2016年4月に開催されたFASB TRGの収益に関する会議のIASBへの内容報告

2016年6月3日 PDF
カテゴリー 収益認識

重要ポイント

  • IASBは2016年5月の会議で、2016年4月に行われたFASB TRGの会議内容について口頭での説明を受けた。
  • FASB TRGは2016年4月の会議で、重要な権利、一定の期間にわたり充足される履行義務及び契約資産といった3つの適用上の課題を議論した。これらは、IFRSの会計処理においても関連する。
  • TRGメンバーのうちIFRS関係者は、2016年4月の会議に参加しなかったが、IASBメンバー及びそのスタッフがオブザーバーとして会議に参加した。

概要

国際会計基準審議会(IASB)は2016年5月の会議で、2016年4月18日に開かれた米国財務会計基準審議会(FASB)の収益認識に関する移行リソース・グループ(FASB TRG)の会議の内容について口頭で説明を受けた。2016年4月の会議でFASB TRGは5つの適用上の課題について議論した。そのうち3つはIFRSとUS GAAPの両方に関係するものであった。重要な権利の会計処理に関する質問については、FASB TRGのメンバーの見解にばらつきが見られたが、一定の期間にわたり充足される履行義務と契約資産については全般的な合意が得られた。US GAAPにのみ関係する残り2つの課題は、アセット・マネージャーと金融機関に対する報酬の適用範囲に関するものであった。

本稿では、FASB TRGが2016年4月に議論したトピックのうちIFRSに関係するトピックについてその概要を示し、IASBメンバーやスタッフがコメントしている場合にはその内容についても説明する。

IASBとFASB(総称して「両審議会」)は、新たな収益認識基準2についてさらなる適用指針が必要かを判断する際の一助となること及び、関係者の教育を目的として、収益認識に関する合同移行リソース・グループ(TRG)を創設した。合同TRGは2014年から2015年にかけて6回の会議を開いた。そこで議論された論点のいくつかに対処するため両審議会はそれぞれの基準を改訂した。

2016年1月時点でIASBは、TRGのIFRS関係者によるさらなる会議を開催する予定はないが、FASB TRGの議論については継続してモニターしていく予定である。

TRGメンバーの見解は強制力を有するものではないが、企業は新たな収益認識基準1を適用する際には当該見解を考慮すべきである。米国証券取引委員会(SEC)の主任会計士、James Schnurr氏は、SEC登録企業は基準の適用に向けてTRGの議論及び議事録を利用することを期待されており、(IFRS適用の可能性がある)外国民間証券発行者を含む登録企業が、TRGの見解とは異なる会計処理を採用したいと考える場合は、その会計処理についてSECスタッフと協議することを強く勧めていると述べた2

1: IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」及び米国会計基準(ASC)第606号「顧客との契約から生じる収益」
2: 2016年3月22日のJames V. Schnurr氏の講演については、SECのウェブサイトを参照されたい。

重要な権利の存在に関する評価における「顧客の階層」の検討

追加の財又はサービスを取得する顧客のオプション(例:将来のセールス・インセンティブ、ロイヤルティ・プログラム、更新オプション)が重要な権利を表すか否かを判断する際に、どのように企業は「顧客の階層」を考慮すべきか、FASB TRGのメンバーの見解にばらつきが見られた。FASB TRGのメンバーは、その決定に際しては、企業は重要な判断と、すべての事実と状況の検討が求められるということで概ね合意した。しかし、その判断方法については合意に至っていない。

新基準は、企業が追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に与える際、当該オプションにより、顧客が契約の締結なくしては受領することがないであろう重要な権利を提供される場合には、当該オプションは独立した履行義務になる(従って契約締結時点で収益を当該オプションに配分しなければならない)と定めている。たとえば、値引額が、ある地域又は市場において一定の種類の顧客に提供される財又はサービスに関する一般的な値引きを上回る場合、選択権は重要であるとされる。顧客が同じ財やサービスを同じ価格で入手する別個の契約を締結できるとしたら、当該オプションは重要な権利を提供することにはならない。

この決定のいくつかの側面に関し、FASB TRGのメンバーの見解にはばらつきが見られた。たとえば、どのような状況で、「顧客の階層」の識別が求められるのか、どのような顧客が類似の顧客の階層を適切に構成することになるのかについて見解が分かれた。また過去の購入が重要な権利の決定にどのように影響するかについても、その考えに隔たりがあった。FASBスタッフはこの課題に関するスタッフ・ペーパーで、顧客のオプションが重要な権利を提供するか否かを評価する際に顧客の階層をどのように考慮すべきか、FASBの見解を説明するための4つの例を示した。これらの例示のいくつかは、FASB TRGのメンバーにより議論されたが、適用指針に関するオープンな質問であったため、TRGメンバーがこれらの例示について合意したかどうかは定かでない。

FASBスタッフは次のステップとして、当該論点が旅行及びエンターテインメント業界の多くの企業にとって重要な適用上の課題であることから、同業界の利害関係者を会議に招集し、議論を深める予定である。

弊社のコメント

顧客のオプションが重要な権利を表すかどうかを判断するには重要な判断が求められる。したがって弊社はこの論点に関する議論が継続されることを支持する。この決定は、契約締結時と契約期間全体の会計処理及び開示に影響を及ぼすことから重要である。

FASB TRGの全般的合意事項

一定の期間にわたり充足される履行義務に関し、どのように支配が移転するかの評価

新基準では企業は、履行義務の充足(すなわち収益認識)が一定の期間にわたるのか、それともある一時点なのかを契約の締結時点で判断しなければならない。履行義務が一定の期間にわたり充足されると判断する場合、企業は新基準に従って、履行に応じて収益を認識するために、財又はサービスを移転する際の企業の履行の状況を適切に表す単一の進捗度の(インプット法、アウトプット法のいずれかを用いる)測定方法を選ばなければならない。

FASB TRGのメンバーは、履行義務が、収益が(一時点ではなく)一定の期間にわたり認識されるための要件を満たす場合、基礎となる財又はサービスの支配が、任意の時点で移転されることはないということで概ね合意した。支配は企業が履行した時点で移転されることから、(適切な進捗度の測定方法を用いて表される)企業の履行の結果として資産(例:仕掛品)が創出されることはない。

新基準は、「達成したマイルストーン」をはじめ複数のアウトプット法が、一定の期間にわたり充足される履行義務の充足の進捗度を測定するための方法として許容される可能性があると説明していることから、利害関係者は、一定の期間にわたり充足される履行義務の基礎となる財又はサービスの支配を任意の時点で移転することができるかどうかについて質問した。FASB TRGのメンバーは、進捗度の測定値がそれまでの企業の履行の度合いに連動する場合にのみ、企業はアウトプット法を用いることができるということで概ね合意した。

IASBスタッフは2016年5月のIASB会議で、どのような場合に達成したマイルストーンを進捗度の測定方法として用いることができるかがある程度明確化されたとし、この論点に関するスタッフ・ペーパーの結論を支持すると述べた。さらに、FASB TRG会議にオブザーバーとして参加したIASBメンバーは、このトピックに関する当該TRGの議論は有効であると述べた。

契約条件が変更される場合の契約資産の会計処理

新基準では、企業が履行義務を充足したときに、当該履行義務に関する収益を認識するが、このときに対価に対する無条件の権利を有していない場合は契約資産が創出される。例えば、企業が顧客に請求書を発行するためには、契約に定められる別の履行義務を充足していることが求められる場合などが考えられる。契約条件の変更が既存の契約を解約して新契約を創出したかのように取り扱われる場合、契約条件変更時に当該契約資産をどのように会計処理すべきか、利害関係者から質問があった。

FASB TRGのメンバーは、契約条件が変更される場合に存在する契約資産は、当該変更が既存の契約を解約して、新契約を創出したかのように取り扱われる場合であっても、新たな契約においても継続して認識するべきであるということで概ね合意した。

一部の利害関係者からは、古い契約が解約されたときには、当該契約に関連する残高を除去すべきであると示唆する場合があり、このような種類の条件変更時における、契約資産の適切な会計処理についても質問があった。

FASB TRGのメンバーは、そのような契約条件の変更における契約資産は、すでに移転された財又はサービスに関するものであって、将来移転されるであろう財又はサービスとは区別される財又はサービスの対価に対する権利に関係することから、条件変更があったとしても関連する契約資産を継続して認識することが適切であるということで概ね合意した。したがってそれまでに認識されていた収益が戻し入れられることはなく、顧客からの支払い期日が到来し、債権として表示される金額で継続して認識される。

次のステップ

FASBはFASB TRGのメンバーの会議を7月と11月に開催する予定にしている。IASBはFASB TRGの会議を引き続きモニターしていく。利害関係者は、IASB又はFASBのウェブサイトから議論すべき適用上の課題を提出することができる。

関連資料を表示

  • 「IFRS Developments 第120号 2016年5月」をダウンロード

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