業種別会計
海運業

第1回:海運業の特有のビジネスと会計の概要

2016.04.26
新日本有限責任監査法人 海運セクター
公認会計士 内田聡/植木貴幸/須藤佳典

1.はじめに

海運業とは、一般に船舶を用いて旅客又は貨物を海上輸送するというサービスの提供、又は船舶を貸し渡すことによって収益を得る事業をいいます。

海運業は運航領域によって、国内の海上輸送を行う内航海運と日本国内以外の海上輸送を行う外航海運に分類されます。

本稿においては、もっぱら外航貨物輸送をターゲットとして、第1回では事業内容の概観とともに主要な論点や経営課題を紹介し、第2回以降で船舶や収益・費用などといった各論点について説明します。

2.海運業の事業内容

海運業は船舶を購入又は賃借して船腹(輸送量としての船舶)を確保し、顧客との間に運送請負契約を締結して、ある地点からある地点まで貨物を海上輸送することによって、あるいは船舶の貸し渡しにより収益を獲得する事業です。

(1) 船腹の調達・確保

① 船舶の種類と保有・調達形態

外航海運業における貨物船は、船種によって油槽船(オイルタンカー)、LNG船、バラ積み船(バルク船・バルカーともいい、鉄鉱石や石炭などを輸送する一般的な貨物船)、コンテナ専用船、自動車船などに分類されます。

海上で貨物を運搬するというサービスを提供するためには、船腹を確保することが必要です。船舶の調達形態は以下のように整理できます。

【日本の海運企業における船腹の調達形態の整理】
自社(グループ)保有 社船(日本籍船)
海運会社が自ら保有する船舶を社船という。日本籍船とは、日本の官公庁や国民(法人を含む)の所有船をいい、一定数以上の日本人船員を配乗させる必要がある。

仕組船(便宣置籍船)
運送会社が、主としてタックス・ヘイブン国等に設立した子会社に船舶を建造・保有させた船を仕組船という。当該子会社(仕組船会社)から傭船契約により、親会社が借り受けて利用する。

共有、ジョイント・ベンチャー
高価な船舶について投資リスク回避のため、船舶を共有したり、船舶保有会社を共同で設立して船舶を保有すること。

傭船

傭船(用船)
荷主又は運航業者が船舶を船主から借り受けて貨物の輸送を行うこと。船員の配乗の有無によって一定期間の契約は定期傭船と裸傭船に区分される。航海単位の契約である航海傭船もある。

仕組船会社による保有は海運業において特徴的なところであるため、第2回で詳述する予定です。 海運業では、市場での需給バランスに合わせて、自社グループ保有と傭船(ようせん)を組み合わせて船隊を形成し、輸送サービスを提供しています。

②船舶の売買

船舶という固定資産の特徴は一般のメーカーが保有する製造設備とは異なり、特定の場所に固定されているものではありません。また船舶建造に関する規制は、主要な船級協会によって国際的な調整が行われており、基本的にどの国でも使用することが可能です。そのため、船舶は営業のための固定資産であると同時に売買可能な商品としての性格を併せ持っています。そのため、船舶の確保の方法としては、新造や傭船以外に中古船舶の購入も選択肢となります。

(2) 資金調達の特徴

船舶を建造するためには多額の資金が必要となります。一般的なケープサイズ(100,000トン以上の大型船)のドライバルク船は50億円程度、大型LNG船では200億円近くとなります。 建造資金は、基本的には銀行などから調達します。船舶建造に対する融資は、長期かつ多額の案件となるため、そのプロジェクトの将来収益に対して厳しい審査が実施されます。

通常の借り入れのほか、リースによる船舶の調達も行われています。

(3) 船舶の運航

船舶を運航して貨物を運搬するためには、貨物の取り扱いコスト、船を動かすための燃料費、港湾での手続き費用、船員の人件費、などが必要になってきます。また自社船であれば減価償却費や保険料、傭船であれば借船料(傭船料)がかかります。

(4) 海運業の収益と代金回収

① 運送契約と運賃決定方法

あらかじめ決まった航路を決まった寄港スケジュールで運航されるものを定期船といい、顧客などの求めに応じた航路・スケジュールで運航されるものを不定期船といいます。現在の外航海運において定期船はもっぱらコンテナ船のことをいい、それ以外は通常不定期船に分類されます。身近なバス事業に例えれば、定期船であるコンテナ船は乗り合いの路線バス、不定期船が貸切バスといったイメージになります。

不定期船の運航会社は世界中に多数あり、その運賃単価は海上輸送需要と供給船腹の需給バランスを基礎として市場で決定されます。主な指標として、外航海運のバラ積船についてはバルチック海運指数(BDI)、タンカーについてはワールド・スケール(WS)などがあります。これらの指標をもとに、航路、船型、さらに期間等を加味して、顧客と海運会社の間で運賃が個別的に決定されます。一般的に契約期間は大型船であれば長期の傾向にあり、小型船になれば短期もしくはスポットでの契約が多くなる傾向にあります。

定期船であるコンテナ船の運賃の決定に際しては、通常、運賃タリフ(標準運賃表)を適用することになります。これは、定期航路を行き来する間に各寄港地でコンテナ単位の輸送を請け負うことから顧客が不特定多数になり、標準的な単価を設定する必要があるためです。

また近年の原油価格の変動に伴って注目されるのが、バンカーサーチャージ(bunker surcharge)です。燃料割増料(BAF:Bunker Adjustment Factor)とも呼ばれ、燃料油価格の変動を運賃に反映させる仕組みです。通常、運送契約に盛り込まれ、燃料油のマーケット価格に応じて運賃を精算します。これによって原油価格の変動という海運業界へのリスク要因を一部緩和する結果となっています。

さらに不定期船では早出・滞船料が精算されます。早出・滞船料とは荷主・運航会社間で授受される荷役のための停泊時間にかかる調整金で、当初合意した停泊時間を超過すれば滞船料を運航会社が受け取り、短縮されれば荷主が早出料を受け取ります。早出料は荷主が効率的な荷役をするためのインセンティブとなり、滞船料は船舶が長く拘束されたことに対する運航会社の逸失利益をカバーすることとなります。

② 代理店の利用

海運業における貨物輸送サービスでは顧客と運送契約を締結し、運賃・貨物と引き換えに船荷証券(B/L)を発行します。また、積地において貨物を受領後、海上輸送を行い目的地の港に入港料や岸壁使用料などを支払って入港し、貨物を積み下ろして引き渡しを行います。これを各地の港で繰り返すことになります。

すなわち世界各所において揚げ積み作業や運賃の収受が行われることになります。そのため、各地(各港)に業務の拠点が必要となります。これら世界中の拠点をすべて自社で賄うのは困難なため、各港にある海運代理店を起用して業務の委託を行うことになります。近年では貨物取扱量の多い地域では海運会社が子会社を設立して代理店業務を行わせることも見受けられます。

(5) 修繕の特徴

船舶は安全運航が求められるとともに長期にわたって使用されるため、船舶安全法やその他船舶の安全・環境にかかる国内・国際ルールにより5年に一度は修繕ドックに入って定期点検(定検)を行うことが課されています。

会計上は定検のコストが重要な場合につき、次回の定検で見込まれる修繕費の当期負担額を引当金として計上することが一般的となっています。

3.海運業の事業の特徴と経営課題

(1) 世界経済の動向など外的要因に大きな影響を受けること

① 市場が世界規模であり、世界の貨物運輸需給動向から大きな影響を受けること

外航海運におけるビジネスモデルにおける大きな要素として、「ワールドワイドにおける競争市場の形成に伴う収益・費用に対する外的要因の大きな作用」という点が考えられます。例えば不定期船における価格変動の影響につき前述のBDIの推移を見ると、最も値動きの激しいBCI T/C Avg.(ケープサイズ船舶の定期傭船平均価格)では、北京オリンピックの前後で、2008年2月に$80,000程度であったものが、4カ月後の2008年6月には3倍程度上昇し、また、その3カ月後の2008年9月には$80,000の水準に戻るといった動きを見せました。その後もリーマンショックといった景気変動の影響をうけています。

このように、世界におけるモノの動き(資源と生産物の需要の増減)に価格と量の両面でダイレクトに影響を受けるのが海運業における収益・費用の特徴的なところです。

② 為替レートの影響を受けること

外航海運業での主要な取引通貨が米ドルであるため、一般に日本の外航海運会社の収入については米ドルの割合が非常に高く(近年ではユーロ取引も増加しています)、費用は円の割合が高いといった環境にあります。そのため、為替レートの変動については、為替予約などのデリバティブ等によってヘッジを図っているものの、円高の局面になると各社は大きく利益を減少させることになります。

③ 原油価格、人件費の影響を受けること

原油価格の変動は、海運会社にとって燃料費の増減につながります。また、外国人船員についてはマンニング業者という船員配乗会社からの派遣を受ける形態をとるため、貨物輸送需要が高まる局面では船員費の増加といった要素もあります。

(2) 船舶は高価な資産であり、設備産業であることること

船舶は1隻でも高価な資産ですが、顧客の要求を満たすためには一定以上の規模の船隊を確保する必要があります。前述のように新造船価は数十億から200億円程度と、設備投資額は多額になります。そのため船舶を安全に運航し、投資を確実に回収することが求められます。他方で設備資金の調達についても多額・長期に行われることから金利変動や為替変動の影響を十分に考慮することになります。

(3) 海運業における経営課題と対応

このように、差別化が困難で市況の影響を大きく受ける業種であるとともに、反面、製造業的な装置産業の側面も併せ持つ海運業においては、
① 費用(特に固定費)を最小化すること(不況期)
② 需要に対応できる体制をとること(好況期)
という、相反する経営目標に対応することになります。

自社船舶に余裕があれば需要増に対応することが可能となりますが、他方で不況時には過剰設備となるリスクがあります。これに対し傭船により調達する場合には、需要増加時に傭船料が高騰するリスクがある一方で、景気後退時には固定費の負担が少ないということがメリットになります。海運会社では自社保有と傭船を組み合わせることや長期・短期の傭船契約を組み合わせることで対応することになります。

また、輸送する貨物の種類(すなわち提供する船種)の組み合わせや、海運業以外の事業との組み合わせによって景気変動に対応していくことも見受けられます。

【世界経済市況・業務の流れとBS・PLへの影響(イメージ)】

(下の図をクリックすると拡大します)

海運業

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