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無対価合併に係る法律・会計・税務

2019.11.01
公認会計士 太田 達也

はじめに

合併法人が被合併法人を吸収合併するに際して、合併法人が被合併法人の株主に対して合併の対価を交付しない、いわゆる「無対価合併」を行う場合があります。本稿では、無対価合併に関する取扱いについて、法務・会計・税務それぞれの分野における留意点を解説します。

無対価合併の法律

会社法上、対価を交付しない合併、いわゆる無対価合併は可能であるとされています。それは、会社法749条1項2号において「......交付するときは」と規定されていることからも明らかです。

以下、100%グループ内の合併の場合と、非支配株主が存在する場合に分けて、法律上のポイントと留意点を解説します。

1. 100%グループ内の合併の場合

100%グループ内で無対価合併を行う典型的なケースとして、次の二つが挙げられます。

(1) 親会社が100%子会社を吸収合併する場合

第一に、合併法人が合併前に有する被合併法人株式を「抱合せ株式」といいます。親会社が100%子会社を吸収合併する場合は、親会社が合併前に有する子会社株式が抱合せ株式になります。合併法人となる親会社は、その保有する抱合せ株式に対して新株の割当てをしないことが考えられます。会社法749条1項3号および3項が、合併法人の有する被合併法人の株式に対して対価の割当てをすることができないと規定していることとの関係から、そもそも対価を交付することはできません。

(2) 100%子会社同士の合併の場合

第二に、100%子会社同士の合併をする場合、親会社が有する被合併法人株式に合併法人株式の割当てをしない合併を行うのが通常です。なぜならば、合併の対価を支払うか否かにかかわりなく、親会社の子会社に対する持分比率は合併の前後で100%と変わりはなく、企業集団の経済的実態には何ら影響がないからです。

以上の二つのケースが無対価合併を行う典型的なケースです。この二つのケースの場合、100%グループ内での合併ですから、対価を交付しなかったとしても、親会社の株主を害するおそれはありません。無対価合併をすることについて、親会社の取締役の善管注意義務の問題が生じることはないと考えられます。

2. 非支配株主が存在する場合

被合併法人に非支配株主が存在する場合であっても、無対価合併を行うことは、法令上可能です。特に、被合併法人が債務超過であり、被合併法人の株主が有する被合併法人株式に価値がないと判断されるようなケースでは、無対価合併とするのかどうかを検討する場合が生じ得ます。

会社法上、次の理由から、債務超過会社を合併することは認められています。

  1. 当事者の資産価値の判断を尊重すべきこと
  2. 反対株主の株式買取請求権が認められていること
  3. 債権者については債権者保護手続が採られていること

しかし、債務超過会社を合併する場合は、会社法上、一定の手続規制が課せられる点に留意が必要です。すなわち、①承継する資産の額が承継する負債の額を下回る場合、②交付する合併対価の簿価が承継する純資産額を超える場合には、株主総会において取締役が説明したうえで、株主総会の特別決議を採らなければなりません(会社法795条1項、2項)。簡易合併の規定は適用されませんので、取締役会の決議だけでは実行できません。

無対価合併の会計

1. 親会社が100%子会社を吸収合併する場合

「企業結合に関する会計基準」における共通支配下の取引に該当します。子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産、負債および純資産の適正な帳簿価額を算定します。一方、親会社が子会社から受け入れる資産および負債は、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上します。いわゆる「簿価移転」の処理になります。

また、合併に伴い抱合せ株式は消滅します。親会社が有している子会社株式(抱合せ株式)の消滅を認識することになるため、子会社株式(抱合せ株式)を貸方に落とします。抱合せ株式の帳簿価額と子会社の株主資本との差額を、抱合せ株式消滅差損または抱合せ株式消滅差益として特別損益に計上することになります。対価を何も交付しないため、資本金や資本剰余金は増加しません。

なお、この特別損益は、税務上は課税所得に影響させないため、別表4で加算(留保)または減算(留保)する必要があります※1

  • ※1税務上、適格合併であるときは、抱合せ株式の帳簿価額について、資本金等の額の減算処理を行います(法令8条1項5号)。したがって、別表4で加算(留保)した場合は、別表5(1)の利益積立金額の増加および資本金等の額の減少の調整を入れることになります。利益積立金額と資本金等の額との間でプラス・マイナス同額の調整を入れる調整パターンを「振替調整」といいます。
親会社の受入仕訳

2. 100%子会社同士の合併の場合

100%子会社同士の合併の場合、被合併法人の株主に対価を支払わなかった場合であっても、企業集団の経済的実態には何ら影響がありません。そのため、合併法人は被合併法人の株主資本の額を引き継ぐ処理をします。

また、会社法上、合併法人が合併に際して株式を発行していない場合には、資本金および準備金を増加させることは適当ではないと解されるため、会計上は、合併法人が被合併法人の株主資本の各項目を原則として引き継ぐこととしたうえで、増加すべき払込資本の内訳項目は、会社計算規則の規定(会社計算規則36条2項)に従い、被合併法人の資本金、資本準備金、その他資本剰余金の合計額を合併法人においてその他資本剰余金に、被合併法人の利益準備金、その他利益剰余金の合計額を合併法人においてその他利益剰余金に計上します(「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」437-2項)。また、被合併法人の利益準備金、その他利益剰余金の合計額がマイナスである場合は、合併法人においてその他利益剰余金のマイナスを認識することになります。

合併法人となる子会社の受入仕訳

無対価合併の税務

平成22年度税制改正により、無対価組織再編に係る取扱いが明確化されました。具体的には、次の2類型について適格合併となる要件が明確化されています。

  1. 被合併法人と合併法人との間に、いずれか一方の法人による完全支配関係がある場合
  2. 合併前に被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係がある場合

その2類型に分けて、以下解説を進めます。

1. 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係

被合併法人と合併法人との間に、いずれか一方の法人による完全支配関係がある場合における当該完全支配関係がある場合の合併で、被合併法人の株主等に合併法人株式または合併法人の100%親法人株式のいずれか一方の株式以外の資産が交付されない合併は、適格合併になります。

ただし、その合併が無対価合併である場合は、合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係に限り、適格合併になります(法法2条12号の8イ、法令4条の3第2項1号)。

<親会社が子会社を吸収合併する場合>

親会社が子会社を吸収合併する場合

上記のケースで、親会社が子会社を吸収合併するものとします。合併法人(この場合、親会社)が有する被合併法人(この場合、子会社)の株式は「抱合せ株式」です。会社法上、抱合せ株式に対して新株を交付しませんので、このケースにおいては無対価合併を行います。

この場合、対価要件(=合併に当たって合併法人株式(存続会社株式)以外の資産の交付がないこと、または100%親法人株式以外の資産の交付がないこと)を満たしているかどうかが論点となりますが、合併対価を何も交付していないということは、「合併法人株式以外の資産の交付がないこと、または100%親法人株式以外の資産の交付がない」ことになりますので、対価要件を満たしていることになり、適格合併になります。

ここで注意しなければならないことは、「合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係」とは、直接保有のみで全部を保有する関係を意味しており、間接保有が一部でも含まれている場合は、たとえ完全支配関係があったとしても、無対価合併は適格合併にならないという点です。

なお、子会社がその100%親会社を吸収合併する、いわゆる「逆さ合併」の場合は、子会社がその親会社の株主に対して株式を割り当てることになるのは当然であり、無対価合併の対象にはなりません。

2. 同一の者による完全支配関係がある場合

(1) 適格合併となるための要件

同一の者による完全支配関係がある法人相互の関係があるときは、その法人同士の間にも完全支配関係があるとされています。なお、同一の者による完全支配関係がある法人間の無対価合併については、税務上、適格合併となるために別途特別な要件が課せられている点に留意が必要です。

同一の者との間に完全支配関係がある法人相互の関係にある法人間の合併が、適格合併となるための一般的な要件は次のとおりです。

  1. 合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係(法人相互の完全支配関係)があり、かつ、合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれていること(法令4条の3第2項2号)。
  2. 当該合併における被合併法人の株主等に合併法人株式または合併親法人株式のいずれか一方の株式または出資以外の資産が交付されないこと(法2条12号の8)。

すでに説明しましたように、無対価の場合は、上記の2の要件は充足されます。

ただし、無対価合併の手法による場合には、上記の要件のほかに、合併前の同一の者による完全支配関係が次のイまたはロに掲げるいずれかの関係がある完全支配関係である場合に限り、適格合併に該当することとされている点に留意する必要があります(法令4条の3第2項2号)。

  1. 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
  2. 被合併法人および合併法人の株主等(当該被合併法人および合併法人を除く)のすべてについて、その者が保有する被合併法人の株式等の被合併法人の発行済株式等に占める割合と当該者が保有する合併法人の株式等の合併法人の発行済株式等に占める割合とが等しい場合におけるその被合併法人と合併法人との間の関係

上記のロの規定は、平成30年度税制改正により見直されています。改正前は、同一の者が法人である場合は、合併前に同一の者(1社)が被合併法人の株式等の全部および合併法人の株式等の全部を有している関係がある場合が要件でしたが、改正後は、複数の法人が株主であるときに、被合併法人と合併法人の株主構成が同一であり、かつ、各株主の被合併法人における持株割合と合併法人における持株割合が等しい場合も要件を満たすものとされました。

合併前に次のような完全支配関係がある法人間で無対価合併が行われる場合、合併後において同一の者と合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれているときは、適格合併になると考えられます。

<ケース1>
ケース1
<ケース2>
ケース2
<ケース3>
ケース3

ケース3の場合、先のロにおいて、「当該被合併法人および合併法人を除く」とする括弧書きが付されていますので、合併法人が有する被合併法人株式30%を除いて判定することになり、同一の者が保有する被合併法人の株式等の被合併法人の発行済株式等に占める割合と当該者が保有する合併法人の株式等の合併法人の発行済株式等に占める割合とが等しいという要件に該当すると解されます。要するに、合併法人と被合併法人が相互に保有する株式等は除いて判定するという意味になります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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