小売業 第5回:ポイントサービスのビジネスモデルの特徴と留意すべきポイント

2017年3月27日
カテゴリー 業種別会計

小売セクター
公認会計士 荒川みどり/津田昌典/長沼徳宏/吉田一則

小売業においては、顧客に対してポイントを付与し、次回以降の買上時の値引きや、商品等との交換といったポイントサービスを提供することがあります。これは、顧客に自社の商品やサービスにお得感を感じてもらうことにより他社との差別化を図り、リピーターになってもらう、いわゆる顧客の囲い込みを目的としています。これからは、ポイントサービスのビジネスモデルの特徴と、主に内部統制面での留意事項を述べます。

1. 一般的なビジネスモデルと特徴

顧客の囲い込みを目的としてポイントサービスを導入する会社は従来、多く見られますが、近年ではポイントを通じて得た顧客情報を解析して、商品開発や販売戦略に活用する事例が増加しています。例えば、過去の購入履歴から提携企業のクーポンをレシートとともに発行したり、「この商品を買ったお客さまはこんな商品も買っています」と関連商品のPRをしたりするといった事例があります。

また、各社でそれぞれポイントサービスを提供するよりも、複数の会社が提携して共通のポイントを提供する潮流があります。共通ポイントとしては、Tポイント、Pontaポイント、楽天スーパーポイント、dポイントなどがあります。また、この他にも電子マネー系のWAONポイント、nanacoポイント、WALLETポイントなどがあり、各陣営は提携会社を増やすべく、競争がますます激化しています。ポイントサービスの提携会社が増えると、各社が断片的な顧客行動のデータを保有するよりも、より多くの顧客情報を収集できるとともに、顧客の立場からも多数のポイントカードを保有する不便さを解消できます。

ポイントの付与及び使用、残高管理をするためには、システムの開発・運用が欠かせません。また、ポイントサービスの運営には、設備投資やランニングコストが必要となります。

2. 留意すべきポイント

  • 顧客情報の管理とインフラ整備

ポイントを通じて、多くの顧客情報を入手することになります。顧客の属性、購買履歴など、実店舗で顧客情報を管理してきた以上に、より膨大かつ詳細なデータの管理が不可欠であることから、顧客データ管理についてのセキュリティーレベルを確保する必要があり、情報流出リスクへの十分な対応が求められます。

また、ポイントサービスの導入に当たっては、ポイント管理を行うシステムについて、全て自社資産とするのか、投資コストに鑑みて外注やクラウドを利用するかを検討する必要があります。全て自社資産とする場合には、導入後に投資の回収可能性(減損の要否)を検討していくことが求められます。また、クラウドであっても、実質的にはカスタマイズにより独自の仕様となっている場合(クローズドクラウド)には、ファイナンス・リースとして自社資産と同様に資産計上する必要がないかに留意します。一方、オープンクラウドであれば、毎期費用処理を行っていくことが多いと思われます。

共通ポイントサービスに加盟する場合、一般的にはポイントや顧客情報の管理は、ポイント運営会社が行うことになるため、前述の情報流出リスクへの対応や、システム投資の負担はない一方、一定のランニングコストを負担することになります。また、将来的に共通ポイントサービスから脱退する場合には、顧客情報が何も残らない可能性があるため、導入に当たっては十分に検討する必要があります。

  • 内部統制上の留意点:ポイント引当金の計算と管理システム

引当金の要件を満たす場合、ポイント引当金の計上が必要となります。一般的に「期末ポイント残高×(1-見積失効率)」といった算定式により計算を行うため、ポイント残高やポイント付与時期ごとの使用状況を定期的に把握できるよう、システム設計時から留意する必要があります。 また、ポイントサービスの中には、累計買上額に応じて決定されるランクに応じた倍率でポイントを付与するようなケースも見受けられます。この場合、ポイント残高の他に、顧客の買い上げ金額を集計する必要がありますが、これをポイントシステムで管理するのか、既存の営業管理システムで管理するのかによって、整備すべきシステムの内部統制が異なることに留意が必要です。営業管理システムや会計システムとのインターフェースを行うかについても、業務負荷との比較衡量により検討を行う必要があります。

  • 内部統制上の留意点:不正防止の観点

付与されたポイントは値引きや商品との交換が可能となるため、現金と同様の価値を有しており、ポイントを不正に付与し、不当な利益を得る不正につながることを念頭に置いた、厳重な管理が必要です。

システム上で、あらかじめ設定された条件を基にポイント数を自動で計算・付与できるようにし、システムへのアクセスを必要最低限の作業者のみに制限することにより、不正リスクを低減できます。

販売促進の一環として「キャンペーン期間中ポイント5倍」のような、通常とは異なる条件でのポイント付与を行うことがあります。このようなキャンペーンポイントの付与については、事前にキャンペーンの付与条件に基づきプログラムを変更・追加し、日々の付与処理を自動化する方法や、事後的に売上実績に基づき手作業で付与ポイントを集計し、ポイントシステムへ反映させる方法などが考えられます。

いずれの方法によるとしても、通常とは異なる付与フローを整備する必要があり、ポイント反映が適時・適切に行われるように留意するとともに、不正付与がなされないよう厳重な管理が必要であることを念頭に置くべきです。

参考文献

  • 『ポイント制度の会計と税務 - カスタマー・ロイヤルティ・プログラムのすべて-』(税務経理協会)
  • 『「ポイント・会員制サービス」入門』(東洋経済新報社)
  • 『常勝! ポイントサービス戦略』(アスベクト)