米国の税制改革によるIFRS財務諸表への影響

2017年12月26日 PDF
カテゴリー 法人所得税

重要ポイント

  • 米国大統領は、2017年12月22日に新たな税制法案に署名し、米国の税制改正に係る法律が成立した。
  • 新たな税制が税務に及ぼす影響のみならず、会計処理及び開示に及ぼす影響についても検討する必要がある。

概要

米国の下院及び上院の委員会は米国税制改革法「The Tax Cuts and Jobs Act」の最終条文に合意し、その後最終法案が米国議会の両院により可決され、2017年12月22日(現地時間)にトランプ大統領により署名された。これにより、米国の税制改正に係る法律(以下、本改正税法)が2017年12月に成立した。

本改正税法は、米国企業が特に海外から雇用と利益を取り戻すことを意図したものであり、法人税率の21%への引き下げ、全世界課税制度からテリトリアル課税制度(未配当原資累積額に対する一括課税を含む)への移行、課税標準の拡大、一定の要件を満たす資産の即時償却などが含まれている。

さらに本改正税法には、米国企業に対し米国外の利益に対するミニマム税を支払うことを求め、米国外の関連当事者への米国企業からの一定の支払いについて追加の税金を課すなど、一定の税金逃れ防止及び税源浸食防止に関する規則も盛り込まれている。

本改正税法は、法律が実質的に制定された期間から、企業の法人所得税に重要な影響を及ぼす。今回の米国大統領による法案への署名により、2017年12月22日を含む期間に実質的に制定されたことになる。したがって、本改正税法による影響を財務報告に認識及び開示するようその影響を分析し、実行計画を策定する必要がある。

IAS第12号「法人所得税」の規定

制定され又は「実質的に」制定されている

当期税金は、報告期間の末日までに制定され又は実質的に制定されている税率及び税法を参照して、税務当局に納付又は税務当局から還付されると予想される額で測定される(IAS第12号第46項)。繰延税金は、繰延税金が関連する資産及び負債が実現する又は決済される期に適用されると予想される、報告期間の末日までに制定され、又は実質的に制定されている税率及び税法を参照して測定される(IAS第12号第47項)。米国では、大統領が法案に署名する、又は大統領の拒否権を覆すだけの上下両院での得票が得られている時点で、税法が(実質的に)制定されたことになる。

今回の改正税法は、2017年12月31日以前に(実質的に)制定されたため、暦年と同じ会計年度を採用している企業は、2017年度の財務諸表において当期及び繰延税金資産・負債を測定するにあたり、新たな税法(たとえば、新たな税率)を適用することになる。

IAS第12号にはこの規定に関する免除措置は設けられておらず、複雑な法律が年末直前に(実質的に)制定された状況であっても、新たな税法を適用する。財務諸表を作成する際には、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って、財務諸表の発行が承認された時点で入手可能であり、かつ、財務諸表を作成し表示する際に入手・検討できたと合理的に予想できた信頼性の高い情報を使用することになる。

留意すべき本改正税法の特別な項目

米国外子会社の未配当原資累積額に課される税金

IAS第12号第39項は、国内外を問わず、子会社、支店及び関連会社に対する投資並びに共同支配の取決めに対する持分に係るすべての将来加算一時差異について、繰延税金負債を認識することを定めている。ただし、以下の両方の要件が満たされる場合は除かれる。

  • 親会社、投資者、共同支配投資者又は共同支配事業者が、当該一時差異を解消する時期をコントロールすることができる。
  • 予測可能な期間内に当該一時差異が解消しない可能性が高い。

本改正税法により、現在のところ米国の法人所得税が課されていない米国外の利益に対し、米国で未課税の未分配原資累積額を基準として、移行時の一括課税がなされる可能性がある。したがって、移行時の一括課税から生じる税務への影響を想定して対処する必要がある。

繰延税金の変動のバックワード・トレーシング

IAS第12号第61A項に従って、同一の期間又は異なる期間に純損益の外で会計処理される項目に関する税金には、以下が求められる。

  • その他の包括利益で会計処理される項目に関係する場合には、その他の包括利益に認識する。
  • 資本に直接認識される項目に関係する場合には、資本に直接認識する。

税効果の会計処理(計上区分)に関して、過去の関連する取引の会計処理(計上区分)を考慮するこのような規定は、一般的に「バックワード・トレーシング」とよばれる。当期及び繰延税金が新たな税法によって変動する場合、IAS第12号は、その影響を最初に税金を生じさせた項目、つまり、純損益、その他の包括利益及び資本の項目のそれぞれに帰属させるべきことを定めている。たとえば、前期にすでに認識されている繰延税金資産及び負債に対する税率変更による再測定の影響は、当該規定に従って認識される。

不確実な税務上のポジション

国際会計基準審議会(IASB)は2017年6月に、IFRIC第23号「法人所得税務処理に関する不確実性」を公表した。同解釈指針は、2019年1月1日以降開始する年度から適用される(早期適用は認められる)。

IFRIC第23号は、特定の取引又は状況に対する税法の適用に不確実性が存在する場合を取り扱っている。税法に従って特定の税務処理が認められるか否かは、関連する税務当局又は裁判所が将来決定を下すまで判明しない場合がある。その結果、特定の税務処理に対する税務当局の異議又は調査が、当期又は繰延税金資産・負債の会計処理に影響を及ぼす可能性がある。

IFRIC第23号は未だ強制適用されておらず、また税法の変更を取り扱うために特別に開発されたものではない。しかし、法律の変更により生じる税務上のポジションに関する不確実性を会計処理する際に採用できる有用なガイダンスを提供している。

開示

以下の情報を開示する必要がある。

  • 税率の変更又は新税の賦課に係る繰延税金費用(収益)の額(第12号第80項(d))
  • 前期と比較した適用税率の変動の説明(第12号第81項(d))
  • IAS第1号「財務諸表の表示」第122項及び第125項から第129項で求められる判断、仮定及びその他の見積りに関する情報
  • 不確実性が存在する税務処理を税務当局が認める可能性が高い場合には、IAS第12号第88項を適用して、税金関連の偶発事象の開示を判断する

期中財務諸表

企業の会計年度が暦年ではなく、たとえば年度末が3月31日であるため、2017年12月31日が第3四半期末にあたる場合には、IAS第34号「期中財務報告」を適用することになる。IAS第34号では、期中報告期間の税金費用は、年間の予測利益総額に適用されるであろう税率(見積平均年次実効税率)を期中報告期間の税引前利益に適用して計算することとされている。この見積平均年次実効税率は、期中報告期間の末日に(実質的に)制定されている税率又は税法を考慮することになる。本改正税法は、2017年12月31日以前に(実質的に)制定されたため、2017年12月31日を末日とする期中報告において、新たな税法の影響を期中報告期間の税金費用の計算に加味する必要がある(IAS第34号第B13項)。

また、期中報告期間の末日において、翌会計年度以降に実現又は決済される繰延税金資産及び負債を測定するにあたっても、本改正税法による税率及び税法の変更による影響を考慮することになる。当該影響については、当該期中報告期間に全額認識する方法と、見積平均年次実効税率の見積りに織り込むことで認識する方法が考えられる。

期中財務報告においても、以下の情報を開示することが求められており、必要に応じて年次報告と同様の開示が求められる。

  • 当事業年度の過去の期中報告期間に報告された金額の見積りの変更又は過去の事業年度に報告された金額の見積りの変更の内容及び金額(第34号第16A項(d))
  • 当期中報告期間に係る期中財務諸表に反映されていない期中報告期間後の事象(第34号第16A項(h))

現時点で企業が行うべきこと

計画の立案

新たな税法が2017年末までに(実質的に)制定されたが、その影響を判断する時間は限られている。したがって、財務報告への潜在的な影響に対応する計画の立案を開始する必要がある。

企業は、新たな法人税率、移行時の一括課税、特定資産の即時償却、既存の租税属性の変更や内部統制の変更の必要性などの項目に対処するために、財務及び税務部門が一体となって正式な計画の立案を開始する必要がある。

本改正税法により、税法が著しく変更され、長期にわたる過去のデータの収集が必要となり、事業の組織形態に影響を及ぼす可能性が生じる。一方でこの評価を行うための時間は限られているため、その影響の複雑性を検討しておく必要がある。

プロセス及び内部統制の変更

企業は、財務報告に関するシステム、プロセス及び内部統制の変更についても検討する必要がある。それには、新たな税法に移行する際に必要な情報を収集し、新たな税法に従って法人所得税を計算するためのシステム及びプロセスを適切に構築することが求められる。

また、(実質的な)制定の後の、新税法への移行や税金計算の会計処理に及ぼす影響が財務諸表に正確に認識されるように、内部統制を設計することも必要になる。留意しなければならない主要な項目としては、移行時の一括課税、制定後の外部一時差異の追跡、一時差異の解消の時期、繰延税金資産及び繰越欠損金の回収可能性の評価、ミニマム税や物品税の計算などが挙げられる。

弊社のコメント

企業は本改正税法に沿ったモデル作成を進め、新たな税法が財務報告へ与える影響を認識し開示できるよう準備を進める必要がある。

さらに改正税法の影響を理解し、財務報告に関するシステム、プロセス及び内部統制を変更する必要性を評価する以外にも、税法の変更から生じるリスク及び不確実性に関しても必要な開示が行えるように準備されたい。

※ 当該Developments132翻訳「改訂」版は、米国大統領による法案署名前の状況で作成された英語版Developments132を基にしているが、米国大統領による法案への署名の事実を踏まえて改訂している。

関連資料を表示

  • 「IFRS Developments 第132改訂号 2017年12月」をダウンロード

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