株主総会資料の電子提供制度の創設

2020年5月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

会社法の改正

令和元年12月4日付で「会社法の一部を改正する法律」が成立し、同月11日付で公布されました。公布の日から起算して1年6カ月を超えない日として政令で定める日から施行されます。ただし、株主総会資料の電子提供制度の創設および支店所在地における登記の廃止については、公布の日から起算して3年6カ月を超えない日として政令で定める日から施行されます。

本稿では、株主総会の実務に影響の大きい、株主総会資料の電子提供制度の創設について解説します。

電子提供制度の概要

改正前は、株主総会資料は書面による提供が原則とされ、インターネット等による提供については、株主の個別承諾が必要であるとされていました。

会社法の改正により、株主総会資料を会社のホームページなどのWEBサイトに掲載し、株主に当該WEBアドレスを書面により通知した場合には、株主の個別承諾を得ていないときでも、株主総会資料を適法に提供したものとする制度(電子提供制度)の創設、および上場会社(振替株式発行会社)への義務づけがされました※1。議案の検討期間が現行よりも長く確保される点や、印刷・郵送に係るコストが削減される点が、主なねらいです。

株主総会参考書類、議決権行使書面※2、計算書類、事業報告および連結計算書類について、自社のWEBサイトに掲載する等の電子提供が可能とされます。ただし、株主から請求があった場合は、書面で提供する必要があります。

なお、電子公告とは異なり、情報の閲覧等について、パスワードを要求する等により、株主のみが当該情報の提供を受けることができるような状態に置くことも可能であるとされています(中間試案の補足説明3ページ)。

スケジュールの検討

電子提供を開始する日は、「株主総会の3週間前の日または招集通知発送日のいずれか早い日」とされています。なお、招集通知の発送期限は、改正前と同じ2週間前です。

従来よりも1週間以上早く対応しなければなりませんが、電子提供であるため、印刷・封入に係る作業時間を短縮できることになりますし、現在でも招集通知は株主総会の日の3週間前の日には校了しているのが通常ですので、スケジュールが一概にタイトになるとはいえません。

しかし、金融商品取引所の規則において、株主総会の日より3週間前よりも早期に開始するよう努める旨の規律を設ける必要があるとの附帯決議が付されている点に留意する必要があります。金融商品取引所の規則において、上場会社には電子提供の開始をさらに早期に行う旨の努力義務が定められる可能性は高いと考えられます。

新しい制度であるために、証券代行機関等の関係機関とよく確認をとって、スケジュールを検討することが考えられます。

電子提供措置の中断のリスク

サーバーのダウンやハッカーによる改ざんなどで仮に中断が発生した場合であっても、一定の要件を満たす場合は、電子提供措置の効力に影響はないと規定されました。ただし、株主総会の日までの中断の日数が3日以上となると、上記の要件を満たさないことになります※3

中断のリスクを低減するために、メインのWEBサイトのほかに、東京証券取引所のホームページ(TDnet)をサブ媒体として利用することが想定されていますが、東京証券取引所のホームページが正常に稼働していたかどうか、東京証券取引所のホームページにアップロードされたファイルが自社のホームページに掲載されていたものと同一であるかどうかについては、技術的に証明できる範囲が限られているとの制約が存在しているという見解があります。

中断のリスクをより低減するために、メインのWEBサイトのほかに、補助的に別のWEBサイトにも掲載する等の対応も検討の余地があります。仮にそのように対応する場合には、招集通知に補助のWEBサイトのアドレスも併記しておくことになります。

EDINETを使用して行う場合

有価証券報告書提出会社については、電子提供措置開始日までに電子提供措置の対象となる事項を記載した有価証券報告書の提出をEDINETにより行う場合は、電子提供措置をとることを要しないと規定されています。

この例外を適用するためには、電子提供措置の対象となる事項を記載した有価証券報告書を期限までにEDINETにより提出することが求められるのであって、単にEDINETを利用して電子提供措置をとることができるわけではありません。

この対応を行うためには、株主総会にかなり先立って有価証券報告書を提出する必要があるわけであり、定時株主総会の7月以降の開催の進展や有価証券報告書と会社法の開示書類との一体開示が今後実務にさらに浸透していかなければ、スケジュール的に難しいといえます。今後の制度の議論や各企業の動きを注視する必要があると考えられます。

適用時期

電子提供措置に関する規定は、公布の日から起算して3年6カ月を超えない範囲内において、政令で定める日とされました。

電子提供措置自体の施行はまだ先ですが、それに先立って取締役の報酬等、会社補償・D&O保険に係る事業報告の記載事項の拡充が行われるため、①印刷コストの軽減、②株主に電子開示に慣れてもらうという理由から、前もって電子開示の拡大を行っておくことも検討の対象になります。サーバーの増強等の問題にも配慮する必要があると思われます。

※1 電子提供については、定款の定めが必要ですが、改正法の施行日に上場会社である株式会社は、当該定款変更の決議をしたものとみなされます(整備法10条2項)。この場合は、定款変更に係る株主総会決議を省略することができます。

※2 議決権行使書面については、個人株主を想定した場合、書面で送付しないと議決権行使しない株主が一定数出てくると予想されるため、あえて書面で送付する対応も考えられます。

※3 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10%を超えないことが、電子提供措置が有効とされる要件に含まれています。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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