業種別会計
個別受注産業

第3回:プラントエンジニアリング事業の特色、会計処理及び内部統制

2020.05.11
EY新日本有限責任監査法人 個別受注セクター
公認会計士 鈴木雅也/寺尾一哉

Ⅰ. プラントエンジニアリング事業の特色

1. プラントエンジニアリング業とは

プラントエンジニアリング業とは、プラントの企画、設計、調達、建設工事、施工管理、保守等の一連の業務を一括又は部分的に請け負うサービスを提供する業種のことをいいます。プラントとは、製造設備一式を指しますが、多種の機器装置が有機的に結合して、一定の機能を有する設備一式であり、液化天然ガス(LNG)、石油精製、化学、発電、製鉄、環境衛生、社会インフラ、その他産業プラント(工場)等、様々な種類があります。

企業数は少ないですが、主としてエネルギー関連のプラントを中心に扱う専業エンジニアリング会社をはじめとし、鉄鋼会社を親会社に持ち製鉄プラントや貯蔵設備・環境プラント等を扱う鉄鋼系エンジニアリング会社、造船・重機・重電会社を親会社に持つ環境・発電・産業プラント・社会インフラ等を扱う造船・重機・重電系エンジニアリング会社等、各社が得意とする技術領域で事業を展開しています。

2. プラントエンジニアリング業を取り巻く環境

顧客の設備投資需要や為替、資源価格、地域の政治経済や社会情勢等の影響を受けるため、受注には波があります。プラントエンジニアリング業界を取り巻く状況は以下のとおりです。

(1) 近年のエンジニアリング受注状況は、国内向けについては大幅な金融緩和等、各種政策の効果により、緩やかに回復しています。海外向けについては、中国の景気低迷による先行きが不透明であること、新興国の成長率の低迷や、資源価格の下落によって、資源会社は新規プラント建設を見送る等、投資が抑制される可能性があり、引き続き、今後の動向を注視する必要があります。

(2) 国内公共投資の削減や、国内民間企業の海外進出を背景に、国内設備投資が減少傾向にあり、プラントエンジニアリング各社は新興国を含めた海外事業の拡大を活発化しています。

(3) 価格競争力を武器に韓国等のプラントエンジニアリング会社が台頭してきており、海外案件の受注競争が非常に激しくなっています。

(4) 設計・調達・建設を一括して受注する以外にも、収益の安定化を目的とし、プロジェクト管理業務、技術コンサルティング、完成後のメンテナンス等に業務拡大を図っています。

3. プラントエンジニアリング業の特徴

プラントエンジニアリング業のビジネスの特徴を挙げると以下のとおりです。

(1) 大規模プロジェクト

1件当たりの受注金額が会社規模に比べて大規模になることがあります。プロジェクトを受注して完成するまで、長いものだと3年以上を要することもあります。こうした大型プロジェクトは工事作業者が数千人規模になります。

(2) 性能保証

プラントは、ビルやマンションとは異なり、単に物理的に完成するだけでなく、技術的な性能を達成することが求められ、契約上、性能保証義務を負うケースがあります。

(3) 多様な契約形態

① 役務範囲による分類

設計、調達、工事を一括で請け負うケースが多いですが、それぞれを単独または、いくつかの組み合わせで請け負うケースもあります。プロジェクト管理業務や運転保守業務を請け負う場合もあります。

② 価格決定方式による分類

  • (ア)ランプサム契約(固定価格による一括請負契約)
    契約締結時に受注金額を確定する契約です。プラントが鍵を回して操業可能な状態まで責任を持って遂行するターンキー・ランプサム契約が代表的です。受注金額が大きく、順調に完成すれば利益も大きいですが、リスクも大きく赤字になることもあります。遂行中に資機材等の物価上昇があった場合、契約金額の調整を行うエスカレーション条項が付くケースもあります。
  • (イ)コスト・レインバース契約、コスト・プラス・フィー契約(実費償還契約)
    かかったコストに応じて収入金額が変動する契約です。コストの実費精算額に、フィーが上乗せされます。客先の指定する工期・予算・安全等を達成した場合の成功報酬が契約上定められる場合もあります。

③ 受注形態による分類

単独で受注する他、他社と共同でジョイントベンチャーやコンソーシアムを組成して受注するケースもあります。

  • (ア)事業リスク
    これについては後述4で説明します。
  • (イ)契約変更
    プラントは、あらかじめ仕様を合意するものの、遂行途中でも設計変更、役務範囲や工事物量の変更などが少なくありません。その度に下請先や顧客との対価の変更交渉が行われます。
  • (ウ)プロジェクトマネジャー
    プラントエンジニアリング会社では、プロジェクトマネジャーが任命され、損益も含めてプロジェクト遂行の責任と権限を持ち、スケジュール、コスト、品質を管理します。

4. プラントエンジニアリングの事業上のリスク

プラントエンジニアリング会社はプロジェクトを遂行するに当たって、様々なリスクに直面しています。長期間を要する大規模プロジェクトについては、リスクも大型化します。

(1) 技術的リスク・品質リスク

プラントは完成して性能が確認できるまでは、技術的な問題や品質問題が発生するリスクがあり、問題が発生した場合は手直しが必要になります。

(2) 発注者に関するリスク

発注者の経営状況の悪化等により、契約代金の入金が遅延し、プロジェクトの工期が遅れたり、中断したりする場合があります。

(3) 調達先・下請業者に関するリスク

特に海外の調達先や下請業者の場合、機器や作業の低品質、納期・工期遅延、労働者確保が困難となるリスクがあり、コストの増加をもたらします。

(4) 物価変動リスク

原油等資源価格・鋼材価格の変動により、資機材調達コストや建設コストの変動リスクがあります。見積入札時の想定を超えて急激に上昇した場合、採算が悪化します。受注契約にエスカレーション条項を付けることでヘッジするケースもあります。

(5) 為替リスク

海外案件については契約金額が外貨建となる場合が多く、大規模プロジェクトだと完成まで長期間を要するため、為替変動により損益に大きな影響を与えます。複数通貨での契約、工事代金と同一通貨建での発注、為替予約等によりヘッジしています。

(6) カントリーリスク他

海外案件の場合、法規制、税制、政治情勢、ストライキ、自然状況等により、プロジェクトのスケジュールやコストに影響を与える場合があります。

5. プラントエンジニアリング事業のビジネスの流れ

プラントエンジニアリング事業におけるビジネスは、一般的に以下のプロセスを経て行われます。

(1) 提案・見積・入札

顧客のニーズに応じた仕様を提案します。コストを積算し、見積価格を提示します。海外案件の場合は、競争入札が多いですが、入札を行わない随意契約のケースもあります。

(2) 受注

受注が決まり、契約締結をします。プラントの契約は、個別性が強く契約ごとに内容が異なります。

(3) 設計

基本設計、詳細設計の順で行います。基本設計は、主要機器等の仕様を決定し、プラントの基本性能や配置を決定します。詳細設計では、設備の構成要素の詳細な仕様や配置を決定し、工事の図面を作成します。

(4) 調達

調達先(ベンダー)を選定し、発注します。プラントに必要な主要な機器は特注製作品が大半です。ベンダーの作成する図面や仕様書の確認を行い、製作工程管理、納期管理、輸送計画の策定、輸送手配を行います。発注条件に従い受渡が行われ、現場搬入時に受入検査を行います。

(5) 建設工事・施工管理

下請業者(サブコントラクター)を起用し、請負契約を締結します。土建工事から始まり、機器の据付、電気配管工事等へと進みます。工程管理、作業者の労務管理や安全品質管理を行います。

(6) 試運転

プラントが完成した後、仕様どおりの性能が出るか試運転を行ってテストします。

(7) 引渡し

試運転に合格すると、引渡しが行われます。引渡し時点から瑕疵担保保証期間が開始されます。

(8) 運転・保守管理(メンテナンス)

通常、運転・保守管理は発注者が行いますが、契約によっては、工事請負契約とは別に、運転業務や保守管理業務を請け負うケースもあります。

<プラントエンジニアリング会社のビジネスの流れと会計の関係>

プラントエンジニアリング会社のビジネスの流れと会計の関係

Ⅱ. プラントエンジニアリング会社の会計処理及び内部統制の特徴

プラントエンジニアリング会社の会計処理及び内部統制の特徴は以下のとおりです。

1. 入札・受注

受注の際には損益見込、契約条件を踏まえた承認を経ることになります。不採算案件の発生を防止するためには、受注の検討段階で、契約内容を精査し、想定される様々なリスクを洗い出し、分析した上で、受注の可否を決定することが重要になります。

受注が決定した場合は、個別工事損益管理単位を明確にするため工事ナンバー等の発番が必要とされます。通常は契約書の単位ごとに損益管理対象を設定しますが、実質を鑑み複数契約を一つに結合することや、契約書の取引を複数に分割することが行われます。これらの損益管理単位について、適切に設定するための承認プロセスが必要になります。また、受注時点で、その工事損益管理単位から損失が見込まれる場合は、工事損失引当金を計上する必要があります。

2. 実行予算管理

受注に当たっての積算原価をもとに、その後の価格や仕様変更を踏まえて実行予算が作成されます。設計段階でのVE(バリューエンジニアリング)やCD(コストダウン)の可能性を検討し、原価低減を図ることが行われます。VE/CDの実現可能性を含めた総原価に関する予算統制が重要となり、実行予算作成の承認体制の整備が必要となります。

実行予算については、遂行中に定期的に最新の状況を反映して見直されることが必要です。実績原価と予算を比較し、今後の見込を見直した上で、実績原価に加えて総原価を算出します。

設計変更、下請業者等からのクレーム(契約対価の追加請求)、未契約項目の物価変動、下請業者との契約時点からの物量変動について把握し、合理的な見積りを行って、実行予算に反映することが必要になります。

工事収益については、設計変更や追加請求について発注者との打ち合わせ議事録等により、実質的合意を得られた上で計上する体制が必要になります。

また、エスカレーション条項付き契約の場合は、契約に従った指標・算定式により請求可能な金額を計上します。

3. モニタリング体制

プロジェクト管理の面では、定期的に進捗状況や遂行上の問題点がプロジェクトマネジャーから本社事業部や経営層に報告されることが重要です。

4. 決算・出来高検収

出来高検収においては、下請会社による出来高報告に基づきプロジェクト工事担当者が作業内容を確認して検収を行います。決算月で出来高報告が決算の締めに間に合わない場合は、出来高を見積もって網羅的に未払計上することが必要です。

5. 工事損失引当金

工事からの損失が予想される場合工事からの損失が予想される場合、引当金の計上が要求されます。適切な実行予算が作成されていることが前提となり、実行予算から網羅的に損失工事を把握する体制が必要になります。

6. 完成引渡し、完成工事補償引当金

プラントが完成し客先への引渡しが済んだ場合、客先検収書により引渡しの事実を確認して工事進行基準の計算を終了します。引渡し時に追加的残工事が予定される場合や、下請会社からの追加請求が行われている場合は、当該工事原価を見積もった上で計上します。また、工期遅延工事について、発注者との打ち合わせ議事録等により工期遅延損害賠償金の負担発生の可能性を検討し、合理的に見積もった金額を計上する必要があります。

また、引渡し後の瑕疵補修等アフターコストについて、過去の実績に加え、個別プロジェクトごとに瑕疵補修の発生の有無に基づき完成工事補償引当金を計上します。

7. 代金回収

受注金額の大型案件については施工が長期に及ぶことから、発注者の財務状況により支払い能力に問題が発生する可能性があり、案件遂行中に継続して客先の与信リスクを管理する必要があります。客先の財務内容や工事期間中の入金状況を検討し、残代金の回収可能性を検討する必要があります。

8. 運転保守管理

包括的メンテナンス契約を結ぶこともあり、その保守期間が長期にわたるケースのうち、運転保守業務としての役務提供の重要性が高いとき、又は保守改修工事の請負工事の重要性が高いときは、その会計処理について契約を分離して売上計上を行うことが実態を表す場合があります。

9. 新収益認識基準への対応

(1) イントロダクション

21年4月1日以降開始する事業年度の期首より、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益適用指針)が原則として適用されることに伴い、現在適用されている企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、基準)及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)は廃止されます。

個別受注産業に与える全般的な影響や留意点については、第1回「個別受注契約の会計処理の特徴」をご参照ください。

(2) 契約更新オプション(収益基準21項、119項)

包括的メンテナンス契約の内容が自動更新条項付きの場合、サービス提供期間に重要性がある場合は、その期間を合理的に見積もり、その期間について履行義務を識別し、取引価格の配分をする必要があります。

(3) 契約変更(収益基準28項、29項、30項、31項)

プラントエンジニアリングの場合、顧客の仕様に合わせて契約が変更されることがあり、当該契約変更について、金額が決まっていない場合には、当該変更契約による取引価格の変更を見積もる必要があります。

(4) 変動対価(収益基準50項、51項、52項)

契約どおりの工期で完了できなかった場合に損害賠償が発生するケース(リキダメ)については、変動対価に該当し、変動対価として見積りを行う必要があります。

(5) 一定期間にわたり充足される履行義務

プラント建設とその後、保守契約を締結している場合、その保守期間において、コストの発生方法が合理的に見積もれるのであれば、各決算日の進捗度に応じて収益を認識する必要があります。

<参考文献>

一般財団法人エンジニアリング協会「エンジニアリング産業の実体と動向」

個別受注産業

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