IASBが負の補償を行う期限前償還要素を有する金融商品の測定に関するIFRS第9号の修正を提案

2017年6月7日 PDF
カテゴリー 金融商品

重要ポイント

  • EDは、一定の状況で、オプションを行使する当事者に補償が支払われる期限前償還要素を有する負債性金融商品が、償却原価又はその他の包括利益を通じて公正価値での測定に適格となるように提案している。
  • 修正はまた、負債性金融商品の現在の公正価値での期限前償還は、合理的な補償とみなされないことを明確化している。これは、貸手のみが契約の早期終了に関し補償される場合にも適用される。

概要

国際会計基準審議会(IASB)は、2017年4月21日に公開草案(ED)「負の補償を行う期限前償還要素」(IFRS第9号修正案)を公表した。

EDは、オプションを行使する当事者に補償が生じる期限前償還要素を有する一定の金融資産が償却原価又はその他の包括利益を通じて公正価値での測定に適格となるよう、IFRS第9号「金融商品」(IFRS第9号)の限定的修正を提案している。

本修正は、IFRS第9号と同様、2018年1月1日以後開始する事業年度から適用され、遡及適用が義務付けられる。IFRS第9号が全体に早期適用される場合には本修正の早期適用も認められる。

背景

IFRS第9号では、負債性金融商品は契約上のキャッシュ・フローが「元本及び元本残高に対する利息の支払いのみ」となり(SPPI要件)、その分類上適切となるビジネスモデルに沿って保有されていることを条件に、償却原価又はその他の包括利益を通じて公正価値で測定することができる。

IFRS第9号は1、契約の早期終了を認める契約条件がSPPI要件を満たすか否かについて示しており、期限前償還金額が実質的に元本及び利息の未払金額(そこには契約の早期終了に対する合理的な追加の補償も含まれる)を表す場合のみ、当該オプションはSPPI要件を満たすとされている。これは、一般的にSPPI要件を満たすためには、補償又は期限前償還ペナルティはオプションを行使する当事者がもう一方の当事者に支払わなければならない、そうでない場合の支払いは補償にはならないということを意味すると解釈されている。

IFRS解釈指針委員会(IFRS IC)は最近、契約条件により借手が元本及び利息の未払金額を上回るもしくは下回る可能性がある変動金額で負債性金融商品の期限前償還を行うことを認められる場合、当該負債性金融商品はSPPI要件を満たすか否かという質問を受けた。特に、IFRS ICは、負債部分が以下のいずれかを反映する金額で支払われる期限前償還要素を有する金融商品について検討するように要請された。

  • 現在の市場金利で割り引かれる契約上の残存キャッシュ・フロー(対称的な(symmetrical)期限前償還)
  • 金融商品の現在の公正価値での期限前償還(公正価値での期限前償還)

現在の市場金利が負債性金融商品の実効金利より高い場合、借手の期限前償還は、元本及び利息の未払金額より小さくなる。従って、この場合、借手が負債性金融商品の期限前償還を選択する場合でも、貸手が実質的に金利の増加分を借手に補償することになる。

IFRS ICは、契約の解除を選択する当事者がある金額を支払うのではなく受取る場合、すなわち「負の補償」が存在することになる場合は、IFRS第9号の条件を満たさないことを確認した2。しかし、IFRS ICは、負の補償の支払いがあるとしても、償却原価での測定は期限前償還要素を有する一定の金融商品に関して有用な情報を提供するということに言及した。

1: IFRS第9号B4.1.11(b)
2: IFRS第9号B4.1.11(b)

対称的な(symmetrical)期限前償還

IASBは、多くの国や地域で本来であれば「単純な」負債性金融商品となるはずの法人向け融資や個人向け住宅担保ローンに関し対称的な(symmetrical)期限前償還要素が幅広く見られることに懸念を抱いていた。

従って、IASBは、対称的な(symmetrical)期限前償還オプションを有するが、当該オプションが存在しなければ単純な負債性金融商品とみなされる一定の金融商品については、SPPI要件が満たされるようIFRS第9号の限定的な修正を提案している。

修正は、そうした負債性金融商品が以下の2つの条件を満たす場合に、SPPI要件を満たすことを提案している。

  • 契約を期日前に終了することを選択した当事者が、そうすることに対し合理的な追加の補償を得るということのみが理由で、期限前償還金額がIFRS第9号の条件を満たさなくなる3
  • 企業が取引を当初認識する時点において、期限前償還要素の公正価値が僅少である

IASBは、今回の修正により、IFRS第9号に規定される「キャッチアップ修正」の適用の頻度が多くなりすぎるのではないかと懸念し、上記の2つの条件のうち2番目の条件を盛り込むことで、修正の適用範囲を限定的にすることとした4。同項は、当初の実効金利はそのまま変更せずに維持しつつ、金融資産の帳簿価額を、純損益を通じて計上される契約上のキャッシュ・フローの見積りへの修正が反映されるよう調整することを求めている(これは、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」における調整と同じである)5

IASBは、キャッチアップ修正の頻度が大幅に増加すると、それは、金利を関係する期間に配分するための単純な技法としての実効金利法の目的に合致しなくなると考えている。

従って、期限前償還(従って「負の補償」)が発生する可能性が低い場合にのみ、当該修正は適用されるべきであるとするために、2番目の条件を設けて、その適用範囲を限定的にしている。期限前償還オプションの行使の可能性が低いということを反映する単純明快な方法として、僅少な公正価値(時間価値を含む)が用いられている。それは、僅少な公正価値を有する期限前償還オプションは、行使される可能性が低いためである。

IASBは、EDの結論の根拠で、関係する金利の変動のみを理由に契約の当事者への補償を行う期限前償還要素を有する金融商品は、常に僅少な公正価値を有している訳ではないと指摘している。そうした期限前償還金額は、金融商品の現在の公正価値に等しくなる期限償還金額とは異なる。それは、金利の一部分のみの変動に関する補償を反映することになり、期限前償還が発生する可能性が低い場合を除き、その公正価値は僅少ということにはならないためである。

さらに、結論の根拠は、今回の修正により金融商品が、IFRS第9号の新しい例外措置及び既存の例外措置の両方の条件を満たすようになることはないと強調している6。よって、額面金額より高いもしくは低い金額で取得又は組成されるが、いかなる時点であっても額面にそれまでに発生している利息を加えた金額で期限前償還を行うことができ、期限前償還金額に負の補償が含まれる金融商品は、純損益を通じて公正価値で測定することになる。

EDは、企業が当初認識時に期限前償還オプションの公正価値を算定することが実務上不可能な場合、提案される例外措置は考慮に入れずにSPPI要件を評価しなければならないと提案している。

3: IFRS第9号B4.1.11(b)
4: IFRS第9号B5.4.6
5: IAS第39号「金融商品:認識及び測定」AG8項
6: IFRS第9号B.4.1.12

弊社のコメント

期限前償還オプションの公正価値は僅少といえるかどうかの判断は、当該オプションが付いていない金融商品との比較を基に行う。

オプションの公正価値は、行使の制限や借手の行動など、市場参加者がオプションの価格設定で考慮する要因を織り込むものでなければならない。例えば、転居の際に、当事者双方が契約の解除に合意している場合にのみ期限前償還を行うことができる場合には、住宅担保ローンの期限前償還オプションの公正価値は、重要とはならない可能性が高い。

期限前償還金額が金融商品の公正価値に基づく場合も期限前償還オプションの公正価値は小さくなる。しかし、次のセクションで説明しているように、それでSPPI要件が満たされるということにはならない。

期限前償還オプションの公正価値が僅少とはいえない場合、又は金融商品が額面より高く又は低く取得あるいは組成される場合には例外措置が適用されることはないことを考えると、IASBが意図するように、例外措置は限られた範囲でしか適用されないということになる。

公正価値での期限前償還

EDの結論の根拠は、関係する市場の市場金利の変動の影響(「失われた金利」)を反映する補償で、IFRS第9号で受け入れられるキャッシュ・フロー金額とは異なる契約上のキャッシュ・フロー金額が導入されることはないと明確に説明している7

その一方で、結論の根拠は、借手が現在の公正価値で金融商品の期限前償還を行うことを認める期限前償還オプションは、基本的な融資の取決めと整合しないと述べている。それは、潜在的に負の補償を生じるということとは別にして、保有者は金融商品の公正価値の変動にさらされることになるが、そうしたエクスポージャーに由来する契約上のキャッシュ・フローはSPPIではないためである。従って、そうした金融商品は純損益を通じて公正価値で測定されることになる。

IASBはまた、その結論の根拠で、関連するヘッジ手段を解消するための公正価値ベースのコストが含まれる金額で期限前償還が可能になる資産でも、保有者は、SPPIではない契約上のキャッシュ・フローを結果としてもたらすことになる要因にさらされることになると述べている。

7: IFRS第9号B.4.1.11(b)

弊社のコメント

結論の根拠で示されている見解は、期限前償還金額が対称的(symmetrical)であるかどうかに関わらず、現在の公正価値で期限前償還が可能とされる金融商品に影響を及ぼす。負の補償が存在しなくとも、公正価値で期限前償還が可能になる金融商品は純損益を通じて公正価値で計上しなければならない。

EDは、期限前償還金額が関連する市場金利の変動の正味現在価値を反映する場合には、金融商品は引き続き償却原価で計上する要件を満たす、と述べている。「基準金利(ベンチマーク・レート)」が例に挙げられているが、この用語には通常、信用リスク及び流動性に関するプレミアムも含まれており(この点は同様の契約のリターンに言及する結論の根拠の他の部分で示されている)、今回この用語がなぜ使われているのか明確でない。金融商品の公正価値を決めるのは市場金利であるということを考えると、なぜIASBが、借手が現在の公正価値で期限前償還を行うことを認めるオプションを含む金融商品はSPPIではないと考えるのかが明確ではないと我々は考えている。

その一方で、結論の根拠は、関連するヘッジ手段を解消するための公正価値を含む金額で期限前償還が可能になる金融資産は、期限前償還要素が基本的な融資の取決め(IFRS第9号に定義)に整合するのであれば、引き続き償却原価での測定に分類されると述べている8。IASBの主な懸念は、契約の両当事者の信用度をはじめ、市場金利以外の要因を公正価値が反映するヘッジ手段にあるように思われる。そのような場合には、へッジ手段が全額担保設定された金利スワップであるとすれば、期限前償還オプションがSPPI要件を満たす可能性は非常に高くなる。

8: IFRS第9号B4.1.11(b)

次のステップ

コメント募集期限は2017年5月24日である。我々は、利害関係者が今回の改訂案に関しIASBにコメントを提供することを推奨する。

関連資料を表示

  • 「IFRS Developments 第125号 2017年4月」をダウンロード

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