出版物 / 刊行物 / 調査資料
情報センサー2015年5月号 Topics

統合型リゾートにおけるカジノ・ライセンスの取得に必要となる準備・手続き

統合型リゾート(IR)支援オフィス 渡邉真砂世
慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程、東京大学法科大学院修了。金融系シンクタンクを経て、2013年に当法人に入所。EY総合研究所(株)を兼務。政策評価、公共経営改革、政府インセンティブ・特区政策分野における数多くの調査研究・コンサルティング案件に従事。海外の法制度調査研究を行い、わが国における新しい法制度導入・改革を支援する実績を多く有する。

Ⅰ はじめに

カジノ施設とレジャー施設、国際会議場、展示施設、ホテル等が一体となった統合型リゾート(以下、IR)の導入については、平成25年12月に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下、IR推進法案)が臨時国会に提出され、平成26年6月に通常国会で審議入りしました。また、一部の地方自治体等でも検討が進められています。法制化がなされていない状況ではありますが、報道で取り上げられる機会が増え、経済効果等の観点から関心が高まっています。
他方で、カジノには、マネーロンダリングといった不正問題など、さまざまなリスクが指摘されています。
EYは、プロフェッショナル・ファームとして、世界中の多くのカジノ規制当局、カジノ関連事業者に対して、監査をはじめリスク統制を支援する、さまざまな業務を展開しています。本稿では、その知見をもとに、カジノ運営のリスク統制に重要な役割を果たしている、カジノ事業者のライセンス制度についてポイントを紹介します。

Ⅱ カジノ事業者のライセンス制度

1. 日本での議論

カジノ事業者のライセンス制度の在り方について、IR推進法案には特に規定がありませんが、可決・成立した場合には、その「施行後一年以内を目途として」、「必要となる法制上の措置」を国が「講じなければならない」こととされており(IR推進法案5条)、その法整備において規定されると想定されます。IR推進法案を後押しする国際観光産業振興議員連盟は、その法整備の「基本的な考え方」(平成26年10月16日付改訂)という文書の中で、ライセンス制度について次のように言及しています。

  • カジノを施行する民間事業者は国から免許を取得しなければならない。
    民間事業者が、特定複合観光施設にてカジノの施行を要望する場合には、国際基準と同等の所定の書式、手続きに基づき、別途、国の規制機関となるカジノ管理委員会に申請し、免許を取得しなければならない。カジノ管理委員会は、民間事業者による費用負担に基づき、背面調査、審査を実施し、当該民間事業者の適格性を検証の上、免許を与えるか、この申請を拒否できる。
    同時に、当該民間主体の5%以上の有効議決権を保持する主要株主、経営者、主要管理職及び、直接的・間接的にゲームの運営に関与する職員は、すべからくこれら業に従事するに際し、国際基準と同等の所定の書式、手続きに基づき、カジノ管理委員会に申請し、その背面調査・審査を受け、免許を取得しなければならない。
  • 免許の前提として、欠格要件と適格要件を定義する。
    カジノの施行を担う民間事業者に関しては、不適切な者を排除するために欠格要件を定義するが、同時に法遵守の組織内体制や、高い社会的責任、高潔な倫理観、社会的信用度、財政的資力や資金調達力、運営・経営能力、経験等の適格要件が国の機関となるカジノ管理委員会により定められ、これを満たすことが免許付与の前提となる。
  • 民間事業者に付与された免許は違法行為等の場合には取り消す。

「国際基準と同等の書式、手続き」との文言があり、海外で多く用いられている書式、手続きに準じた制度の導入が想定されています。

2. ラスベガスにおけるライセンス申請

カジノが集積するラスベガスが位置する米国ネバダ州では、一定水準以上の規模のカジノを運営しようとする者は、「無制限ライセンス(non-restricted license)」と呼ばれるライセンスを受ける必要があります。

(1) 無制限ライセンスの申請に必要な書面等

無制限ライセンスの申請に際しては、次ページの<表1>に挙げられている多数の書面等をネバダ州の規制当局(Nevada Gaming Control Board)に提出することが求められます。
ライセンスを申請すべき主体には、事業者に加えて、当該事業者の役員、取締役、株主も含まれます。当該事業者が公開会社ではない場合には、基本的に、5%超の株式を保有する株主は、規制当局からライセンスを受けなければなりません。
特に注目すべき点としては、後述するForm 7「個人履歴開示フォーム」のページ数が多く、求められる情報量が多いこと、Form 17「全ての請求権の放棄に関する書面」やForm18「情報開示依頼書」のように、規制当局の強い調査権限を担保する仕組みがあること、が挙げられます。

(下の図をクリックすると拡大します)


(2) 個人履歴開示フォーム

特に、ページ数が多く、また、記載すべき内容も詳細で多岐にわたるのが、Form 7の「個人履歴開示フォーム」です。このフォームでは、例えば次の事項についての記載が求められます。申請者本人だけではなく、配偶者や子供についてのさまざまな詳細な情報開示が求められており、なかには過去20年間の履歴を開示すべき事項もあることが分かります。この書面の準備には、かなりの期間と費用が掛かります。

  • 申請者、配偶者、子供(養子を含む)、両親、配偶者の両親、兄弟とその配偶者、離婚歴がある場合には元の配偶者とその両親に関する、生年月日、住所、電話番号、職業等の情報
  • 申請者の過去20年間(あるいは18歳以降のいずれか短い期間)の職歴(雇用者の名前・連絡先、当時の職階・上司の名前、退職理由、退職金の額等を含む)
  • 申請者の過去20年間(あるいは18歳以降のいずれか短い期間)に、5%以上の株式を保有したことのある非上場企業等の名前・住所・現在の状況、申請者の持分比率等)
  • 申請者及び配偶者の過去のカジノ関連事業のライセンス申請・取得履歴
  • 申請者、配偶者、子供(養子を含む)の逮捕・刑事訴追歴
  • 申請者の
    • 過去20年間の破産・債務不履行歴
    • 過去10年間の資産差押え経験歴
  • 申請者、配偶者、子供(養子を含む)の過去10年間の
    • 25,000米ドル以上のローン利用歴
    • 10,000米ドル以上の貸付歴
    • 10,000米ドル以上の贈与授受歴
  • 申請者、配偶者、子供(養子を含む)が保有する全ての銀行口座の口座番号・利率・残高
    • 保有する全ての有価証券の保有数・種類・発行主体・取得日と購入価格・時価
    • 保有する全ての不動産の概要・購入価格・評価額
    • 受取の権利を有する全ての生命保険の現在価値
    • 権利を有する全ての退職金ファンド、投資ファンド、年金ファンドの種類・口座番号、負担の累積額・現在価値
    • 所有あるいはリースを受けている全ての車両の取得原価・評価額
  • 申請者、配偶者、子供(養子を含む)が支払義務を負う全ての
    • 支払手形の元本・未返済残高
    • 借入金
    • 未納税額

(3) 背面調査

以上のような書面等の提出に加えて、申請者は、規制当局による「背面調査」を受ける必要があります。これは、申請書面等の内容を踏まえ、当局が、当該申請者の適格性の判断に必要な情報を収集するために行われるものです。例えば、過去の申請事例では、申請者は、規制当局から「個人履歴開示フォーム」に記載したさまざまな情報の証跡となる証書・通帳等を過去4年間分提出するよう要求されています。すでに述べたように、申請者は、規制当局の強い調査権限を受け入れる書面を提出しており、追加的な情報開示要求に応える義務があります。また、背面調査の費用は申請者側が負担することとされており、数百万円から1千万円を超える額にのぼることもあります。

Ⅲ おわりに

以上のように、ラスベガスのカジノ事業のライセンス制度において、事業者が申請・提供すべき情報は多岐にわたり、ライセンス取得者の適格性は厳しい目でチェックされる仕組みとなっています。また、何らかの違反があった場合にはライセンスは取り消されるため、強い拘束力を発揮します。当然のことながら、ライセンスを取得した後も、カジノ事業者はさまざまな規制を遵守しながら、内部統制・内部監査の仕組みを導入し、監視システムを強固にするなどの対応が求められ、それらを通じて、リスク統制が図られます。
日本でも、IR推進法案が可決されれば、このような仕組みが導入されると考えられます。IRへの参画を検討している企業では、海外の制度運用状況と国内における議論を注視しながら、新たなライセンス制度や規制への対応について、体制づくりやコスト試算、スケジュールの検討等を進めることが重要と考えられます。


  • Integrated Resort