欠損てん補の目的

経済環境が厳しい状況下、減資を行う企業が増加しているという報道がみられます。減資の目的には、資本金の額の減少により剰余金(その他資本剰余金)を生じさせることにより、剰余金の配当や自己株式の取得原資を確保することや、資本金の額の減少により発生したその他資本剰余金により欠損てん補(利益剰余金のマイナスをてん補)することなどがあります。また、資本金の額を1億円以下に減少することにより、税法上の中小企業者に係る特例の適用が受けられることを期待して行われるケースもあると思われます。

欠損てん補の手続と会計処理

会社法上、減資は、資本金の額を減少するという意味しかありません。株主に払戻しを行う場合は、資本金の額の減少の決議(会社法447条1項)と剰余金の配当の決議(会社法454条1項)を併せて行うことにより、また、欠損てん補を行う場合は、資本金の額の減少の決議(会社法447条1項)と剰余金の処分の決議(会社法452条)を併せて行うことになります。

資本金の額の減少により発生したその他資本剰余金により欠損てん補を行った場合の会計処理は、次のようになります。

資本金 XXX その他資本剰余金 XXX
その他資本剰余金 XXX その他利益剰余金
(繰越利益剰余金)
XXX

会社法上、資本金の額の減少と剰余金の処分は別個の規定ですので、資本金の減少額と欠損てん補額は同じ額でなければならないという制約はありませんし、両者の効力発生日を同じ日にしなければならないという制約もありません。しかし、実務上は、両者の金額が同額で、かつ、両者の効力発生日も同日とするケースが多いと思われます。

税務との関係

法人税法上、同じ株主資本の中での振替が行われているに過ぎず、株主に対する金銭等の払戻しもありませんので、何もなかったものとして取り扱われます。すなわち、資本金等の額および利益積立金額は変動せず、所得の金額にも影響はありません。ただし、申告調整が必要になります。

以下、資本金の額を1,000減少し、発生したその他資本剰余金の全額を欠損てん補に充てた場合の申告調整の方法を示します。

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在利益積立金額 当期の増減 差引翌期首現在利益積立金額
①-②+③
利益準備金        
         
資本金等の額     △1,000 △1,000
繰越損益金 △XXX △XXX 1,000
XX
XXX

(注)繰越損益金の欄は、会計上の繰越利益剰余金に一致させるのが基本です。会計上、繰越利益剰余金のマイナスが資本金の額の減少により生じたその他資本剰余金によりてん補されますので、繰越損益金の増加欄が1,000増加しますが、税務上は利益積立金額と資本金等の額との間の振替調整(プラス・マイナス1,000)を入れることにより、利益積立金額に変動がないことが表されます。

Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書
区分 期首現在資本金等の額 当期の増減 差引翌期首現在資本金等の額
資本金又は出資金 XXX   △1,000 XXX
資本準備金        
         
利益積立金額     1,000 1,000

(注)利益積立金額との間で1,000の振替調整が入ることによって、資本金等の額に変動が生じないことが表されます。

「差引翌期首現在利益積立金額」および「差引翌期首現在資本金等の額」にプラス・マイナス1,000の調整が残っていますが、これは会計と税務のルールの相違から生じたものであり、永久に解消しない差異であると考えられます。税効果会計の処理は不要です。

なお、無償減資の場合、法人税法上の資本金等の額に変動は生じませんが、法人住民税の均等割の税率区分の基準となる額の算定上、法人税法上の資本金等の額から欠損てん補額を減算することになります(地法23条1項4号の5イ(3))。外形標準課税の資本割に係る課税標準額の算定上も、同様に減算します(地法72条の21第1項3号)。

欠損てん補の上限額

企業会計上、資本剰余金の利益剰余金への振替は、企業会計原則で禁じられている「資本と利益の混同」に当たるため、原則として、認められていません。しかし、利益剰余金の額がマイナスである場合には、そのマイナスの範囲内でその他資本剰余金から利益剰余金に振り替えることは、資本と利益の混同に当たらないと解されており、認められています(※1)

このように利益剰余金のマイナスの範囲でその他資本剰余金をそのマイナスのてん補に充てることが認められますが、いつの時点のマイナスの額が基準になるかについては、確定した(直近の定時株主総会で承認を受けた)貸借対照表上の利益剰余金のマイナスの額が基準になります。したがって、当事業年度が欠損となることが予想されているケースにおいて、まだ確定していないその欠損の額まで見込んでその他資本剰余金からてん補することは認められない点に留意する必要があります。

また、利益剰余金のマイナスの額とは、利益準備金や任意積立金がある場合は、それらも含めたトータルの利益剰余金のマイナスの額であって、例えば利益準備金の残高があるにもかかわらず繰越利益剰余金をゼロにする欠損てん補は、その他資本剰余金からの振替により利益剰余金がプラスになるため、認められない点に留意する必要があります(※2)

  • ※1企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」61項
  • ※2利益準備金の残高があるにもかかわらず、繰越利益剰余金をゼロにする欠損てん補の決議を行い、その後当該決議の内容が企業会計基準に反することが判明し、その決議が無効である旨を適時開示した最近の事例 があります。
当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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