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EY総研インサイト Vol.6 June 2016  「特集 ポスト2020」

Ⅳ章 ポスト2020に向けた人工知能との協働

※ EY総合研究所は2017年6月30日をもって解散いたしました。 下記の掲載内容は公開時の情報となります。

第4次産業革命

日本再興戦略2016における「官民プロジェクト10」の一つで、今回の成長戦略の最大の目玉。IoT、ビッグデータ、AI(人工知能)等の技術革新や融合によりイノベーションが創出され、人工知能の活用が社会やビジネスの多くの場面で期待される。

はじめに

政府は、名目GDP600兆円に向けた成長戦略「日本再興戦略2016」において、「官民戦略プロジェクト10」の一つとして「第4次産業革命」を位置付け、新たな有望成長市場の創出に向けて、付加価値創出30兆円(2020年)を目標に掲げた。

「第4次産業革命」は、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能(AI: Artificial Intelligence)、ロボット等の技術革新により、加速、具現化されるが、その中でも、人工知能は社会のさまざまな場面での利用が期待されている。

本章では、「ポスト2020に向けた人工知能との協働」をテーマに、まず各産業に展開する人工知能ビジネスの現状を概観し、企業経営の視点から人工知能の適用領域と期待される効果について検討する。

最後に、人工知能が拓く未来「ポスト2020」に向けて、人工知能ビジネスの方向性について整理を行う。そして、これからの課題とされるリアル空間データ(実社会を反映した活動データ。詳細は、後節「人工知能が拓く未来」参照)の構築に向けた展開について、製造、モビリティ、医療の各産業分野に着目し、新たなビジネス展開における課題について論じる。

産業分野における人工知能の展開

近年、ディープラーニング(深層学習)技術の進展により、第3次ブームとして人工知能が脚光を浴びており、さまざまな領域での実用化も進んでいる。

わが国における各企業の研究開発や実用化の動向を産業別に整理したものが、<表1>である。

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<表1> 産業分野別にみた人工知能の研究開発・実用化の取り組み

    人工知能が適用されている身近なものとして、スマートフォンの音声認識や対話形式のアプリケーション、そして電子商取引(EC)サイトにおいて、ユーザの属性情報(商品の購入や閲覧情報など)をもとにしたレコメンド機能などがある。

    そして各産業分野で共通するものを整理すると、自動車、通信、金融・保険業等では、コールセンターなどの問い合わせ対応や店頭でのコミュニケーションロボットによる顧客対応支援などに用いられている。また、製造、自動車、電気・ガス、エネルギー業等では、IoTとの連携により、運転、制御、管理の自動化・監視、異常検知、故障予知などへの普及が始まっている。

    最近では、自然言語処理技術、対話システム、音声認識技術、画像認識技術の進展に加え、ディープラーニングによる画像認識・解析技術の精度の向上から、防犯やマーケティング、そして医療用画像診断支援などへの適用が進んでいる。

    今後はウェアラブル、ロボットやドローン、家庭向け音声認識端末等のあらゆる機器、デバイスとの組み合わせにより、さらなる広がりが期待される。

    経営強化に期待される人工知能

    前節では、人工知能の産業分野における展開をみてきたが、ここでは企業経営の視点からみた人工知能の適用領域と期待される効果について検討する。

    産業分野別にみた人工知能の展開事例<表1>を経営部門別に整理したものを<表2>に示した。以下において、主な効果例のうち、業務の最適化や効率化による影響が大きいと考えられる部門を中心に取り上げる。

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    <表2> 人工知能の適用領域と期待される効果

    経営部門では、経営資源に関するデータをリアルタイムに可視化できるようになり、データに基づく迅速な意思決定の支援を実現する。

    研究開発部門では、解析、分析工程に人工知能技術を組み入れ、解析速度、解析精度向上による研究開発投資コスト削減や過去の知識、独自ノウハウの蓄積から人工知能が最適解の導出を行う。

    生産部門では、生産工程において、AIロボット、IoT等による自動化や、熟練者の知識、技術ノウハウ等を読み取り、データベース化することで、業務の効率化や安全管理、品質向上につなげていく。

    また、マーケティング部門では、顧客ニーズに応じた、より個別化したパーソナルAI等による深層理解と高付加価値サービスの提供が期待される。具体的には、電子商取引(EC)サイトの閲覧履歴情報や商品の購買履歴、ポイントの利用状況、ソーシャルメディア情報による商品に関する評価の書き込み、店舗への来店履歴情報等、消費者の一連の行動プロセス分析やビッグデータの購買履歴データの解析などから、一歩踏み込んだ人工知能を利用した実社会の活動データを加えていくことである。例えば、店舗における画像解析分析による顧客属性の分析を付加することで、より精度の高い、高付加価値サービスをもたらすマーケティングが可能になる。

    情報システム部門においては、新システムへの更改に向けたテストの自動化が挙げられる。企業では更改テストに係る工数・コストは大きな負担となっており、いかにコストを下げるかが課題とされている。更改テストは、どうしても熟練テスト要員が行わなければならなかった部分が人工知能に置き換わることにより、大幅なコスト削減・開発期間の短縮が可能となろう。

    以上のように、人工知能は企業における広範な業務をカバーし、支援的な役割として、業務のスピード化、効率化やコスト削減につながる可能性を秘めていることから、今後の企業経営における資源配分、体制面に大きく影響することになるであろう。

    人工知能が拓く未来-「ポスト2020」に向けて-

    1. 人工知能ビジネスの方向性

    今後の人工知能ビジネスの展開を考える上で、その効果を発揮するためには、データの量とその質が重要となる。

    それは、言い換えるとより現実的な情報、リアル空間データ(実社会を反映した活動データ。例えばセンサー等で取得された工場の稼働データや個人の生体情報等)とサイバー空間データ(インターネット上の情報やデータ、ソーシャルメディアの情報など)のデータを掛け合わせた、より高付加価値を創出していくことである。

    そのためには、それらのデータをどのように収集し、蓄積や解析を行うかということが現在課題とされており、まず、こうした仕組みを整備していく必要がある。

    主な産業分野について人工知能関連ビジネスの方向性を示したものが<図1>※1である。

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    <図1> 主な人工知能関連ビジネスの方向性(現在2016年~2020年、2020年以降)

    人工知能関連技術については、2020年頃までは引き続きディープラーニングを中心に、各要素技術が相互に影響し合いながら強化され、さらに各産業分野と相互作用をしながらの展開が予測される。

    そして2020年以降は、そうした各要素技術の展開を背景に、各技術の融合や進化の方向性と、産業間における次世代の汎用(はんよう)的な技術として展開される二つの方向性が考えられる。

  • ※1政府が掲げる政策目標や企業などの動向等を参考に作成。参照 内閣官房産業競争力会議「名目GDP600 兆円に向けた成長戦略(「日本再興戦略2016」の概要)【案】」

2. 各産業分野におけるリアル空間データの構築に向けて

先にリアル空間データをいかに収集して、サイバー空間データとの掛け合わせを行っていくかということについて触れたが、ここではリアル空間データを収集する仕組みに向けた取り組みとして、製造、モビリティ、医療の分野について、現状と2020年以降の方向性、そして制度的・技術的課題を整理する。

製造分野

現在、製造業において産業用ロボットにディープラーニング技術を活用し、産業用ロボットの高度化や異常検知、故障予測を行う技術が開発されている。これは、機械から収集されたデータを即時に処理することにより、機械同士が協調し、高度化するものとされている。

また、今後人工知能とIoTとの連動が予測される領域と考えるが、政府においては、センサー等で収集したデータを工場間、工場と本社間、企業間など、組織の枠を超えて活用する「スマート工場」の先進事例を2020年までに50件以上創出し、国際標準を提案することを掲げている。

2020年以降においては、製造現場の自動化が進み、高度化が加速すると考えられ、工場間連携AI搭載産業用ロボットや部品運搬ロボット等が次第に浸透する。

【課題】

制度的:企業間、異業種連携によるデータの所有の問題。データ流通および利用におけるフレームワーク(企業の生産、稼働状況等の共有化)。

技術的:システムの標準化。制御システムのセキュリティ。

モビリティ分野

現在、自動運転の実証実験が行われており、当面の目標として2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた高速道路等での自動走行の技術開発が進められている。そして、自動走行技術を支える3次元デジタル地図の実用化に向けた整備についても各自動車メーカーと各地図会社が連携して、一体となった取り組みが推進されている。

2020年以降においては、まず輸送用トラックの追随走行や隊列走行などによる自動走行が先行すると考えられ、運転手不足の解消や燃料費削減が期待される。また、普通自動車の自動走行が本格化し、「AIオンデマンド・モビリティ」(本論ではAIによる配車サービス、乗用車の共同利用等を指す)による展開が予想される。

また、人工知能関連産業における同分野のオンデマンド・モビリティ市場、自動運転トラック輸送などの市場は、今後最も大きく成長する分野の一つとみており、4兆6,075億円(2020年)から30兆4,897億円(2030年)で約6.6倍の成長率(2020年比)と予測をしている(EY総合研究所『人工知能が経営にもたらす「創造」と「破壊」』(2015年9月)<図1 人工知能関連産業の市場規模>参照)。

【課題】

制度的:自動運転技術に対応した国際条約(ジュネーブ条約)や国内における道路交通法等の制度的な見直し。

技術的:今後、自動運転車が公道等を走行する上で、実社会のあらゆる事象をとらえた対応が可能かということ。つまり、想定外の事象への対応である。

医療分野

現在、医師の診断支援としてAI画像解析による診断支援が取り組まれており、政府においては、IoT等の活用による個別化健康サービスとして、レセプト(診療報酬明細書)、健康診断等のデータを集約・分析し、活用することを2020年までの目標として掲げている。

2020年以降は、すでに企業においてもウェアラブルにより収集した生体情報をヘルスケアサービスとして取り組まれているが、さらに進んでレセプトデータや健康診断データ等との連携とAIの利活用により、個別化された総合的なパーソナルヘルスケアサービスとして、例えば日常生活における病気の兆候の通知や病院からの対処助言サービス等の提供が予想される。また、AI搭載手術ロボットや人材不足を補完する診察受付・巡回監視ロボット等のロボットによる取り組みも考えられる。

【課題】

制度的:(医療ID制度は2020年からの本格運用とされているが)医療情報に係る機微な情報、プライバシーの問題と匿名化情報の扱い。保険者が健康づくりのために生体情報を提供し、それに取り組むインセンティブ。AIを活用する診断支援システムに関する医薬品医療機器法の審査制度。

技術的:医療情報のシステム連携やデータの互換性。データの集約化。利活用。

また、各産業分野に共通する課題として、以下の技術、法制度面の課題が挙げられる。

① 技術面の課題

  • 制御の可能性:ディープラーニング技術により、コンピュータが自ら学習できるようになった半面、学習ルールが不明なため、その制御が課題
  • プライバシーおよびシステムセキュリティの問題

② 法制度面の課題

  • 倫理や法、社会的影響(ELSI:Ethical, Legal and Social Issues)
  • AI創作物や知財制度の問題
  • 社会的な受容性

3. 新たなビジネスに向けた課題

先のモビリティ分野において、「AIオンデマンド・モビリティ」による展開について述べたが、交通困難地域や高齢者など、移動が困難な方のための新たな交通手段としての利便性が期待され、新たなビジネスとして、配車サービスや乗用車の共同利用が注目されている。

一方で既存の産業やビジネスで成り立っている交通サービスが存在しており、そうした利害関係者との利害調整が不可欠であり、イノベーションのジレンマがある。

国内外の制度の見直しにおいては、新たなビジネスによる革新との調和をもった制度の再構築が必要である。

また、技術的な進展の一方で、技術的な安全性の実証、そして生活様式の在り方にも関わる社会的な受容性が問われており、そうした側面において社会的なコンセンサスを形成していくことも重要である。

今後のビジネス展開において、注視しなければならないのは、外部環境として海外の大手IT企業による顧客の囲い込みと外部の開発力やアイデアを活用し、新たな価値を創出するオープンイノベーション化の動向である。海外の大手IT企業は人工知能技術を有するベンチャー企業等の買収や提携、研究者の囲い込みなどによる人工知能関連技術の集積、強化を図っている。

最近では、AIクラウド、API(Application Programming Interface;アプリケーション開発者がコンピュータプログラム機能を利用できる連携の仕組み)の提供などが目立ち、今後の展開において、プラットホームを巡る競争がビジネスを左右するものと思われる。

以上、人工知能ビジネスの現状、そして人工知能が拓く未来「ポスト2020」に向けて、人工知能ビジネスの方向性について述べてきたが、革新的な取り組みを創出する仕組みづくり、そして新たなビジネスと課題について、人工知能が「超頼もしい右腕」として協働し、中長期的な視点から社会的課題解決に向けて展開されることが期待される。


EY総研インサイト Vol.6 June 2016