本人取引と代理人取引に係る法人税・消費税の取扱い

2020年2月3日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

本人取引か代理人取引であるのかの判断基準

収益認識会計基準では、他の当事者が顧客への財またはサービスの提供に関与している場合には、企業は、企業の役割が自ら特定された財またはサービスを提供することなのか(企業が本人なのか)、それとも、当該財またはサービスが他の当事者によって提供されるように手配することなのか(企業が代理人なのか)を判断しなければならないとされています。企業が本人であると判断される場合は収益を総額で認識し、企業が代理人であると判断される場合は収益を手数料部分だけ純額で認識することになります。

企業の役割が本人であるのか代理人であるのかを判定するために、企業は次の①および②の手順に従って判断します(収益認識適用指針42項)。

企業の役割を判断する手順

① 顧客に提供する財またはサービスを識別すること(例えば、顧客に提供する財またはサービスは、他の当事者が提供する財またはサービスに対する権利である可能性がある。)

② 財またはサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財またはサービスを企業が支配しているかどうかを判断すること

財またはサービスが顧客に移転される前に、当該財またはサービスを企業が支配しているかどうかを評価します。顧客に移転する前に企業が支配している場合には、企業は本人であると判断されます。しかし、企業が財に対する法的所有権を顧客に移転する前に獲得したとしても、当該法的所有権が瞬時に顧客に移転される場合には、企業は必ずしも当該財を支配していることにはなりません(収益認識適用指針45項)。すなわち、財に対する法的所有権が顧客に移転される前に、当該法的所有権を企業が一時的にのみ有している場合には、法的所有権を有したとしても、企業は必ずしも当該財を支配していることにはなりません。

判断に際しての指標

企業が財またはサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するに当たっては、例えば、次の①から③の指標を考慮します(収益認識適用指針47項)。

顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたって考慮すべき指標

① 企業が当該財またはサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること

② 当該財またはサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財またはサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること

③ 当該財またはサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること(ただし、代理人が価格の設定における裁量権を有している場合もある)

これらの指標は無関係に列挙されているわけではないと考えられます。財またはサービスが顧客に提供される前に、企業がその財またはサービスを支配しているのであれば、それを顧客に提供するという約束の履行に対して主たる責任を有しているのが通常であるし、顧客に提供される前において企業が在庫リスクを有していることが通常は考えられます。仮に在庫リスクがないというのであれば、それが財の性質に基因しているからなのか、その理由を十分に究明すべきであると考えられます。③の価格の設定に係る裁量については、代理人が利鞘を確保する必要性から、代理人に裁量が与えられるケースがありますので、その点も考慮して判断する必要があります。

影響を受ける可能性がある取引

財またはサービスを手配する商社の取引や百貨店等の小売業における消化仕入の取引(売上が計上されると同時に仕入を計上する取引)は、一般的に、代理人としての取引であると判断される場合が多いと考えられます。

また、旅行代理業を営む企業において、旅行事業を行う企業と顧客とのマッチングをしている場合で、他の企業(旅行事業を行う企業)が顧客にサービスを提供することを企業が手配している役割にしか過ぎないと判断されるときは、企業は代理人であると判断されることが考えられます。

そのほか、メーカーの製造受託の取引や有償支給取引および電子商取引サイト運営に係る取引等の会計処理が影響を受ける可能性があります。

法人税の取扱い

総額表示か純額表示かで、法人税法上の課税所得は変わりません。また、本人であっても代理人であっても、履行義務の充足のタイミングも変わらないと考えられます。従って、法人税法上、会計処理がそのまま認容されることになり、申告調整は必要ないと考えられます。

ただし、法人税法上、売上金額が基準とされている制度が幾つかある点に留意する必要があります。例えば、試験研究費の税額控除制度において、当期の試験研究費の当期および過去3期の売上金額の平均額に占める割合に基づいて、税額控除率および税額控除上限額の割増制度の適用を受けることができるかどうかを判断する取扱いもあります。

従って、法人税にまったく影響がないというわけではありません。この点、財またはサービスを手配しているだけの立場であり、代理人であると判断される場合は、法人税法上も、資産の譲渡ではなく、役務提供に係る収益としてとらえるという考え方は採り得ると考えられます。

消費税の取扱い

消費税法上、売手における課税売上げに係る消費税額とそれに対応する買手(仕入側)における課税仕入れに係る消費税額を一致させる必要性から、従来どおり実際の取引額に基づいて課税標準を計算する取扱いは何ら変わるものではありません。すなわち、消費税は取引に対して課せられるものであり、資産の譲渡等(譲渡、貸付けおよび役務の提供)の対価として収受された金額、または収受されるべき金額を課税標準として計算されます。結果として、収益認識会計基準の適用に伴い会計処理が変更された場合であっても、消費税の処理は従来どおりとされます。

例えば、商社が顧客との間で製品の販売に係る契約を締結したとします。ただし、商社は代理人の立場であり、メーカーから顧客に製品を提供するように手配しているだけの立場であり、製品自体もメーカーの倉庫から直送されるものとします。顧客との契約は商社との間で行われており、販売代金の授受も商社と顧客との間で行われており、また、商社とメーカーとの間で(商社にとっての)仕入代金の授受が行われているとします。この場合、商社にとっては、顧客に販売した対価が課税売上げとなり、一方でメーカーからの仕入れの対価が課税仕入れになると考えられます。従って、仮払消費税等と仮受消費税等を両建てで認識することになると考えられます。具体的な設例・仕訳等については、拙著『「収益認識会計基準と税務」完全解説』(税務研究会出版局)を参照していただければと思います。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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