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電気事業者と求められる規制

2017年7月31日 PDF
カテゴリー 業種別シリーズ

情報センサー2017年8月・9月合併号 業種別シリーズ

電力・ガスセクター 公認会計士 西内永二

主に国内事業会社の監査業務に従事。業種は電力、旅客運輸など。主な著書(共著)に『業種別会計シリーズ 改訂版 電力業』(第一法規)などがある。

Ⅰ  はじめに

東日本大震災後、電力業界を取り巻く環境は大きく変化しています。最近では、原子力政策への社会的な注目、将来に向けた再生可能エネルギーの増加など、さまざまな問題や取り組みが話題となっています。
従来、日本の電力業界は一般電気事業者と呼ばれた大手電力会社が中心となっていましたが、震災後にスタートした電力システム改革による、小売全面自由化等の諸制度の見直しを受けて、近年では新電力と呼ばれる新規参入事業者が増えています。また固定価格買取制度(FIT)の導入により、太陽光発電や風力発電、地熱発電などさまざまな再生可能エネルギー発電事業者が増加しています。
本稿では、これらの事業者の電気事業者としての定義、また電気事業会計規則の適用対象、電気料金の自由化とそれに伴う大手電力会社に求められる規制について紹介します。

Ⅱ   電気事業者の区分と電気事業会計規則の適用対象事業者

各事業者は、電気事業法により、それぞれ<表1>のライセンスが付与される仕組みとなっています。

表1 電気事業者の区分

大手電力会社は、部門別にこれらのライセンスを得ることで、発電事業者、送配電事業者、小売電気事業者それぞれの役割を担っています。
また電気事業固有の会計事象に対応するために以前から電気事業会計規則が設けられており、発電事業者、送配電事業者にその規則が適用されます。発電事業者のうち、その出力が200万kWを超えない事業者は、電気事業会計規則を適用しないこともできます。そのため、近年増加している再生可能エネルギー等の新規事業会社は、その規模によっては電気事業会計規則を適用せずに、一般事業会社同様に会社計算規則等に従って財務諸表等を作成することができます。

Ⅲ 電気料金の自由化と残る規制

従来、安定的な電力供給のため、電気料金については一部自由化部門を除いて料金規制が課せられていました。現在は電気事業法の改正により、電気利用者が自由に供給者を選択できるようになり、電力市場の競争を促進させる目的から、大手電力会社が供給する電気料金の自由化が進んでいます。
ただし、特定需要部門と呼ばれる一般家庭向け等の電気料金については、電気の需要家保護を図り、環境激変を緩和する目的で、一定の経過措置期間を経た上で料金規制の撤廃が行われることになっています。
また大手電力会社が送配電事業者として行う託送供給等は、電力の安定的な供給を行う必要があることおよび公共のインフラとして新規参入者との公平性を保つために、引き続き規制部門として料金規制がなされています。
これらの経緯により、電気料金には<表2>の区分が存在します。

表2 電気料金の区分

Ⅳ 部門別収支計算書と送配電部門収支計算書等

大手電力会社における自由化料金部門収支が悪化した場合、継続している料金規制部門の収支にも影響を与える可能性があります。そのため、それぞれの収支を明確に区分算定した計算書(部門別収支計算書)等を作成することが電気事業法で義務付けられています。
また電力自由化を推進していくには、送配電ネットワークの公平性や透明性を維持する必要があります。そのため、送配電部門の会計分離をする仕組みが導入されており、その収支計算書(送配電部門収支計算書)等の作成も求められています(<表3>参照)。

表3 電気事業者に作成が求められる計算書

これらの計算書等の適正性については、公認会計士等による証明書が必要とされています。日本公認会計士協会が発行した業種別委員会実務指針をもとに特別目的監査が実施され、各計算書等についての特別目的の監査報告書が発行されています。

Ⅴ おわりに

大手電力会社の送配電部門は、2020年4月に法的分離による分社化が予定されています。また原子力発電所の廃炉に関する論点、化石燃料消費の増加に伴う環境問題、電力業界特有の税制など、さまざまな会計税務上の論点が存在します。今後はこれらについても、当法人に蓄積されたナレッジを提供してまいります。

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