情報センサー

オフィスワークにおけるロボット活用の始まり -RPA(Robotic Process Automation)の概要と期待効果-

2017年7月31日 PDF
カテゴリー EY Consulting

情報センサー2017年8月・9月合併号 EY Advisory

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株) 塚本康平

大手通信会社、外資系ITサービス会社を経てEYフィナンシャル・サービス・アドバイザリー(株)に参画。金融機関をクライアントとしたビジネスコンサルティングおよびITコンサルティングに従事。EY JapanにおけるRPA CoEメンバーとして、複数のRPA導入プロジェクトのプロジェクトマネージャーやテクニカル・アドバイザーを務める。

Ⅰ  はじめに

「ロボット」という言葉は、1920年にチェコスロバキア(当時)の作家が戯曲の中で初めて使用したとされています。その後ロボットはフィクションの世界でその概念が知られてきましたが、80年代以降は産業用ロボットが広く普及し、現実世界で人間の仕事を支援してきました。その場がオフィスワークに及んできたのが、近年注目が高まっているRPAというソリューションです。

Ⅱ   RPAとは

RPAとは、Robotic Process Automationのことであり、ソフトウエアロボットにより事務作業を自動化・効率化する取り組みのことです。人間がコンピューター上で行う手作業をそのままロボットが代替して実行することが基本的な方法であり、アプリケーションの立ち上げやID・パスワードを入力してのログイン、データの読み取りや入力などをロボットが忠実に再現します。
ロボットは操作対象とする既存アプリケーションのユーザーインターフェースをそのまま利用するため、既存アプリケーションを改修せずにそのまま自動化できることが、RPAの導入のしやすさにつながっています。
ロボットは事前に定義された範囲での条件分岐処理を行うことが可能ですが、認知機能や学習機能は持たないため、比較的単純な定型的業務の処理でその効果を発揮します。

Ⅲ なぜ今RPAなのか

国内では昨年(2016年)頃から、欧米ではさらに数年前から、RPAによる自動化が業務効率化の手法として急速に普及しつつあります。
従来の業務改革や効率化の手法としては、ERPなど企業システムの統合あるいはシェアード化やアウトソースといったものが一般的でした。ところが昨今、これらの手法による改革には限界が見え始めていると考えられます。ERPは多くの企業のビジネス基盤として整備されて以降も進化を続け、機能が強化されて標準機能が対応する業務の範囲を広げてきましたが、企業固有のプロセスへの対応には多くの労力とコストを要します。また、シェアードサービスやアウトソースのオフショア化は、これまで受け入れ先となっていた中国あるいはインドなどの賃金上昇により、従来のようなコストメリットが得られにくくなっています。これらの国に代わる新興国に注目が集まるものの、やがては同じことが起こるという懸念もあります。
RPAへの注目が高まる背景には、ソリューションが成熟し、機能や使い勝手が向上してきたこともありますが、業務変革に対する次なる打ち手が求められていたという背景もあったと考えられます。

Ⅳ 適用対象となる業務

RPAはどのような業務に適用されているのでしょうか。作業工数削減の観点からは、大量の作業が必要とされている作業、すなわち、高頻度で反復的に大量に発生している事務作業が優先的に自動化の対象となります。これらは、金融機関や通信事業者など、消費者を対象とした契約に基づくサービスを提供している企業に多くみられ、現在ではセンター化による処理が行われている業務プロセスなどが相当します。
またセンター化はされずに分散型で大量に発生している業務としては、社員数の多い大規模企業における経費申請業務やレポーティング業務などがあり、これらも自動化の対象となり得ます。
一方、作業品質向上の観点に着目すれば、手作業でありながら複雑性の高い業務、考慮すべき条件や例外処理が多い業務、計算処理を含む業務などが自動化適用業務として考えられます。これらにRPAを適用すれば、ヒューマンエラーの撲滅に伴う作業品質の向上や、エラー回復に伴う費用の削減が効果として得られます。

Ⅴ さらなる期待効果

RPAは、比較的単純な定型的業務をロボットが代替するという特性から、単純な工数削減や業務品質向上だけにとどまらない次のような副次的な効果ももたらすと考えられます。

1. 高付加価値業務へのシフト

これまで大量の単純作業を処理するのに手一杯であった事務作業担当者の工数は、RPAの導入で大幅な作業工数削減が実現されます。これにより、人間でなければできない付加価値の高い業務にシフトすることが可能となります。これは企業や組織のもたらす付加価値が高まるだけでなく、より高度な業務を担うことによる従業員のモチベーションの維持・向上につながると考えられます。

2. ワークライフバランスの実現

高付加価値な業務へシフトできるということは、企業の労働生産性が高まり、長時間労働に頼らない収益を確保することにつながります。時間あたりの給与が上昇することで、従業員は短時間労働でも給与水準を維持できるようになり、本来の意味でのワークライフバランスを実現できるようになります。特にワークライフバランスが社会的な問題として取り上げられることが多い日本においては、欧米以上に注目すべき期待効果だと言えるでしょう。

Ⅵ ロボットとの協働に求められるもの

RPAもシステムの一つではありますが、業務の現場で人間と並びオペレーションを構成する要素になるので、それを設計する人材には、RPAを活用して業務プロセスを再構築できるスキルが求められます。これには従来のシステム開発と比較してより深い現場の知識が求められるため、業務の現場からの参画がより多く求められることになります。またその運用においては、実行状況の監視、検証も必要になり、内部統制の一部見直しなども必要になるかもしれません。ここでもやはり、業務の現場からの参画は必須と言えるでしょう。ロボットとの協働をリードする人材には、こういったトランスフォーメーションを具体化し推進するスキルが求められます。

Ⅶ おわりに

RPAやAI(人工知能)といった新たなテクノロジーにより、数年から十数年後には現在人間が行っている業務の数10パーセントが自動化可能であるともいわれています。ただこれは成り行きで達成されるものではなく、むしろそれを目標に掲げて強い意志で推進した場合に、はじめて達成できるものではないでしょうか。すでに先進的な企業はそのインパクトの大きさを正しく理解し、いち早くそれを享受し競争力に結び付けるべく、取り組みを開始しています。EYは自身の業務へのRPA適用を進めるとともに、クライアントのRPAをはじめとするテクノロジーを活用したトランスフォーメーションの実現を支援しています。

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