100%子会社からその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合の会計・税務処理

2018年1月5日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理

株主がその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合、配当の対象となる有価証券が売買目的有価証券である場合を除き、原則として配当受領額を配当の対象である有価証券の帳簿価額から減額するとされています(「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」3項)。その他資本剰余金は、資本金及び資本準備金の額の減少により生じた剰余金及び自己株式処分差益等の額で構成され、その内容は原則として株主からの払込資本であるため、その他資本剰余金の処分による配当は、基本的には投資の払戻しの性格を持つことから、このような処理が原則とされています。

100%子会社からその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合は、子会社株式の帳簿価額から減額することになると考えられます。

仕訳表1

その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理

次に、その他資本剰余金の処分による配当を受ける株主の税務処理について説明します。「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る)のうち、分割型分割によるもの以外のものをいう)又は解散による残余財産の分配」(法人税法24条1項4号)と規定されているとおり、みなし配当事由に該当します。

従って、株主が交付を受ける金銭等のうち、資本金等の額に対応する金額(減資資本金額)からみなし配当の額を控除した差額が株式の譲渡対価とされ、みなし配当は受取配当金とされます。完全支配関係がある法人間の関係であるときは、株式の譲渡対価の額を譲渡原価の額とするものとされ(法法61条の2第16項)、譲渡損益は不計上となります。株式の譲渡損益に相当する額は、資本金等の額の加減算の対象になります(法令8条1項22号)。

一方、みなし配当である受取配当金については、当該みなし配当の金額の支払に係る効力発生日の前日において配当を受ける株主法人と配当した法人との間に完全支配関係があった場合、その配当を受ける法人が有する株式は完全子法人株式等に該当するので(法令22条の2第1項)、受取配当金は全額益金不算入となります(法法23条1項)。

以上のように、会計処理及び税務処理が異なるため、申告調整が必要になります。以下、設例により示します。

設例:

完全支配関係がある法人からその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合

<前提条件>

当社は、完全支配関係がある子会社(直接保有で100%とします)において資本金の額の減少を行い、それによって発生したその他資本剰余金を原資とした配当を受けることになりました。

減資前の子会社の貸借対照表は次のとおりです。

貸借対照表1

資本金を30,000千円減少し、同額のその他資本剰余金が発生しますが、発生したその他資本剰余金を原資として30,000千円の配当を行うものとします。

交付金銭等の額 30,000千円
税務上の前期末簿価純資産額 65,000
減資直前の資本金等の額 60,000
子会社株式の帳簿価額 70,000

(注)親会社における子会社株式の取得は、子会社の設立後であるため、子会社株式の帳簿価額と子会社の資本金及び資本準備金の合計額とは一致していません。

なお、源泉所得税等の徴収については、捨象します。

<解答>

1. 会計処理

その他資本剰余金を原資とした配当は、投資の払戻しとしての性質があることから、次のように払戻しを受けた額について帳簿価額を減額する処理を行います。

仕訳表2
2. 税務処理
(1) 資本金等の額に対応する金額(減資資本金額)

交付金銭等のうち資本金等の額に対応する金額(減資資本金額)は、減資直前の資本金等の額に対して、前期末の簿価純資産に占める資本の払戻しにより減少する資本剰余金の額の占める割合を乗じて計算します(法令8条1項18号)。

計算式1

この27,720千円が株式の譲渡対価の額となります。ただし、完全支配関係がある法人間のみなし配当事由に基づく金銭等の交付に当たりますから、株式の譲渡対価の額は以下の(3)で計算する株式の譲渡原価の額とされます。

(2) みなし配当の額

みなし配当の額は、交付金銭等の額30,000千円から(1)減資資本金額27,720千円を控除した差額である2,280千円です。

(3) 株式の譲渡原価の額

株式の譲渡原価の額は、株式の帳簿価額に対して払戻割合を乗じた額です(法令119条の9第1項)。払戻割合とは、前期末の簿価純資産価額に占める資本の払戻し(配当)により減少した資本剰余金の額の割合です(法令119条の9第1項、23条1項3号)。

計算式2

この株式の譲渡原価に相当する額については、子会社株式の帳簿価額から切り下げることになります。

(4) 株式の譲渡損益に相当する金額(資本金等の額の加減算すべき金額)

減資資本金額27,720千円から株式の譲渡原価32,340千円を控除した差額である4,620千円が本来であれば株式の譲渡損失になりますが、完全支配関係がある法人間でのみなし配当事由に基づく金銭等の交付に該当するので、資本金等の額の減少として処理します。

(5) 税務上の仕訳
仕訳表3

なお、株主側においては、上記の計算過程を踏まないで、配当した会社から通知を受けた内容により処理します。すなわち、みなし配当については、源泉徴収の対象であることから、支払通知書により受取配当金の数値をとらえることができます。また、払戻額全体から受取配当金の額を控除した残額が、株式の譲渡対価となります。一方、株式の帳簿価額に対して、通知を受けた払戻割合(払戻割合は法令119条の9第2項により通知事項とされています)を乗じることにより譲渡原価の額を計算することができます。もちろん完全支配関係がある法人間であるときは、株式の譲渡対価の額を譲渡原価の額とし、譲渡損益は不計上とし、資本金等の額の加減算処理をします。

(6) 申告調整

申告調整は、次のとおりとなります。

別表4 所得の金額の計算に関する明細書

別表4 所得の金額の計算に関する明細書

別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書 Ⅰ
別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書 Ⅱ

別表5(1)の「利益積立金額の計算に関する明細書」においては、2,340千円の減額調整(子会社株式に係る会計上の簿価と税務上の簿価との差額を表します)及び4,620千円の増額調整(資本金等の額との間の振替調整を表します)が記載されており、差引で2,280千円の増加になっていますが、それは別表4の加算(留保)の金額に一致しています。

みなし配当の額2,280千円については、税務上は利益積立金額の増加となりますが、会計上は利益剰余金に変動はありません。そのため、「利益積立金額の計算に関する明細書」にトータルで2,280千円の増加が入るわけです。税効果会計における一時差異には該当しないと考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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