平成24年度 第1四半期決算の留意点

2012年7月2日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

はじめに

平成24年4月1日以後に開始する事業年度の第1四半期決算を迎える時期となりました。消費税法の改正(仕入税額控除に係る95%ルールの見直し)、減価償却制度の改正(定率法の見直し)など留意しなければならない点を再確認しておく必要があります。その他の留意事項も含めて、第1四半期決算の留意点を総合的に解説します。

消費税法の改正

平成23年6月30日に公布された改正税法1において、消費税法の重要な改正が行われました。改正前は、課税売上割合が95%以上の課税事業者については、消費税の課税仕入れ等に対する消費税額の全額を課税標準額に対する消費税額から控除できるものとされていました。改正後は、平成24年4月1日以後に開始する課税期間から、課税売上高が5億円を超える事業者は95%ルールの適用対象外とされたため、課税仕入れ等に対する消費税額の全額の仕入税額控除は認められず、「個別対応方式」または「一括比例配分方式」で仕入税額控除額の計算をすることとなりました。この改正により、課税仕入れ等に対する消費税額のうち一部控除できない消費税額が生じるため、仕入税額控除額が従来よりも少なくなります。

税務申告上は、個別対応方式または一括比例配分方式のいずれの方式を選択するかは、年度までに決めればよく、年度の消費税の確定申告書において個別対応方式を選択する場合であっても、中間申告については一括比例配分方式を採用することができるとされているため、最終的には年度末までに決定して問題ないと考えられます。

他方、会計上は、四半期決算において、この改正にどのように対応するかが問題となります。四半期決算においては開示の迅速性が要求されているので、簡便的な会計処理を適用することも考えられます。例えば四半期会計期間における課税仕入れ等の税額に対して、前年度の課税売上割合を乗じた額を仕入税額控除と見なして、控除対象外消費税額を算出するという方法も考えられます。年度決算と同様の処理を採用した場合に比べて、損益に与える影響額に重要な差異が生じず、財務諸表利用者の判断を誤らせる恐れがないと判断されるのであれば、採用し得る考え方だと思われます。

減価償却制度の改正

監査・保証実務委員会実務指針第81号「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」(最終改正:平成24年2月14日)を参考に対応する必要があります。

今回の減価償却方法に係る改正は、あくまでも税制改正に過ぎないので、会計上直ちに償却方法を変更しなければならないということはなく、今後の新規取得資産についても250%定率法を継続していくこと自体には問題ありません。ただし、このまま250%定率法を継続すると、税務上の償却限度額と差異が生じ申告調整が必要になるので、変更を検討している企業が多いと考えられます。

第一に、平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産について旧定率法を採用し、平成19年4月1日から平成24年3月31日までの間に取得した減価償却資産について250%定率法を採用している企業が、平成24年4月1日以後に取得した減価償却資産(新規取得資産)について200%定率法を採用する場合は、同一種類で同一用途の資産について、類似の減価償却方法を採用するものと認められるため、法令等の改正に伴う変更に準じた正当な理由による会計方針の変更として取り扱われます。実務上もこのような対応を取るケースが多いものと思われます。また、経過措置(改正法令附則3条2項)を適用した場合は、平成24年4月1日以後に最初に開始する事業年度の期首以後に取得する減価償却資産について上記の取扱いが適用されます。

第二に、250%定率法で償却している減価償却資産(既存資産)について途中から200%定率法に変更する場合は、法令等の改正に伴う変更に準じた正当な理由による会計方針の変更には該当しません。自発的な会計方針の変更に該当するため、税制改正のみを理由とした変更は認められません。変更理由の合理性と適時性を考慮する必要があります。また、経過措置(改正法令附則3条3項)を適用する場合は、企業の選択により決定できるものであるため、法令等の改正に伴う変更に準じた正当な理由による会計方針の変更には該当しません。税制改正のみを理由とする変更は認められないため、変更理由の合理性等について考慮することが必要になります。

上記の2点を踏まえて、第1四半期までに十分な検討の上、方針を固めていく必要があります。

子会社の決算期変更に伴う実務上の留意点

連結会社の決算期を統一する観点から、子会社の決算期を変更するケースがあります。例えば親会社が3月決算で、12月決算の子会社の決算期を3月に変更する場合を例とします。このケースにおいて、子会社が15カ月の事業年度(X1年1月からX2年3月まで)として決算を行う場合、親会社の事業年度に係る期間(月数)が12カ月に対して、決算日変更後の子会社の事業年度に係る期間(月数)は15カ月となります。

この場合、子会社のX1年1月からX1年3月までの損益については、利益剰余金(SS)で調整する方法と損益計算書(PL)を通して調整する方法のニつがあります。利益剰余金で調整する方法を採用する場合には、連結株主資本等変動計算書に、利益剰余金の増減として「決算期の変更に伴う子会社剰余金の増加高」等の適切な名称をもって表示します4

この二つの方法の選択ができるとする取扱いは、決算期変更の意思決定が当初からあり、第1四半期から対応ができる場合に限られます。意思決定が第3や第4四半期のように後にずれた場合は、PL連結を行った第1や第2四半期との整合性の観点から利益剰余金(SS)で調整する方法の適用は難しいと考えられます。意思決定が第3や第4四半期のように後にずれた場合は、PL連結を行った第1四半期や第2四半期との整合性の観点から決算期は翌期首に変更することになるものと思われます。さらに、上記のケースで、X1年1月からX1年3月までの間に子会社において震災等の重要な取引や事実があった場合には、利益剰余金(SS)で調整する方法または損益計算書(PL)を通して調整する方法の選択の判断に考慮要件が付加されることになると考えられます。

いずれの方法を採用する場合においても、当該連結子会社の事業年度の月数と連結会計年度の月数とが異なることになるので、その旨及びその内容の連結財務諸表への注記(四半期連結財務諸表規則ガイドライン10-5)、また、重要性が乏しい場合を除き、実施した会計処理の概要等について、注記することが適当と考えられる4(なお、連結財務諸表規則第15条及び四半期連結財務諸表規則第14条参照)とされている点に留意が必要です。

なお、決算日の変更は会計方針の変更ではないので、遡及適用はされず、比較情報については、前連結会計年度に係る連結財務諸表を記載することになります。

  1. 「現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第82号)。
  2. 平成24年4月1日からその改正事業年度(平成24年4月1日前に開始し、同日以後に終了する事業年度)終了の日までの期間内に取得をされた減価償却資産について、その減価償却資産を平成24年3月31日以前に取得をされたものとみなして、250%定率法により償却することができる特例が措置されている(改正法令附則3条2項)。
  3. 平成19年4月1日以後、かつ平成24年3月31日以前に取得し250%定率法で償却中の減価償却資産を200%定率法に切り替えても、所定の届出を条件として、耐用年数内に償却が完了できる特例が措置されている(改正法令附則3条3項)。
  4. 日本公認会計士協会・会計制度委員会研究報告第14号「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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