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新たなリース基準「借手の会計処理(当初認識)」

2016年10月31日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2016年11月号 IFRS実務講座

IFRSデスク 公認会計士 長瀬充明

国内監査部門にて卸売業、製造業、サービス業などの上場企業の会計監査に従事。その後IFRSデスクに異動し、IFRS導入支援、セミナー講師、執筆などを担当している。

Ⅰ はじめに

本誌2016年8月・9月合併号(Vol.113)では、新たなリース基準であるIFRS第16号「リース」(以下、新基準)におけるリースの定義について解説しました。取引がリースの定義に該当する場合には、借手は、原則としてリース取引から生じる資産及び負債を貸借対照表に計上することが求められます。今号では、新基準において重要な影響が想定されるリースの借手の会計処理において、留意すべきと考えられる主要な概念について解説を行います。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 借手の会計処理の全体像

借手は、リース期間にわたりリースの対象となる原資産を使用する権利を表す使用権資産と、原資産を使用する権利に関連して借手が貸手に対して支払うリース負債を、リース開始日に貸借対照表に計上します。<図1>では、リース開始日において認識される使用権資産及びリース負債の構成要素を示しています。

図1 当初認識における使用権資産及びリース負債の構成要素

Ⅲ 主要な概念

1. リース期間の決定

使用権資産及びリース負債の構成要素の会計処理の検討における主要な概念の一つとして、リース期間が挙げられます。新基準では、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間(通知期間を含む)に加えて、延長オプションを行使すること(解約オプションの場合には行使しないこと)が「合理的に確実」かどうかを考慮して、リース期間を算定します。フリーレント期間がある場合には、当該期間をリース期間に含めます。なお、「合理的に確実」という用語は、現行基準のIAS第17号「リース」でも使用されています。一般的には高い可能性として解釈されており、新基準においても現行の実務が引き継がれると考えられます。ただし、新基準では、オプションの行使が「合理的に確実」かどうかについて追加のガイダンスを設けており、借手にとっての経済的インセンティブに関連する全ての事実及び状況を検討することが求められているため留意が必要です(<表1>参照)。

表1 オプションの行使が「合理的に確実」かどうかの検討項目の開示

2. 割引率

借手は、リース開始日において、リース料総額の現在価値をリース負債として認識します。リース料総額の現在価値を算定するために使用する割引率は、原則として貸手によるリースの計算利子率となります。ただし、借手においては、当該利率を容易に入手できない場合があるため、その場合には借手の追加借入利子率を使用することができます。当該利子率は、同様の経済環境において、使用権資産と同等の価値の資産を取得するために必要となる資金の借入に係る利子率であり、使用権資産の種類、リース期間、保証などのリースの契約条件を考慮する必要があります。

3. リース料

新基準では、借手が回避できない固定された又は変動するリース料の支払をリース負債として計上することを求めています。ただし、変動リース料の支払が借手の将来の活動に左右される場合には、借手は現在の支払義務を有していないため、リース負債は計上されません。リース料の変動要因により、貸借対照表に計上すべき使用権資産及びリース負債の金額が変わるため、リース料の支払形態について、実態を踏まえた検討が重要になると考えられます(<表2>参照)。

表2 変動リース料の例示

Ⅳ おわりに

新基準では、各主要な概念について追加のガイダンスが設けられていますが、その基本的な考え方については、現行基準のIAS第17号から変更されておらず、現行の実務を大幅に変えることは想定されていないと考えられます。しかし、新基準では、従来発生時に費用処理されていたオペレーティング・リース取引について、使用権資産及びリース負債の計上が求められています。そのため、当該新たに認識される資産及び負債について、各主要な概念をどのように適用していくかが、今後の実務上の課題になると考えられます。

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