リベートの会計処理 ~「収益認識に関する会計基準」の適用下における実務~

2019年7月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

リベートの取引慣行

消費財のメーカーが、卸売業者や小売業者にリベートを支払う取引慣行があります。リベートの支払については、契約であらかじめ一定期間の取引数量、取引金額等に基づいて支払うなど、条件を決めておく場合が多いと考えられます。従来の会計実務においては、明確な取扱いがなかったため、販管費で処理する例や売上から減額する例などがみられました。

収益認識会計基準の定める会計処理

リベートは、顧客から企業に支払われるものではなく、逆に企業から顧客に支払われるものです。「収益認識に関する会計基準」(以下、「会計基準」)63項においては、顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財またはサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額すると明記されました。

別個の財またはサービスと交換に支払われるものとは、例えば顧客からチラシやマネキンなどの財が提供され、それに対して支払われるようなケースが想定され、その場合は、原則として仕入または販管費として処理することが考えられます。そのような別個の財またはサービスの対価として支払われるものを除いて、収益の減額として処理することが明確化されました。従来販管費として処理している場合は、会計処理の見直しの検討が必要になります。

なお、メーカーが直接の販売先である卸売業者ではなく、卸売業者の販売先である小売業者(顧客の顧客)にリベートを支払う場合、飛び越しリベートといいますが、同様に処理するとされています(会計基準63項かっこ書)。

収益から減額する時点

顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の (1) または (2) のいずれか遅い方が発生した時点で(または発生するにつれて)、収益を減額します(会計基準64項)。

(1) 関連する財またはサービスの移転に対する収益を認識する時

(2) 企業が対価を支払うかまたは支払を約束する時
(当該支払が将来の事象を条件とする場合も含む。また、支払の約束は、取引慣行に基づくものも含む。)

リベートについてみると、リベートを支払う約束は、製品の販売前にされている場合が多いと考えられます。その場合は、(2) よりも (1) が遅い時になると考えられます。製品の販売に係る収益を認識する時に収益を減額する場合、リベートの額が確定金額になっていないケースも少なくありません。確定金額になっていない場合には、変動対価として見積もった金額を収益から減額することが考えられます。過去の実績等に基づいて、期待値または最頻値のいずれか適当な方法を用いて見積もり、見積もった取引価格を各決算日に見直す必要があると考えられます(会計基準55項)。

設例

以下、設例により会計処理を示します。

設例: リベートに係る会計処理

<前提条件>

健康サプリメントを製造するA社は、小売業者B社に商品を販売する際に、販売数量に応じたリベートを支払うことをあらかじめ約束しています。当期のA社からB社への販売金額は700万円ですが、B社の一定期間の販売実績を3カ月後に集計して、その実績に応じたリベートを支払う契約になっています。したがって、このリベートは、A社にとって変動対価に該当します。A社は、過去の実績に基づいて当期の販売金額に対して生じる将来のリベートを30万円と合理的に見積もりました。
将来においてB社に対して支払うと見積もられるリベートを収益の減額として認識することを前提として、A社の当期のB社に対する販売に係る会計処理を示してください。なお、消費税率を8%とします。

<解答>
仕訳表

消費税法上は、変動対価という考え方はなく、資産の譲渡等の対価として収受される700万円に対して8%を乗じた56万円を仮受消費税等として計上することが考えられます。また、将来においてリベートを支払ったときは、従来どおり、売上に係る対価の返還等として処理することが考えられます(消法38条1項)。

法人税の取扱い

法人税基本通達2-1-1の16においては、資産の販売等に係る契約において、いわゆるキャッシュバックのように相手方に対価が支払われることが条件となっている場合(損金不算入費用等に該当しない場合に限る。)には、次に掲げる日のうちいずれか遅い日の属する事業年度においてその対価の額に相当する金額を当該事業年度の収益の額から減額すると定められています。

(1) その支払う対価に関連する資産の販売等に係る法人税法第22条の2第1項《収益の額》に規定する日または同条第2項に規定する近接する日

(2) その対価を支払う日またはその支払を約する日

上記 (1) は、法人税法上の収益の計上時期であり、原則として、収益から減額する時期は、会計と一致します。ただし、会計上、変動対価としてリベートの額を見積もっている場合は、別途法人税基本通達2-1-1の11の定める変動対価の見積りを所得に反映することを認める一定の要件を満たしていることが必要になります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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