業種別会計
卸売業

第3回:卸売業の棚卸資産管理、為替リスク管理及び事業投資管理

2010.11.05
新日本有限責任監査法人 卸売業研究会
公認会計士 牧野幸享/森住曜二

1.卸売業における棚卸資産管理

(1)卸売業の棚卸資産の特徴

卸売業は、取扱商品の種類・内容が多岐にわたり、当該取扱商品の属する業界固有の特性を有していますが、「卸売」という切り口からみた一般的な特徴は以下のとおりです。

  1. 幅広い品揃えを売りにしているところからアイテム数が多く、かつ、仕入価格を引き下げるために一括購入して小口で販売する傾向にあるため、総資産に占める棚卸資産残高の割合は比較的高い。
  2. 得意先における在庫及び保管スペースの削減や在庫調達に係るリードタイムの短縮等のニーズに応えるため、卸売業者が得意先との間で事前に取り決めた在庫水準の範囲内で適切な在庫レベルと在庫管理方針を定め、得意先倉庫もしくはあらかじめ決められた物流倉庫に棚卸資産を供給する仕組み(VMI (Vendor Managed Inventory)取引)が導入されている(電子部品商社など)。
  3. 国内外の仕入先から得意先に棚卸資産が直送される取引の割合が他業種と比較すると高い。
  4. 素材産業関連のビジネスを展開している卸売業者の場合、棚卸資産が市況の変動にさらされている(石油化学系商社など)

(2)棚卸資産に関連する会計処理及び内部統制の特徴

①棚卸資産の実在性

仕入計上のタイミングにより未着品を保有するケースや得意先・2次卸等の倉庫に自社の棚卸資産(預託品)を保管するケース等、自社で棚卸資産を保有していない場合、当該未着品や預託品等の実在性を検証する必要があります。特に、消費財等は他に流用される危険性を有しているため注意する必要があります。

②入出荷業務を外部に委託している場合の内部統制の評価

卸売業の場合、取扱商品の種類・数が多く、かつ、入出荷量・頻度も膨大であるため、入出荷・在庫現物管理等の業務を自社ではなく物流専門会社に委託するケースが多いです。その結果、仕入・販売プロセスの重要なサブ・プロセスの1つである入出荷業務を外部業者が担うことになり、当該入出荷業務に関連する内部統制をどのように評価するかがポイントになります。これに関しては、外部監査人による当該委託業務の内部統制の有効性に関する評価結果を利用するケースと自社で委託先の内部統制の整備・運用状況を評価するケースが考えられます。

③棚卸資産の評価

企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、通常の販売目的で保有する棚卸資産について収益性の低下により投資額の回収が見込めない場合、正味売却価額により評価し、帳簿価額との差額を損失として計上することが求められています。

卸売業における棚卸資産の評価にあたっては、主に以下の点に留意する必要があります。

a. 棚卸資産のグルーピング

収益性の低下の有無に係る判断及び簿価切下げは、原則として個別品目ごとに行うこととされていますが、卸売業の場合、取扱商品が多岐にわたり、かつ、かなりのアイテム数となりますので、複数の商品をグルーピングした上で収益性の低下の有無を判断することが考えられます。例えば、補完的な関係にある複数商品の売買を行っているケースにおいて、いずれか一方の売買だけでは正常な水準を超えるような収益は見込めないが、双方の売買では正常な水準を超える収益が見込めるような場合は、継続適用を条件としてこれらをグルーピングすることが考えられます。

b. 正味売却価額の算定
  • 販売価格について得意先から定期的なコストダウン(例:四半期単位)を求められる場合、当該コストダウンの影響を正味売却価額に適時かつ適切に反映する必要があります。
  • 販売価格が原料市況や為替相場に左右される場合、当該市況の変動による影響を正味売却価額に適時かつ適切に反映する必要があります(例:素材系商品、販売価格が一定時点・期間における為替相場に連動している商品)。
  • 特定の得意先への販売数量又は金額に応じて、仕入先から一定のリベートを収受する契約がある場合に、当該リベートの影響を正味売却価額に反映することができるか否かについて検討する必要があります。
c. その他
  • 得意先への供給責任の観点から保有する保守品や得意先における数年間の需要予測に基づき一括購入した仕入先製造中止品等、営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産について、供給責任を有する期間や過去の販売実績等に基づき、一定の評価減が必要か否かを検討する必要があります。
  • 特定の販売先の法的・実質的破綻等に伴い、販売経路が実質的に断たれているような棚卸資産について、原価割れ販売もしくは廃棄等、想定される処分方針と整合した評価を行う必要があります。

近年、VMI取引等の拡大に伴い、得意先から短納期での商品納入が求められる一方、仕入先とは一定のリードタイムを確保する必要があるため、経済的陳腐化等による長期滞留在庫等の発生を極力防ぐためにも発注管理の重要性が高まっています。