IASBがIFRS第2号の改訂を公表

2016年7月7日 PDF
カテゴリー その他のIFRS基準

重要ポイント

  • IASBは2016年6月20日、特定の株式報酬取引の分類及び測定にみられる実務上のばらつきを解消するためにIFRS第2号の3つの改訂を公表した。
  • 改訂の範囲は狭く、株式報酬取引の分類及び測定のうち特定の分野が対象となっている。
  • 本改訂の発効日は2018年1月1日である。企業は過年度の修正再表示を行わずに当該改訂を適用しなければならないが、企業が3つの改訂すべてについて遡及適用することを選択し、その他の要件も満たされる場合には、遡及適用が認められる。

概要

国際会計基準審議会(IASB)は、株式報酬取引の分類及び測定に関するIFRS第2号「株式に基づく報酬」の改訂を公表した。本改訂は、以下の3つの分野に見られる実務上のばらつきを解消することを意図するものである。

  • 権利確定条件が現金決済型の株式報酬取引の測定に与える影響
  • 源泉徴収義務に関し純額決済の要素を有する株式報酬取引の分類
  • 条件変更により、株式報酬取引の分類が現金決済型から持分決済型に変更になる場合の会計処理

現金決済型の株式報酬取引を測定する場合の権利確定条件

IFRS第2号は、現金決済型の株式報酬取引から生じる負債を評価する場合には、当該現金決済型の株式報酬取引の条件を考慮しなければならないと定めている。しかし、持分決済型の株式報酬と異なり、権利確定条件以外の条件及び株式市場条件の取扱いと、株式市場条件以外の権利確定条件の取扱いとを区別すべきか否かに関する具体的なガイダンスは定められていない。

ガイダンスが存在しないことにより、株式市場条件以外の業績条件を伴う現金決済型の報酬に関し、実務上、以下の2つのアプローチが適用される結果となっている。

  • IFRS第2号の適用ガイダンス(IG)の設例12にみられる勤務条件の処理を類推適用し、(持分決済型の株式報酬のように)公正価値の計算からは当該権利確定条件を除外するが、権利確定日までは当該権利確定条件の結果に関する最善の見積りを基に負債を算定するアプローチ
  • 公正価値の計算に勤務条件以外の条件の見積結果を織り込むアプローチ

本改訂により、現金決済型の株式報酬に関しては、上述した2つのアプローチのうち最初のアプローチに従わなければならないということが明確になる。特に以下の点が明確化される。

  • 現金決済型の株式報酬取引の履行の条件となる権利確定条件(勤務条件及び株式市場条件以外の業績条件)は、測定日時点の現金決済型の株式報酬の公正価値を見積もる場合には考慮してはならない。その代わり、それらの条件は、取引から生じる負債の測定に含められる報酬の数を調整することによって考慮に入れる。
  • 企業は、権利確定期間に受領した財又はサービスに関する金額を認識する。金額は、権利確定が見込まれる報酬の数の最善の利用可能な見積りを基に測定する。事後的な情報により権利確定が見込まれる報酬の数が従前の数と異なることが判明した場合、企業は見積りを修正する必要がある。企業は権利確定日に、最終的に権利が確定する報酬の数と同じになるように見積りを修正する。
  • 付与された現金決済型の株式報酬の公正価値を見積もる際には、株式市場条件及び権利確定条件以外の条件を考慮に入れる。当該条件はまた、各報告期間末時点及び決済日時点で公正価値を再測定する場合にも考慮する。
  • 現金決済型の株式報酬の対価として受領された財又はサービスに関し最終的に認識される累計額は、支払われる現金の額に等しくなる。

なお、IFRS第2号のIGには、新たに設例12Aが追加されている。

源泉徴収義務に関し純額決済の要素を有する株式報酬取引の分類

多くの国の税務当局は、従業員のストック・オプションその他の株式報酬取引に関し、従業員個人に納税義務が生じる税金を課している。この際、雇用主が、従業員の代わりに支払われるべき税金を源泉徴収し、税務当局に納めることを求められる場合がある。

本改訂は、株式報酬に関連して生じる従業員の納税義務を満たすために一定金額を源泉徴収する企業の義務が税法もしくは規則に定められ、その義務を果たすために純額決済の取決めが設計されるという限られた状況でのみ適用される。通常、企業は当該金額を従業員に代わり現金で税務当局に移転する。この義務を果たすために、株式報酬に関する取決めの条件において、株式報酬の行使時(又は権利確定時)に従業員に発行されるはずの資本性金融商品の総数から、従業員の納税義務の貨幣価値に等しくなる資本性金融商品の数を控除する(以下、「純額株式決済の特性」という)ことを、企業に認める又は義務付ける場合がある。

IASBは、現行のIFRS第2号第34項の規定では、純額株式決済の特性を有する株式報酬取引は、持分決済型部分と現金決済型部分とに区分しなければならないことを確認した。その上で、各部分はそれぞれに応じた会計処理がなされる。しかし、IASBは結論の根拠で、これは財務諸表作成者にとって著しい適用上の負担になり、2つの構成要素に区分する便益以上にコストがかかると指摘している1。そのため、IASBは、一定の条件が満たされる場合には、取引を2つの構成要素に区分する規定を適用しなくても済むようにするために、IFRS第2号の当該規定に例外措置を設けることを決定した。したがってIFRS第2号第34項の規定の例外措置では、純額株式決済の特性が存在していなければ持分決済型の株式報酬取引に分類されることになる取引は、全体が持分決済型の株式報酬取引に分類されることになる。株式報酬に関連して生じる従業員の納税義務に関し、税務当局への支払いの資金に充てるための株式の控除は、IFRS第2号第29項を適用して会計処理する。これにより、当該支払いが控除された資本性金融商品の純額決済日時点の公正価値を上回る部分を除き、実際の支払額は控除された株式にかかる資本からの控除として会計処理される。

この例外措置は、企業が現在のIFRS第2号の規定に従って株式報酬取引を持分決済部分と現金決済部分とに区分しなければならない場合に企業に生じる適用上の負担を緩和するためのものである。しかしIASBは、本改訂は、税法や規則により企業が源泉徴収義務を課せられるという、上述のとおりの限られた状況でのみ適用されるということを明確にしている。したがって本改訂は実質的に、非常に具体的な例外措置であるといえる。

税務当局への支払いに充てるために株式を控除することにより、実際に支払われる金額と株式報酬として測定される金額との間に大きな差異が生じる可能性がある。IASBは、株式報酬に関連して生じる将来のキャッシュ・フローへの影響について利用者が理解するのに必要となる場合には、企業は税務当局への移転が見込まれる見積金額を開示しなければならないと決定した。しかし、IASBは、当該見積りを算定する基礎については定めていない2

なお、IFRS第2号のIGには、新たに設例12Bが追加されている。

弊社のコメント

実務にごく普通にみられるその他の種類の取決めの中にも、実質的には本改訂の対象となる納税義務に関する取決めに類似するものが存在すると考えられる。たとえば株式報酬に関する取決めの条件の中には、相手方当事者は、納税義務を満たすのに十分となる株式を放棄しなければならないと定めるものもあれば、税金負債の決済に必要な現金を調達するために、相手方当事者が株式を控除するかどうか、及び(又は)株式を直接売却するかどうか選択するケースもある。しかし、IASBは、本改訂は、純額株式決済に関する取決めが税法又は規則による企業の納税義務から生じる場合以外には適用されないということを明確にしている。

報酬の一部が現金決済型報酬として扱われるのか、もしくは本例外措置の適用範囲内となるかどうか、及び、適用範囲内となる場合に全体を持分決済型として取り扱うことが適切かどうかを判断するにあたり、企業は純額株式決済に関する取決めを引き続き詳細に分析する必要がある。

1:IFRS 第2号BC255J項
2:IFRS第2号BC255L-BC255M項

現金決済型から持分決済型へ分類が変更される条件変更

IFRS第2号は、株式報酬の分類が現金決済型から持分決済型に変更になる条件変更に関する具体的なガイダンスを定めていない。そのため、条件変更日時点の現金決済型報酬の公正価値と持分決済型報酬の公正価値の差異の認識にあたっては、実務上数多くのアプローチがみられる。差異を即時に認識するアプローチもあれば、残りの権利確定期間にわたり増分価値を認識していくアプローチもある。

IASBは本改訂において、現金決済型の報酬取引の条件が変更され、その結果それが持分決済型の報酬取引に分類される場合、取引は条件変更日から持分決済型として会計処理するということを明確にしている。

具体的には、

  • 持分決済型の株式報酬取引は、条件変更日時点で付与される資本性金融商品の公正価値を参照して測定し、条件変更日において、財及びサービスを受け取っている部分を資本に認識する。
  • 条件変更日時点の現金決済型の株式報酬取引に係る負債は、同日時点でその認識を中止する。
  • 条件変更日における、認識が中止された負債の帳簿価額と資本に認識された金額との差額は即時に純損益に認識する。資本性金融商品の残りの公正価値は、持分決済型の取引の残りの権利確定期間にわたり認識する。

本改訂では、条件変更の結果、権利確定期間が延長又は短縮される場合、当該規定の適用は条件変更後の修正された権利確定期間を反映するものでなければならないこと、及び、条件変更が権利確定期間の後に生じても、当該規定は適用されるということも明確化されている。

本改訂は重要である。というのも本改訂により、条件変更の結果、条件変更日における認識が中止された負債の帳簿価額と資本に認識された金額との間に差額が生じる場合、当該差額は即時に純損益に認識しなければならないということが明確になるからである。つまり、増分公正価値を借方計上するだけでなく、企業は条件変更後の報酬の公正価値が、条件変更日時点の現金決済型の報酬の公正価値を下回るような状況では差異を即時に貸方計上することになることとなる。IASBは結論の根拠で、報酬の権利が確定した部分について、公正価値の差異を純損益に即時に認識することは、現金決済型の株式報酬取引の一般的な測定規定に整合すると述べている。さらに、それは、資本性金融商品の発行により完全に、また部分的に消滅する金融負債の消滅に関するIFRS第9号「金融商品」及びIFRIC第19号「資本性金融商品による金融負債の消滅」の規定にも整合すると述べている3

なお、IFRS第2号のIGには、新たに設例12Cが追加されている。

弊社のコメント

改訂前であれば、企業は、(持分決済型株式報酬の条件変更の場合のように)条件変更により生じる増分費用のみを認識し、純損益への即時の貸方計上は行っていなかったかもしれない。また、企業は条件変更日時点で差異を即時に認識するのではなく、報酬の権利確定部分に関する増分価値を、(条件変更後の)残りの権利確定期間にわたり均等に認識するという方針を採用していた可能性もある。そのような場合、企業は、本改訂の適用後に実施される条件変更に関して会計方針を変更する必要がある。

3: IFRS第2号BC237H項

発効日及び経過措置

IFRS第2号の改訂は、2018年1月1日以降開始する年度から適用されるが、その旨を開示することを条件に早期適用も認められる。

改訂の適用に当たり、過年度については修正再表示をしない。より具体的には、

  • 権利確定条件が現金決済型の株式報酬に与える影響及び源泉徴収義務に関し純額決済の特性を有する株式報酬の分類に関する改訂は、企業が本改訂を当初適用する日において権利が未確定もしくは確定はしているが未行使の株式報酬取引、及び付与日が改訂の当初適用日以降となる株式報酬取引に適用する。
  • 現金決済型から持分決済型に分類が変更される株式報酬取引の条件変更に関する改訂は、企業が改訂を最初に適用する日以降に発生する条件変更にのみ適用する。

ただし、企業は事後的な判断に頼る必要がない場合に限り、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従い、IFRS第2号の第53項から59項の経過規定に準拠して、IFRS第2号の改訂を遡及適用することを選択できる。遡及適用を選択する場合には、企業は3つの改訂すべてについて遡及適用しなければならない。

関連資料を表示

  • 「IFRS Developments 第121号 2016年6月」をダウンロード

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