企業結合における取得関連費用の取扱い ~企業結合会計基準の改正~

2013年4月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

取得関連費用に係る改正

平成25年1月11日付で「企業結合に関する会計基準」の改正案が公表されています(執筆段階では改正案であり、確定しておりません。確定段階の内容をご確認ください)。

その中で、取得関連費用の会計処理の変更が提案されています。すなわち、企業結合における取得関連費用のうち一部について、現行の会計基準では、取得原価に含めることとされていますが、本改正案では、発生した事業年度の費用として処理するものとされています(企業結合会計基準案26 項)。

取得関連費用とは、企業結合を行うに当たって、企業が外部のアドバイザーに支払った報酬・手数料等が該当します。より厳密には、紹介、助言、デュー・デリジェンス、バリュエーションその他のコンサルティング費用及び弁護士費用などが該当するものと考えられます。

現行の日本基準と国際的な会計基準との相違

現行の日本基準においては、取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用として処理するものとされています(企業結合会計基準26項)。一方、国際的な会計基準では、費用が発生した会計期間、サービスを提供された会計期間の費用として処理するものとされています。

現行の日本基準では、取得は等価交換取引であるという考え方を重視し、取得企業が等価交換の判断要素として考慮した支出額に限り、取得原価に含める処理を採用していると考えられます。取得原価に含める結果、識別可能な資産に配分されないものは「のれん」に含めて計上する結果になります。一方、国際的な会計基準においては、取得関連費用は、事業の売主と買主の間の公正な価値での交換の一部ではなく、企業結合とは別の取引と考えられること、取得関連費用のうち直接費は取得原価に含まれるが間接費は除かれるのは不整合であること等の考え方から、企業結合とは別の取引であるととらえ、役務が費消された時点で費用認識すべきとの立場を採っているものと考えられます。

今回の改正案では、「国際的な会計基準に基づく財務諸表との比較可能性を改善する観点や取得関連費用のどこまでを取得原価の範囲とするかという実務上の問題点を解消する観点から、発生した事業年度の費用として処理することとした。」と説明されています。

税務上の取扱い

以上のとおり、会計上、パーチェス法が適用される取得の場合の取得関連費用について、国際的な会計基準と同様の取扱いに改正される提案がされています。

会計上取得に該当するケースについては、税務上非適格合併等に該当する場合が多いと考えられますが、税務上、非適格合併の場合の取得関連費用についてどのように取り扱うかがそこで問題となります。

法人税法62条の8に資産調整勘定の規定がありますが、資産調整勘定は税務上、合併等の対価として交付した株式の時価総額、あるいはその他の資産の時価総額の合計額が受け入れた資産及び負債の時価純資産額を上回ったときの超過額であると規定されており、この資産調整勘定にアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は含まれない規定になっています。会計上、のれんの取得価額に含める取扱いになっているのと異なった取扱いになっているわけです。また、合併法人等が取得する資産の取得価額を構成するものでもなく、税務上の繰延資産にも該当しないと考えられます。従って、原則として、損金算入の対象になると考えられます。

一方、株式の取得に伴いアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は、株式の取得に係る付随費用として株式の取得価額に算入されることは言うまでもありません(法令119条1項1号)。

財務諸表における開示

今回の改正案においては、取得原価に含められなかった取得関連費用については、注記により開示するものとされています(企業結合会計基準案49 項)。財務諸表における開示対象になる点に留意する必要があります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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