業種別会計
海運業

第2回:固定資産と資金調達

2016.04.26
新日本有限責任監査法人 海運セクター
公認会計士 内田聡/植木貴幸/須藤佳典

1.はじめに

海運会社は船舶を運航して運賃収入を稼得し、また船舶を貸し渡すことにより傭船収入を得ることがその活動目的となっています。そのため、船舶とは業務遂行のための主要な資産であって、その投資額も重要なものとなります。また、税法上の耐用年数は13年や15年となっており、長期の投資案件となります。

このように、海運会社では船舶に対する設備投資が重要となるため、船舶の建造およびその資金調達、保有等にかかる論点を説明します。

2.船腹の確保方法と会計処理(社船、仕組船、傭船)

日本の海運会社が支配する船舶の保有形態として、大きく「社船」と「仕組船」に大別されます。

(1) 社船

「社船」とは、船舶を自社で保有する形態です。日本法人である会社が保有する場合、その船舶の船籍は日本となります。この場合、日本法の適用を受け、これに従った船舶の登記や固定資産税の支払いが必要になります。日本の外航海運会社でこのような保有形態をとることはまれなケースです。これは後述する仕組船会社での保有のメリットが非常に大きなものであるためです。

しかしながら、日本でも近時の税制改正によってトン数標準課税(トン税)制度と同様の効果を有する税額控除制度が設定されました。トン税制度とは会社の所得に対して法人税が課されるのではなく、船舶のトン数に応じて課税されるもので、海外では比較的一般化している海運会社への課税方法です。この税制改正では日本船籍の外航船舶のトン数を対象としますが、制度の導入による日本船籍船舶数の増加については注目されるところです。

(2) 仕組船と仕組船会社

① 仕組船とは

「仕組船」とは、パナマやリベリアなどの海運に有利な税制等を採用している国に設立した子会社名義で船舶を建造し、それらの国の船籍で登録・保有させ、日本人船員に比して安価な外国人船員を配乗させた上で傭船して運航する船舶をいいます。パナマなどは便宜置籍国と呼ばれ、これらの国に設立した会社(仕組船会社と呼ばれます)が船舶を保有する形態をとることで、所在国の船籍を得られます。これらの会社で船舶を保有する場合には日本法の適用を受けず、その所在国法の適用を受けます。便宜置籍国は日本に比して船舶の保有や稼得した利益に対する課税が緩やかであり、また、配乗する船員についても国籍などによる制限がほとんどないことが特徴です。

② 仕組船の管理

このように便宜置籍国の船籍を得てメリットを享受すべく「仕組」んでいるわけですから、その設立から造船契約・資金の調達などすべてが親会社によるコントロールにより行われます。例えば、船隊整備や損益計画を担当する企画部門、顧客を獲得する営業部門、建造資金を調達する財務部門の協議により船舶取得の意思決定が進捗(しんちょく)していくことが考えられます。

なお、仕組船会社は船舶1隻ごとに設立される場合が数多く見受けられます。これにより事故や契約の不履行などにより船舶を所有する会社の資産が拘束されるリスクを最小化することが可能となります。また、船舶ごとの投資回収を明確化することが可能となります。これにより多数の仕組船会社を管理することになるため実際の経理事務などは親会社の経理の一部門等がまとめて代行する場合が見受けられます。

③ 仕組船に関する船舶の会計処理

船舶の取得原価は、他の固定資産と同様に購入価格に付随費用を加えることにより決定されます。ただし、船舶への投資が数十億円と多額で、契約・製造開始から完成引き渡しまでに数年かかる場合もあることから、建造期間中の借入利息を取得原価に算入する方法が採用される場合もあります。

造船契約による船価の支払いは、契約締結時を初回とする通常4回程度の分割払いで、最終回の引き渡し時の支払額が一番多額に設定されます。仕組船会社はそれ自体では資力がありませんから、契約時の初回支払い等は親会社の資金をつなぎで貸し付け、最終回までに金融機関からの本ローンを調達することが多く見受けられます。外部の金融機関は、仕組船会社に対して貸し付けを行いますが、通常親会社の債務保証により貸し出しリスクを軽減しています。この結果、仕組船会社の貸借対照表は資産の部に船舶・負債の部に借入金が計上されるというシンプルなものになります。

【仕組船会社による船舶保有とBS・PL】

仕組船会社による船舶保有とBS・PL

仕組船会社で船舶を保有する場合には、海運会社である親会社の個別貸借対照表に船舶が計上されないことになります。また、外部から建造資金を調達した場合であっても、仕組船会社が調達しているので、借入金も計上されません。親会社の個別財務諸表では、仕組船会社の持分が子会社株式として、外部から建造資金を調達していない部分につき子会社への貸付金がそれぞれ計上されるのみです。また、仕組船会社における金融機関からの借入金は、親会社の個別財務諸表において、保証債務注記として開示されることになります。

これに対して連結財務諸表では、親会社の子会社株式と仕組船会社の資本金、親会社の貸付金と仕組船会社の親会社からの借入金が消去され、船舶と金融機関からの借入金が残ることになります。また、個別財務諸表で注記していた保証債務については、連結貸借対照表上の借入金として計上されるため、注記対象ではなくなります。その結果、海運会社の連結財務諸表は個別財務諸表に比して、船舶と借入金が大きくなり、債務保証注記の金額が少なくなります。

【仕組船会社の連結】
仕組船会社の連結

(3) 船腹の外部調達(傭船契約)

海運会社が仕組船会社を設立するのと同様に、船舶の保有・貸渡しを業とする船主会社が海外に子会社を設立して保有する場合があります。これを短期・長期の貸船として投入することで貸船収益を得るものです。

これらの船舶を連結グループ外部から傭船する場合には、保有船舶の不稼動リスク、価値下落リスクを回避し、財務諸表上の有形固定資産・有利子負債が圧縮されるため資本効率の観点からもメリットがあります。

3.資金調達と為替リスク・金利変動リスク

外航海運業では、運賃や貸船収益は米ドル建てを基調としています。

売り上げにより回収される代金は、船舶建造のために調達した資金の返済原資となるわけですから、代金回収側通貨と調達側の通貨が相違する場合には、為替リスクが生じることになります。一方、近年では日本の超低金利政策により、日本円での調達によって船舶の建造・運転コストを低く抑えることも行われます。造船所への支払いについても、国内取引では円貨か外貨の選択があります。

例えば、ドル収入の上がる船舶については、契約船価をドル建てとしてドルの資金調達を行うことで為替リスクの回避を行うことができます。他方、日本円の低金利メリットを生かしつつ、安価な海外の造船所で建造を行う場合には、円貨で調達した資金を海外造船所に支払うためにドル転することもあります。

また、船舶への投資が長期にわたることから、金利変動についても検討することになります。そのため資金調達においても変動金利と固定金利をどのように使い分けるかが重要となってきます。

このように、収入・調達・ランニングコストでさまざまな通貨が登場するため、海運会社ではこのようなリスクをコントロールする必要があります。その手段として、前述の調達する通貨の選択、通貨や金利のデリバティブの利用が行われることになります。その多くは為替や金利のリスクをヘッジすることにあるため、ヘッジ会計の採用が行われる場合もあります。

会計処理・開示に当たっては、これらのデリバティブ等を含めて、どのようなスキームで船舶が建造・運航されているかに留意する必要があるものと考えます。

4.船舶の減価償却

他の固定資産と同様、船舶についても取得原価配分による費用化は減価償却により行われます。減価償却の方法は、その利用形態により減価の様態を適切に表現する方法が選択されることになります。国土交通省の定める海運企業財務諸表準則において、船舶の減価償却方法は定額法・定率法・運航距離比例法のいずれかによることとなっていますが、運航距離比例法は一般的ではありません。また、一定の要件を満たすものについては、税法上の特別償却が認められております。

5.特別修繕引当金

船舶については、その運航の安全が重要視されます。そのため、船舶の構造や安全性などについて定期的に検査を受ける必要があります。定検は5年ごとに行われ、その間には中間検査(中検)も行われます。定検にかかる費用が重要な場合には特別修繕引当金の計上が行われます。これは適切な期間損益計算の観点より、次回の定検による修繕費用を期間配分するためです。

なお、日本の法人税法では、直近の定検費用の4分の3を限度として、次回の定検までの期間に応じて特別修繕引当金繰入額の損金算入が可能となっています。実務上は、船舶への規制変更による修繕内容の重要な変更がないことを前提として、税法に準じて前回の定検費用に基づいて計上する方法などが考えられます。

なお、国際財務報告基準においては特別修繕引当金の計上は認められていません。


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