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太田達也の視点

収益認識基準案に対する税務上の取扱い
~「平成30年度税制改正大綱」により方向性が明らかに~

2018.02.01
公認会計士 太田 達也

「収益認識に関する会計基準(案)」(以下、「基準案」という)に係る税務上の取扱いが重要な論点になりますが、これについて「平成30年度税制改正大綱」(以下、「大綱」という)に一定の記述が盛り込まれました。以下、その解説を行います。

収益の計上額について

大綱に、「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供(以下「資産の販売等」という)に係る収益の額として所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、原則として、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とすることを法令上明確化する。この場合において、引渡しの時における価額又は通常得べき対価の額は、貸倒れ又は買戻しの可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合の価額とする。」と記述されています。

この内容から、基準案に基づく収益の計上額については、法人税法上、基本的には認容される方向性であることが読み取れます。ただし、「貸倒れ又は買戻しの可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合の価額とする。」の部分については、会計処理と法人税法の取扱いに差異が生じるものと考えられます。以下、詳説します。

貸倒れのケース

ここでいう貸倒れは、「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、「適用指針案」)の設例2のケースを前提にしているものと考えられます。すなわち、回収可能性に懸念のある債権について、収益を減額して計上する処理であり、レアケースであると考えられます。したがって、実務上はあまり影響がないと思われます。

税務上は、減額前の取引対価の額について益金の額に算入することになりますので、減額前の取引対価の額と会計上の収益計上額との差額は、法人税申告書別表4で加算(留保)することになると考えられます。債権が回収された時点で、税務上認容されると考えられますので、税効果会計における将来減算一時差異に該当すると考えられます。

買戻しのケース

ここでいう買戻しは、返品権付取引に対応していると考えられます。返品権付取引は、適用指針案の設例11のように、会計上は返金負債と返品資産を計上しますが、税務上はその計上がなかったものとして取り扱うという意味になります。したがって、返金負債の額について法人税申告書別表4で加算(留保)し、返品資産の額について別表4で減算(留保)することになると考えられます。

返品権付取引の処理

(2017年9月1日公表の「太田達也の視点」の設例に、税務処理を加筆したものです)

現行の実務では、返品が見込まれる場合、過去の返品実績等に基づき返品調整引当金が計上され、その引当金の繰入額については売上総利益の調整として表示される場合があります。

基準案では、返品権付の商品または製品(および返金条件付で提供される一部のサービス)を販売したときは、次の処理をするものとされています(適用指針案85項)。引当金(返品調整引当金)の計上は認められない点に留意する必要があります。

  • 企業が権利を得ると見込む対価の額(返品されると見込まれる商品または製品の対価を除く)で収益を計上する。
  • 返品されると見込まれる商品または製品については、収益を認識せず、当該商品または製品について受け取ったまたは受け取る額で返金負債を認識する。
  • 返金負債の決済時に顧客から商品または製品を回収する権利について返品資産を認識する。

返品権付取引の処理

以下、設例により、具体的な処理例を示します。

設例: 返品権付取引に係る会計と税務

<前提条件>
企業は、製品50個を500,000(@10,000)で顧客に販売しました。その製品の原価は@6,000です。取引慣行として、顧客が未使用の製品を30日以内に返品する場合、全額返金に応じることとしているとします。

企業は、取引価格に変動対価が含まれていると判断し、対価の額をより適切に予測できる方法として期待値による方法(基準案48 項)を用い、製品47個が返品されないと見積もりました。企業は、返品は自らの影響力の及ばない要因の影響を受けますが、製品およびその顧客層からの返品数量の見積りに関する十分な情報を有していると判断しました。また、返品数量に関する不確実性は短期間で解消されるため、企業は、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される時点までに、計上された収益の額 470,000(10,000×返品されないと見込む製品47個)の著しい減額が発生しない可能性が非常に高いと判断しました(基準案51項、適用指針案25項)。

<解答>

1. 会計処理

表1

返金負債に対応する原価18,000が返品資産として計上されます。この返品資産は、返金負債の決済時に顧客から製品を回収する権利を表しています。

表2

2. 税務処理

大綱に示されているように、収益の額として所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、買戻しの可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合の価額とするとする内容で税務上手当てされた場合は、次のように申告調整が必要になると考えられます。

別表4 所得の金額の計算に関する明細書
区分 総額 処分
留保 社外流出
当期利益または当期欠損の額     配当  
その他  
加算 売上計上もれ(返金負債) 30,000 30,000    
         
減算 売上原価計上もれ(返品資産) 18,000 18,000    
         

別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在利益積立金額 当期の増減 差引翌期首現在利益積立金額
①-②+③
利益準備金        
 積立金        
         
返金負債 30,000 30,000
返品資産     △18,000 △18,000

別表5(1)の返金負債および返品資産の調整は、会計上の帳簿価額はそれぞれ30,000および18,000であるのに対して、税務上の帳簿価額はゼロですので、会計上の帳簿価額を打ち消している(自己否認している)ことを意味します。返金負債は税効果会計における将来減算一時差異、返品資産は将来加算一時差異に該当すると考えられます。

値引き・割り戻しのケース

「値引き及び買戻しについて、客観的に見積もられた金額を収益の額から控除することができるものとする。」とされていますように、変動対価の見積りについて、貸倒れまたは買戻しのケースを除いて、基本的には認容する方向性で検討されているものと考えられます。今後の法令および通達等をご確認いただきたいと思います。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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