業種別会計
海運業

第3回:海運業準則と海運業の収益・費用

2016.04.26
新日本有限責任監査法人 海運セクター
公認会計士 内田聡/植木貴幸/須藤佳典

1.はじめに

海運業を営む会社も一般事業会社であり、企業会計原則に基づいて会計処理がなされます。すなわち、役務を提供して獲得した貨幣性資産の額をもって収益として計上し、役務を提供のために費消した財貨や用役を費用として計上するという点においては、他の事業会社と異なりません。

ただし、海運業を営む上での事業の特殊性、および、財務諸表等規則および国土交通省の定める「海運企業財務諸表準則」(以下、海運業準則)に基づく別記事業としての位置付けから、一部の会計処理や開示に、他の一般事業会社と異なった点があります。

2.海運業における損益計算書項目

海運業の損益計算書は海運業準則の区分に沿って表示することが求められています。

海運業準則における収益・費用の区分の概略(営業利益まで)は以下のとおりです。

  1. 海運業収益
  2. 海運業費用
    海運業利益
  3. その他事業収益
  4. その他事業費用
    その他事業利益
    営業総利益
  5. 一般管理費
    営業利益

3.海運業の収益形態と収益認識

(1) 海運業収益とその他事業収益

海運業を営むことによる収益を海運業収益と呼び、海運業以外の収益であるその他事業収益と区分した記載が求められています。また、海運業収益自体もさらに、運賃・貸船料・その他海運業収益に区分して記載されます。これにより、損益計算書において海運業で稼得した利益を区分して把握することができます。

(2) 海運業収益の収益発生形態

海運業収益における収益発生形態は以下の三つに大きく分類・開示されます。

① 運賃

最終顧客である荷主との間で締結した貨物運送契約に従って貨物を運送したことによる運賃収益をいいます。また、運賃はさらに貨物運賃とその他運賃(旅客運賃等)に区分されます。

② 貸船料

傭船契約に基づいて船舶を貸与したことによる収益をいいます。傭船契約はその形態により定期貸船料と裸貸船料に大きく区分されますが、そのいずれもがこの貸船料に含まれます。

③ その他海運業収益

運賃・貸船料以外の海運業を営むことによって生じた収益をいいます。

(3) 海運業収益に関する収益計上基準

損益計算書での区分掲記は求められていませんが、貨物運賃は態様として定期船運賃と不定期船運賃に大きく分類することができます。

定期船とは(現在ではもっぱら)コンテナ船のことをいい、不定期船とはそれ以外の油槽船(タンカー)、自動車運搬船、バラ積み船などをいいます。定期船と不定期船とは顧客との契約形態や運航形態、管理手法が大きく異なりますので、それぞれで別の収益計上基準を採用している会社も多いようです。

運賃に関する収益計上基準のうち、慣行として定着しているものは大きく分けて以下の三つとなります。

① 積切出港(出帆)
基準 航海の出港時にすべての収益を計上する方法

② 複合輸送進行基準・航海日割基準
運航に比例して収益を計上する方法

③ 航海完了基準
航海の完了時にすべての収益を計上する方法

① 積切出港(出帆)基準

役務提供過程の早い段階で収益を計上する方法ですが、海運業における運送契約においては一般的に積切の時点で運賃請求権が発生しており、かつ、運送荷物自体を動産担保として保有していることにより運賃回収の確実性が高いことから海運業会計において会計慣行として定着しているものです。

② 複合輸送進行基準・航海日割基準

これらの基準は、運送期間のうちどの程度まで航海が進行しているかを日割等の基準に従って算定し、総運賃のうち期末までに進行した部分の割合を持って収益を計上する基準です。

「複合輸送」とは海上輸送と陸上輸送といった、複数の手段を組み合わせて顧客に提供することを指すため、一般的には当該複合輸送期間のうちどの程度まで輸送が進行したかを算定して収益を計上する基準とされています。複合輸送進行基準は個々の貨物の輸送に着目した方法であり、定期船運賃の計上のための基準です。一方、航海日割基準は貨物ではなく、船舶の航海の進捗を基礎とするもので不定期船の収益認識基準として採用されることになります。

③ 航海完了基準

航海が完了した際に収益を計上するので収益の計上基準としては最も保守的な基準です。わが国では不定期船について多く採用されている会計基準です。不定期船では顧客との個別契約によって一つの航海が決まっており、すべての役務の提供を待って収益を計上することで、航海収支の把握といった損益管理と整合的であるためと考えられます。また航海完了時まで収益を認識しないため、海運業費用における見積要素の影響を低くすることが可能となります。

④ 運賃以外の収益計上基準

運賃以外の収益の計上基準については、運賃のように特有の基準は設けられておらず、他の役務提供を営業目的としている企業と大きく変わるところはありません。例えば、貸船料は傭船期間が契約によって定められていますので、傭船期間のうち、すでに経過した日数を日割で計上している企業がほとんどではないかと思われます。

4.費用の発生態様と会計処理

(1) 海運業費用

海運業収益に対応する役務原価が海運業費用です。海運業費用は運航費、船費、借船料、その他海運業費用に区分されます。

① 運航費

運航費には、船舶の運航に伴って発生する費用のうち、直接的、変動費的に発生する費用が集計されます。また、海運業準則上、運航費はさらに貨物費・燃料費・港費に区分されます。

  • 貨物費
    海運会社の収益のうち、多くが貨物輸送によって占められていますが、貨物費とは当該貨物の揚げ積みにかかる費用など、貨物の取り扱いに際して発生した費用を指します。
  • 燃料費
    貨物費は「貨物」に関連して発生する費用ですが、燃料費は「船舶」の稼働に要することに関連して発生するものです。船舶の燃料である船舶用C重油等の棚卸計算により計上されます。
  • 港費
    船舶が港に入出港および停泊した際に生じる費用です。入出港に際しての曳船(えいせん)料等の港湾作業料、岸壁使用料等の港湾施設料、トン税(各港の所在国および所在都市が外航船舶の寄港に課するトン数に比例して課される税金)やスエズ運河等を通過する際の運河通航料等が含まれます。

貨物費が貨物の取扱量を、燃料費が航行距離と燃料の距離当たり消費量、燃料単価をそれぞれドライバーとして変動する費用であるとすると、港費は寄港回数と繋留(けいりゅう)日数に比例する変動費であるといえます。

② 船費

運航費が船舶の運航に伴って直接的、変動費的に発生する費用であるのに対し、船費とは船舶を所有し、維持管理するために生じる費用であり、通常、間接的、固定費的に発生する費用として分類されます。 船舶を運航するためには船員の配乗が必須となりますが、それら船員の給料である船員費(退職給付費用や賞与引当金繰入額を含む)が発生します。

また、不測の事態に対処するために必須である船舶保険(船舶の毀損(きそん)を保証するもの以外にも船舶の不稼働損失保険、コンテナの輸送事故を担保するコンテナ保険等を含む)も船費を構成する要素です。

船舶の所有と維持に関する費用も船費となり、船舶に関する減価償却費や船舶修繕費、固定資産税、第2回で説明した特別修繕引当金繰入額が船費に含まれます。

③ 借船料

借船料は、貸船料とは反対に傭船契約に基づいて船舶を借りたことに対する対価の支払いを表す費用です。

また、当該借船料に計上される傭船契約は、大きく定期傭船契約と裸傭船契約に区分されます。定期傭船契約とは、賃貸借と労務提供の混合契約とされ、船舶の運航(船員の配乗やメンテナンスを含む)自体は船主が行い、傭船者が運航を指示するという形態をとります。これに対して裸傭船契約とは、傭船者が船主より船舶自体を借り受ける傭船形態です。すなわち、裸傭船契約とは船舶という固定資産のみを賃借する契約であることから、リースの一形態であるといえます。

④ その他海運業費用

その他海運業費用には他船取扱手数料やコンテナ関連施設の使用料、保管料等が含まれます。その他海運業費用につき、海運業費用合計額の100分の10を超える場合は別掲が必要となります。

(2) 一般管理費

海運会社が事業を営むに当たって発生する費用のうち、全社的な管理業務に対して発生した費用については、海運業費用とは区別して「一般管理費」として処理されます。なお、「一般管理費」とは海運業準則上の科目ですが、海運業界においては当該費目を一般的に「店費」と呼び、陸上で発生する費用から構成されます。

一般管理費の主要な科目としては、役員報酬、従業員給与(陸上勤務員に対するもの)などの人件費項目や、減価償却費(陸上勤務員が使用する設備に関するもの)などが挙げられます。

5.海運業における財務諸表の表示

前述のとおり海運業は別記事業とされており、その個別財務諸表は海運業準則に従って表示することが求められています。海運業準則では、①損益計算書、②株主資本等変動計算書、③貸借対照表、④附属明細表の順に表示されることになっており、損益計算書が先にくることが特徴的です。また、④の附属明細表には海運業収益および費用明細表、減価償却費明細表といった海運業準則に特有の明細表があります。また、損益計算書では海運業収益、海運業費用、貸借対照表では、海運業未収金、代理店債権、船内準備金などの海運業特有の勘定科目が定められています。


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