取締役の個人別の報酬等に係る決定方針 ~令和元年会社法改正への実務対応~

2020年7月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

令和元年会社法の改正

「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第71号、以下「改正会社法」といいます)が、令和元年12月11日に公布されました。公布の日から起算して1年6カ月を超えない日として政令で定める日から施行されます。本改正により、次に掲げる会社の取締役会は、「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項」(取締役の個人別の報酬等に係る決定方針)を決定しなければならないとされました(改正会社法361条7項)。

  • 監査役会設置会社(公開会社、かつ、大会社であるものに限る)であって、金融商品取引法24条1項に定める有価証券報告書の提出義務があるもの
  • 監査等委員会設置会社

改正の趣旨

このような規定が置かれたのは、取締役の報酬等が取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与するための重要な手段であることに鑑み、「取締役に対してどのような内容の報酬等を支払い、どのようなインセンティブを付与するか」という取締役の報酬等に係る方針が重要なものであると考えられるからです。

取締役会における決定が義務づけられたのは、改正会社法により社外取締役を置かなければならないとされた会社であり、取締役会に社外取締役が参加し、取締役会により取締役の職務の執行の監督を行うことが強く期待されている類型の会社といえます。取締役の報酬等の決定手続においても、社外取締役の関与を強めることが必要であるため、取締役会における決定を義務づけたものと説明されています※1

決定すべき事項

取締役の報酬等の決定方針の具体的内容については、今後公表される会社法施行規則で定められますが、以下のような項目が例示列挙されることが見込まれます。

① 各取締役の報酬等についての報酬等の種類ごとの比率(いわゆる報酬ミックス)に係る決定方針

② 業績連動報酬等の有無・その内容に係る決定方針

③ 取締役の個人別の報酬等の内容の決定の方法(代表取締役に決定を再一任するかどうか、任意の報酬諮問委員会を設置するか等を含む)に関する方針

多くの会社では、取締役全員に支給する報酬等の限度額を株主総会決議によって定めておいて、その限度額の範囲内で各取締役の報酬等の支給額を取締役会決議(または取締役の総意を前提として代表取締役)が決定しているものと思われます。今回の改正により、取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の方針を取締役会決議によって定めることが必要になります。

なお、取締役の報酬等の決定方針の決定を取締役に委任することはできない点に留意する必要があります。ただし、取締役会における決定に先立って、社外取締役を中心に構成される委員会等に対して任意に諮問を行うことは問題ないと解されます※2

また、改正会社法では、取締役報酬議案の提出に当たって、その報酬等を相当とする理由の株主総会における説明義務は、不確定額または非金銭である報酬等だけではなく、確定金額の報酬等も対象とするものとされました(改正会社法361条4項)。

事業報告における開示の充実

公開会社について、事業報告における会社役員の報酬等の開示の充実化が図られることになりました。今後公表される会社法施行規則で定められますが、以下のような項目が規定されることが見込まれます。

  • 報酬等の決定方針に関する事項(当該方針の決定方法、当該方針の内容の概要、当該事業年度に係る取締役の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものと取締役会が判断した理由等)
  • 報酬等についての株主総会の決議に関する事項
  • 取締役会の決議による報酬等の決定の委任に関する事項
  • 業績連動報酬等に関する事項
  • 職務執行の対価として株式会社が交付した株式または新株予約権等に関する事項
  • 報酬等の種類ごとの総額

従来の実務との関係

平成31年1月31日付で公布された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」により、有価証券報告書において、役員の報酬等の額またはその算定方法の決定に関する方針の内容および決定方法(方針を定めていない場合は、その旨)を記載するとされました。

取締役の報酬等の決定方針として、すでに一定の方針を定めている企業であっても、改正会社法を踏まえて、既存の方針で十分といえるのか、内容についての変更や拡充を行う必要がないのかどうかについて、取締役会において議論することも考えられます。

なお、改正会社法の施行前から取締役の報酬等の決定方針が定められていて、かつ、その方針が法務省令の内容を満たすものである場合は、改正会社法の施行後においてあらためて方針を決定し直す必要はないと考えられます※3

※1 「令和元年改正会社法の解説(Ⅲ)」(立案担当者による解説)旬刊商事法務No. 2224、P5。

※2 長島・大野・常松法律事務所「令和元年 改正会社法ポイント解説Q&A」日本経済新聞社、P112。

※3 「座談会 令和元年改正会社法の考え方」旬刊商事法務No. 2230、P21(竹林発言)。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

この記事に関連するテーマ別一覧

会社法

企業会計ナビ

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

一覧ページへ