業種別会計
個別受注産業

第2回:造船業における事業の特色、会計処理及び内部統制

2020.05.11
EY新日本有限責任監査法人 個別受注セクター
公認会計士 鈴木雅也/寺尾一哉

Ⅰ. 造船業の特徴(商慣習)

1. はじめに

造船業とは、客先である船主(海運会社等)からの注文を受け船舶の建造を行う事業、また、船舶の修繕等を行う事業です。船舶の種類は、コンテナ船、ばら積み船(バルクキャリア、バルカー)、タンカー、LPG/LNG運搬船、自動車運搬船、客船等、その機能により様々であり、客先ごとに仕様、総トン数や長さ等も異なります。

造船業は、造船所にドックや船台、クレーンといった大型設備や用地を必要とするとともに、手作業による多数の工程を必要とする労働集約的な産業といえます。船舶は、家電製品や自動車のように大量生産される製品とは異なり、通常、客先からの注文を受けた後に製造が開始される個別受注製品と位置付けられることになります。船主との契約価額である船価は、その仕様や大きさに基づき決定されますが、景気動向や将来の物流需給予測に基づく船舶の需給環境、造船会社の建造能力等、様々な外部環境による影響を受け、船主との交渉により受注時に確定されます。なお、修繕契約の場合は、工事完了後に契約価額を交渉、確定することが一般的です。

造船業における市場は、全世界共通であり、現在では、中国、韓国の造船会社が日本の造船会社の競争相手となっています。日本の造船メーカーは、中国及び韓国の造船会社が得意とする分野ではコスト競争力の面で不利なため、LPG/LNG運搬船、次世代省エネ船、環境配慮型の船舶など付加価値の高い分野や、海洋資源の開発関連などの派生する分野での受注を目指しています。

2. 引合いから引渡しまでの流れ

船舶の建造契約の場合、商談から客先への引渡しまでは、一般的に以下のプロセスを経て行われます。契約・起工・進水・引渡しの各プロセスで客先から入金される契約条件が一般的であり、各プロセスを計画どおり遂行することが重要となります。

(図をクリックして拡大)
引合から引渡しまでの流れ
  • 工程に応じて所轄運輸局や船級協会の検査を受け、就航後も定期的に検査を受けます。
  • ②受注から⑦引渡しまでは、1年から3年程度要するといわれています。

3. 事業リスク及びその対応

(1) 世界経済の変動リスク

現在の船舶需要の多くは、貨物船(コンテナ船、ばら積み船等)やタンカーが占めており、世界経済の変動による海運マーケットの状況及び国内外設備投資動向等によって大きく影響を受ける業種であるといえます。

世界経済の変動に伴って景気の回復が遅れ、海上荷動きや船腹需要の低迷、設備投資の抑制傾向等が長期化した場合、受注環境に影響を受ける可能性があります。

(2) 為替変動リスク

客先は、世界各国の海運会社等であり、契約代金は、主要な通貨である米ドルやユーロで決済されることが多いため、日本の造船会社は、為替変動の影響を受けやすい傾向にあります。そのため、日本の造船会社は、為替予約によるヘッジのほか、決済通貨を円建てとする契約条件で契約交渉を行うことや、材料を海外から調達する等の工夫を行い、為替変動への対応を行っています。

(3) 鋼材価格変動リスク

前述のとおり、契約船価は受注時に決定しますが、船舶の建造契約の場合、契約価額にエスカレーション条項(材料や労務費の価格の変化を金額等に反映させる条項)を織り込まないのが商慣習となっています。すなわち、契約後に鋼材等の材料価格が大幅に変動した場合でも、契約により一度確定した船価については、物価変動による影響を反映・調整しないこととなります。

船舶の受注(契約価格の決定)から客先への引渡しまでは、1~3年の期間を要するといわれており、契約価格にエスカレーション条項が反映されない商慣習は、船舶を建造するにあたり、材料としての鋼材を大量に手配しなければならない造船会社にとって、鋼材価格の動向次第でコストが変動するというリスクとなります。

鋼材価格は鉄鋼メーカーとの交渉で決定されますが、造船会社以外にも鋼材を大量に調達する業種は多く、特に、大口の需要家である自動車メーカーと鉄鋼メーカーとの商談結果にも影響を受ける傾向にあります。

これらのことから、コストダウンのために他社との経営統合を行うことで、鉄鋼メーカーを含む材料調達先との価格交渉力の強化を図り、また価格競争力を維持するために、同一客先と同型の船舶を複数隻連続建造する契約をすることで、設計等の共通作業費用の削減や習熟効果によるコストダウンを図っています。

(4) 投資リスク

船舶は起工から進水までの期間、造船所の船台やドックで船体の組立を行いますが、保有する船台やドックの数により、同時に建造できる船舶の隻数は制約を受けることとなります。よって、造船会社は、船台やドックが効率的に稼働するよう生産計画を立て、客先が指定する契約納期どおりに船舶の引渡しが可能かを勘案して、受注の意思決定を行うこととなります。

そして、設備を新設・更新する際には、多額の設備投資資金や減価償却費負担が必要となり、保有する既存設備においても、受注環境の悪化等によって、生産能力が過剰となる状況が長期化することが予想される場合には、設備の廃却や減損を検討しなければならなくなる等、その影響は大きいものとなります。

また、近年ではコスト競争力強化の観点から、海外子会社や海外の合弁会社等を通じて海外で船舶を建造する動きも見られ、出資先の業績が変動するというリスクにも注意が必要となります。

Ⅱ. 会計処理の特徴

1. 主として適用される会計基準

第1回で記載したとおり、船舶の建造契約は、通常、長期請負工事契約となるため、工事収益及び工事原価の認識、測定及び開示は、基準に基づき処理が行われることとなり(基準31項)、原価計算は個別原価計算が採用されます。

よって、工事契約に関して、工事進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用することとなります。

2. 工事進行基準の会計処理

(1) 工事収益総額について

船舶の建造契約の場合、前述のとおり、契約時に船価が決定されるとともに、決済条件及び決済方法も契約に規定されるのが通常です。なお、対価の決済は、契約時、起工時、進水時及び引渡し時に分割して行われるのが商慣習となっています。

一方、船舶の修繕契約の場合は、契約時に工事施工範囲が決定せず、工事完了後に対価の交渉が行われる場合が多いため、工事収益総額についての信頼性をもった見積りが可能であるかの検討を要することになります。

(2) 工事原価総額について

信頼性をもって工事原価総額を見積もるため、工事原価総額の見積りの見直しを適時・適切に実施する必要がありますが、工事予算の策定・フォロー等に関する業務の分離や承認手続といった、各社の実態に見合った内部統制が適正に構築されているかが重要となります。本稿の冒頭で言及したとおり、日本では高付加価値分野での受注に取り組んでおり、新たな技術を採用した船舶の建造時には、工事予算策定の前提条件を慎重に検討する必要があります。

(3) 決算日における工事進捗度の信頼性をもった見積りについて

第1回で記載したとおり、原価比例法を採用する場合には、当然のことながら、決算日までに発生した工事原価実績について、原価計算基準に準拠した適正な個別原価計算が実施されていることが前提となります。

3. 工事完成基準の会計処理

船舶の建造契約の場合、工事完成基準による収益の認識時点は、船舶の引渡しを伴うとともに、客先による引渡し確認書類の交付及び最終の代金決済が同時に実行される場合が多いため、高い客観性が担保されているといえるのは前述のとおりです。

また、修繕契約の場合は、客先による検収をもって引渡しとされる場合が一般的です。

4. 工事契約から損失が見込まれる場合の取扱い

工事契約から損失が見込まれる場合、工事損失引当金の計上を検討することとなりますが、船舶の建造契約の場合、前述のとおり、為替変動リスク及び鋼材価格変動リスクを負うことが多いため、工事収益総額及び工事原価総額の見積りにあたっては、決算時の現況を適正に反映した数値へ見直されているかの確認が必要となります。

5. 開示

造船業は、従前、財務諸表等規則の別記事業に該当し、財務諸表の開示にあたっては、造船業財務諸表準則を適用することとされていましたが、造船業財務諸表準則は廃止され、09年4月1日以後に開始する事業年度に係る財務諸表等は、財務諸表等規則に従い作成することとなりました。

基準に規定される開示項目については、第1回8に記載のとおりです。

6. 新収益認識基準への対応

(1) イントロダクション

21年4月1日以降開始する事業年度の期首より、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益適用指針)が原則として適用されることに伴い、現在適用されている企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、基準)及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)は廃止されます。 個別受注産業に与える全般的な影響や留意点については、第1回「個別受注契約の会計処理の特徴」をご参照ください。

(2) 造船業に与える影響

造船業における契約形態としては、船舶の建造契約と修繕契約に大きく分かれることから、収益基準がそれぞれの契約へ与える影響について検討を行うこととなります。

(3) 建造契約

現行の基準では、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度について信頼性をもって見積もることができる場合に工事進行基準が適用されています。

一方、今後は履行義務の充足に着目し、一定の期間にわたり履行義務を充足されると判断できるか検討する必要があります。具体的には収益基準38項に照らした検討が必要となりますが、一般に、造船業では自社内の建造ドックや船台にて建造が行われることから、38項(3)①②の要件へ当てはめた検討を行うこととなります。

  • 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
    ばら積み船やタンカー、コンテナ船といった、いわゆる一般太宗船については各造船会社において標準の仕様があるものの、実際に船主から注文を受けると顧客の求め、ないしは造船会社からの提案により、内部の仕様等を含めた詳細設計は各社各様のものとなります。仮に建造途中で顧客から解約され、他の顧客に転用しようとする場合には、多額の追加コストが発生することが想定されます。また、造船業においては船主が監督官を造船所に派遣し、製造過程を常に監督しているため、製造過程の途中で他に転用するということは通常は想定されていません。
  • 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
    履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有している場合とは、契約期間にわたり、企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際に、少なくとも履行を完了した部分についての補償を受ける権利を有している場合です(収益適用指針11項)。具体的には、建造契約において、顧客から契約解除された場合の支払条件として、解約時までに発生しているコストに加えて、会社が得べかりし利益を回収できるようになっているかどうか確認する必要があります。

(4) 修繕契約

現行の基準では工事の完了引渡しがなされるまで原価見通しが難しく、代金も確定しないことから、進行基準を適用するための3要件を満たさないことが多く、工事完成基準で収益の認識を行っているケースが多いと思われます。

一方、収益基準適用後は、履行義務の充足がいつかを検討することとなりますが、通常は建造契約と同じく、一定期間にわたり履行義務が充足されると捉えるケースが多いものと考えられます。

一定期間にわたり充足される履行義務であると判断される場合、進捗度に応じて収益を認識することになります。ただ、前述のとおり、建造契約と比べて原価の見通しは難しいものと考えられます。そのため、進捗度を合理的に見積もれなくても、発生費用の回収が見込まれる場合には、進捗度の合理的な見積りが可能になるまで、回収が見込まれる費用の額で収益を認識する、原価回収基準の適用を検討する必要が生じます(収益基準第45項)。また、収益基準では、例外的な取扱いとして「工期がごく短期」のケースについての会計処理が定められているので、ビジネスの実態を踏まえつつ、この例外的な取扱いを会社の会計方針に組み込むことが想定されます。

(5) 工期がごく短期

工事契約について、取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合、一定の期間にわたり収益を認識するための要件を満たす場合であっても、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます(収益適用指針第95項、第96項)。

新造船は通常、受注から完成引渡しまで2~3年を要します。また、修繕事業は規模、施工内容により工期はまちまちです。そのため、当該取扱いを適用するにあたっては、一律に当てはめるのではなく、実態に合った検討が必要となります。

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