子会社の解散・清算に伴う現物分配の処理

2015年8月3日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

子会社の整理

事業の整理・統合を行うに際して、子会社を解散・清算するケースはよくあります。継続を図る事業のみを会社分割で他の会社に移転し、不採算事業のみが残った子会社を解散・清算する手法が用いられることもあります。

また、子会社の解散・清算を行うときに、子会社の不動産等の事業用資産を親会社に残余財産の分配として払い戻し、親会社においてその後にその資産を事業の用に供する方法が用いられるケースもみられます。

以下、設例により、子会社の解散・清算に伴う現物分配の会計処理及び税務処理を解説します。

100%子会社の解散・清算

1. 前提条件

当社(甲社)の100%子会社(乙社)を解散しました。子会社が所有している土地を売却処分しないで、残余財産として残したうえで、残余財産の確定後に当該土地を残余財産の分配として親会社に移転しようと考えています※1。当社と子会社との間には完全支配関係がありますので、税務上の適格現物分配に該当します※2。従って、子会社において譲渡損益は計上されません(法法62条の5第3項)。
この残余財産の分配に係る会計処理と税務処理を示してください。

※1残余財産の分配を現物資産により行う場合、税務上の現物分配に該当します。すなわち、税務上「現物分配」は、法人(公益法人等および人格のない社団等を除く)が剰余金の配当またはみなし配当事由に基づき、株主に対して金銭以外の資産(現物資産)を交付することをいいます(法法2条12の6)。みなし配当事由として、解散・清算に伴う残余財産の分配、自己株式の取得などがありますので、この場合の残余財産の分配は、現物分配に該当します。
※2税務上の適格現物分配の適格要件は、内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、①現物分配法人と被現物分配法人が、現物分配の直前において完全支配関係があり、②現物分配を受ける株主が、完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等に限る)のみである、以上の2つの要件を満たすことです(法法2条12の15)。
100%子会社の解散・清算 前提条件 図1

子会社の資産のうちの土地の帳簿価額は6,000、時価は7,000とします。資産(帳簿価額8,000)のうちの土地以外の資産(帳簿価額2,000、時価も同額)は全て換価処分し、負債の返済に充てた結果、負債は親会社借入金4,000のみになりました。また、当社の所有する子会社株式(乙社株式)の帳簿価額は、1,000とします。

100%子会社の解散・清算 前提条件 図2

2. 親会社の債権放棄

親会社は、子会社に対する貸付金(帳簿価額4,000)を債権放棄します。弁済原資があるにもかかわらず債権放棄を行うため、税務上は寄附金に該当します。ただし、完全支配関係がある内国法人間で行われる寄附ですので、親会社においては全額損金不算入とされ、子会社においては全額益金不算入とされます(法法37条2項、25条の2第1項)。親会社においては、会計上債権放棄損を計上しますが、別表4で全額加算しますので、トータルでみると所得に影響はありません。同様に、子会社においては、会計上債務免除益を計上しますが、別表4で全額減算しますので、トータルでみると所得に影響はありません。

この親会社の債権放棄により、子会社の資産は土地のみとなり、この土地を換価処分しないで現物分配する方針ですので、残余財産は確定します。

親会社の債権放棄 図表

3. 残余財産の分配(現物分配)

(1) 会計処理

① 甲社(親会社)の会計処理

仕訳表1

共通支配下の取引であるため、土地を現物分配直前の帳簿価額6,000で受け入れますが、乙社株式の帳簿価額との差額5,000は子会社清算益として計上することになると考えられます。

② 乙社(子会社)の会計処理

仕訳表2

(2) 税務処理

① 甲社(親会社)の税務処理

現物分配法人株式(乙社株式)に係る譲渡原価を計算します(法令119条の9第1項)。

計算式1

ただし、甲社と乙社との間には完全支配関係があるため、譲渡損益は不計上となり(法法61条の2第16項)、資本金等の額の加減算処理となります(法令8条1項20号)。

資本金等の額の減少額及び利益積立金額の加算額をそれぞれ次の算式により計算します(法令8条1項20号、9条1項4号)。

計算式2

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

会計上、子会社清算益を5,000計上しているため、別表4で減算します。また、みなし配当の計上漏れを加算(留保)したうえで、同額について適格現物分配に係る益金不算入額として減算(社外流出)します(法法62条の5第4項)。

なお、会計上、清算益を計上していることにより繰越利益剰余金が増加していますので、別表5(1)の繰越損益金及び納税充当金の増加により、税務上は利益積立金額が5,000増加していることになります。従って、別表5(1)上に別途増加調整を入れる必要はありません。

② 乙社(子会社)の税務処理

資本金等の額の減少額と利益積立金額の減少額をそれぞれ次の算式により計算します(法令8条1項16号、9条1項11号)。

計算式3

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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