の同意取得の必要性も加味して、従業員に関する全体の方針を考える必要があります。

6. 株主総会その他手続の要否は

上場会社や多数の株主がいる閉鎖会社で会社分割を行う場合、株主総会の要否はスケジュールやコスト等に影響を与えます。要否は最終事業年度の計算書類の数字を用いるため初期段階では最終確定はしないものの、まずは調査を行い、場合によっては総会を回避するために承継資産の範囲を変えることもあります。分割会社で株主総会が不要になる要件は、カーブアウトする資産の帳簿価額が会社の総資産額の20%を超えるかどうかが基本になります。なお、相手方である承継会社における株主総会が問題になる場合、①分割対価が承継会社の純資産の20%以下になるようにする②事業譲渡スキームにして事業の全部譲受けではないので総会不要とする③100%子会社に会社分割しその株式を譲渡するスキームにするなどの対応も考えられます。③は買主側で種々の承継会社としての会社分割の手続きを行わなくてよいので、実務上もよく利用されています。


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