小売業 第1回:小売業の概要と百貨店業

2016年4月5日
カテゴリー 業種別会計

小売セクター
公認会計士 衣川清隆

本シリーズでは、業種別に事業の特徴に注目し、事業の概要、業種における特徴的な会計処理や開示、関連する内部統制などについて分かりやすく解説したいと考えています。なお、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをお断りしておきます。

はじめに

小売業における商品は、最終品として消費者にとって身近なイメージがありますが、一言に「小売業」といっても様々な業種・業態があり、それぞれ特徴も異なります。本稿では、シリーズのねらいに沿い小売業全体の概要をつかみ、業態ごとの会計処理・内部統制の特徴を解説します。

第Ⅰ章 小売業の会計処理の概要と内部統制上の特徴

1. 会計処理の概要

(1) 商品売上と賃貸収入

小売業における販売パターンには、次のようなものがあります。

  • 自社販売...仕入形態により買取仕入、委託仕入、売上仕入
  • 賃貸契約方式

収益の表示方法につき、自社が一連の営業過程に関して通常負担すべき様々なリスクを負っていない場合には、通常、収益の総額表示は適切でないとされています。

(2) 売価還元法

小売業における棚卸資産の評価方法としては、売価還元法も一般的に利用されています。

(3) 設備、店舗戦略

集客力を向上させるような魅力ある店舗を備えるため、また店舗拡大と閉鎖はその事業戦略に直結するものであるため、次のような取引は比較的頻繁に行われています。

  • 設備の修繕及び設備の購入、設備の除却・廃棄
  • リースによる設備調達
  • 建設協力金の受取りによる設備調達
  • 取引先からの設備の受贈

会計上、資本的支出及び収益的支出の判断を行うほか、リースにより調達した場合には、リース基準に従い所有権移転・移転外ファイナンス・リース、オペレーティング・リースに分類を行い、会計処理を行うこととなります。

(4) ポイント制度

顧客の囲込み戦略として広くポイント制度が利用されています。ポイント制度とは、販売金額等の一定額をポイントとして顧客に付与し、一定時点から(場合によっては一定期間内に)当該ポイントを現金同等物として利用可能とするものです。各小売業者により制度の詳細は異なりますが、自社カードを発行し、ポイント管理と同時に顧客情報を管理する仕組みをとる傾向にあります。

ポイント制度の会計処理について、現在我が国に明確な会計基準は存在しないため、各小売業者の制度内容や考え方により会計処理方法に相違が生じています。

(5) 商品券

(4)と同様に、商品券(ギフト券、クーポン券含む)も広く利用されます。商品券とは、小売業者の発行する一種の有価証券であり、保有者は券面金額に相当する商品等の提供を受けることができます。発行者には小売業者のほか、協同組合、グループ企業などが挙げられます。

商品券の発行時には前受金等の負債として、利用時には売上として会計処理することとなります。また、商品券について負債計上を中止した場合には、その利用可能性に備え、引当金計上の要否を検討する必要があります(監査保証実務委員会報告第42号)。

(6) リベート

仕入先から各種リベートを受け取ることがあります。リベート取引は、名称の如何を問わず、リベートが実質的に仕入価額の一部減額又は返金であれば仕入価額から控除し、実質的に販管費の負担であれば販管費の減額として会計処理することとなると考えられます。

(7) 中元・歳暮等

小売業においては、特殊な販売形態としてギフト商品販売があります。その典型として中元・歳暮の販売が挙げられます。中元・歳暮等は、確実な商品送付及び囲込み戦略の観点から、事前に注文を受け対価を受領し、時節の時期に特定の送り先へ物品を引き渡すような販売形態です。

実務上、対価の受領時点で収益認識を行うことも少なくないと考えられます。

2. 内部統制上の特徴

(1) 現金及び商品の盗難等のリスク

最終消費者へ直接に販売する小売業では、代金決済方法は現金取引が主となり、また、商品の直接引渡しを主とするため店頭には商品が陳列されます。結果、従業員は日常的に現金及び(高額)商品を取り扱うため、またこうした動産は持ち運びが容易であるため、現金・商品の盗難等のリスクは高いといえます。

ゆえに、レジ、店頭、バックヤードの管理に留意し、従業員の入退店、現金の持ち運び、集金等に厳格な定めを設け、リスクを防止・発見できるような内部統制上の仕組みが必要です。

(2) 商品券の管理

商品券は、発行されるまではただの装丁を施された紙切れでしかありませんが、発行されたときからいわゆる有価証券としての価値が生じることとなります。ゆえに、従業員等により不正に商品券が発行されないよう、発行方法の定めや商品券番号を台帳管理するような内部統制上の仕組みが必要です。

第Ⅱ章 百貨店業

1. 百貨店業とは

わが国の百貨店は、三越をはじめとした呉服店から発展したものと、阪急など電鉄資本によるものが主流をなしています。経済産業省の商業統計上、①従業員50人以上の商業事業所で、②衣食住の商品群の各販売額が小売販売総額の10%以上70%未満であり、③セルフ方式店に該当しない商店が百貨店として分類されています。

百貨店の取扱商品構成としては衣料品が3.4割、食品が2.8割、雑貨が1.5割前後のシェアを占めており(日本百貨店協会平成26年全国百貨店年間商品別売上高)、他の小売業態とは、「都市立地」、「ファッション性」、「非日常性」、長年の歴史・のれんからの「安心・安全」などで差別化を図っています。

2. 百貨店業の特徴

(1) 仕入形態

第Ⅰ章 3. にて記載のように百貨店の仕入形態には次の3種類があります。

① 買取仕入
仕入先から商品を買い取る仕入形態です。仕入段階で仕入先の瑕疵がない限り返品はできません。百貨店は納入時から在庫リスクを負うことはもちろん、保管責任を負担することになります(完全買取という)。
なお、商品が売れ残った場合に実質的に返品が許される買取仕入形態もあります(条件付き買取という)。

② 委託仕入
仕入先から一定期間、商品を預りその販売を委託される仕入形態です。百貨店は在庫リスクを負担しませんが、保管責任を負担することになります。

③ 売上仕入(消化仕入ともいう)
貨店の店頭において販売されたときに仕入れたとする取引形態です。百貨店の店頭に存在する商品であっても、販売されるまではその所有権及び保管責任は取引先にあり、商品の販売価格決定権についても原則的に仕入先が有します。百貨店は通常、在庫リスクも、保管責任も負担しないことになります。

(2) 販売形態

販売形態には大部分を占める店舗販売と店外販売の2種類に大別され、店外販売には外商や通信販売、WEB販売などがあります。外商は、法人や特別の個人顧客先に訪問して販売する形態や商社的に法人と取引をする販売形態をいいます。

(3) 代金回収方法

百貨店は、法人・個人など不特定多数の顧客の利便性追求を志向し、その回収方法は現金、商品券等の金券、クレジットカード及び自社クレジットカード(以下、ハウスカード)による掛売りなど多岐にわたっています。多くの百貨店がハウスカードを発行しており、カード会員の多い百貨店ではハウスカード売上の占める割合は高まっています。

(4) 棚卸資産

百貨店の取扱商品は多品種かつ大量であり比較的短期で入れ替わるため、個別商品単位で原価情報を把握するとなるとその管理に膨大なコストがかかります。この点、商品には販売価額(売価)を記した値札(バーコード入りタグ)が付されており、これにより発注から販売・棚卸まで売価にて終始一貫した商品管理を行うことができます。よって商品管理は、値札を管理する店別、部門別、種類別等を単位とした売価により行っていることが多いといえます。

(5) 改装(リニューアルともいう)

百貨店では、重要な販売促進活動の一つとして店舗の改装の頻度が他の小売業態と比して多いことが特徴的です。改装は店舗単位で多額な投資が行われる大規模なものと、テナント単位の小規模なシーズンものがあります。

(6) 商品券

百貨店では自社グループでのみ使用できる商品券及び日本百貨店協会に加盟している百貨店で使用できる商品券(全国百貨店共通商品券)を発行しています。現金と引き換えに商品券を顧客に引き渡し、商品引渡時にこれを対価として回収するといった販売方法をとります。商品券の発行は、顧客の囲い込み戦略の一つです。

(7) 友の会

友の会制度とは、顧客が会員となって一定期間、一定額の積立てを行うと、満期時に積立総額に加えてボーナス分をプラスした「買い物券」を利用できる制度です。例えば、毎月10,000円積み立てるコースを選択した場合には、1年後に12カ月分の積立総額120,000円に加えて1カ月分のボーナス分をプラスした130,000円の買い物券を利用できることになります。友の会制度も顧客の囲い込み戦略の一つです。

3. 百貨店業の業務の流れ

(1) 仕入

① 買取仕入
百貨店のバイヤーが商品名、数量を発注システムに登録し、EOS等で仕入先に発注を行うと物流センターや店舗の検品所に商品が納入されます。納入された商品は検品所で物流担当者により検品がなされ仕入計上されます。

② 売上仕入(消化仕入)
売上計上されるとともに、予め仕入先と取り決められた仕入原価率に基づいてシステム上自動的に仕入計上される仕組みとなっていることが多いです。

(2) 販売

店舗販売では、顧客が購入商品を選択し、レジにて現金、商品券等の金券(以下、商品券)及びハウスカード又はクレジットカードにて決済が行われます。

外商販売では、外商担当者が商品を持参して顧客宅を訪問し販売する場合もあります。法人向けの場合は、商社的な取引形態が多く、仕入先から法人顧客へ直接納入する場合もあります。

(3) 納金

閉店時の百貨店のレジ金合計は、①翌日釣銭用のレジ元金と②当日売上金からなります。

① 翌日釣銭用レジ金は各レジ所定の金庫で保管します。②当日売上金については、閉店後にPOS売上データと照合した上で納金機に入金し、商品券等は別途回収BOX等に保管します。納金機に入金された現金は翌日以降に警備会社の管理の下で銀行口座に入金され、商品券等は事務管理センターに送られ管理システムにより回収処理されます。

4. 百貨店業の会計処理の特徴

(1) 売上仕入

「売上仕入」された商品について販売がなされた場合には、小売業においては販売時に売上を計上し、同時に仕入を計上する実務慣行となっています。

(2) 棚卸資産

① 評価方法
百貨店では商品管理を売価で行っているため、棚卸資産の評価方法は、絵画や美術工芸品等の高額商品を除き、多くは売価還元法を採用しています。

② 評価基準
売価還元法を採用している場合であっても、期末における正味売却価額が帳簿価額よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とするとされています(「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号)第7項)。ただし、値下額等が売価合計額に適切に反映されている場合には、値下額及び値下取消額を除外した売価還元法の原価率(連続意見書第四に定める売価還元低価法の原価率)によって算定した期末棚卸資産帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができるとされています(同基準 第13項ただし書き)。

③ 評価に関するポイント

【売価等の変更が適切に行われているか】
売価還元法を採用している場合、算式が期末における適切な価額を反映していることが重要です。特にセール等での売価の切下げに加え、過去の販売及び廃棄実績等を勘案した一定の切下げ基準を設定するなど評価体制を整備する必要があります。

【原価率を算定する単位が適切か】
売価還元法は、実務上、棚卸資産グループごとの期末の売価合計額に原価率を乗じて期末の棚卸資産の価額を算定します。原価率は類似の商品ごとに算定することになりますが、より細かい単位で算定することにより、実態を反映した期末の棚卸資産価額を算定することができます。ここで留意すべきは、使用する原価率に売上仕入のデータを含めないことです。
通常、売上仕入は他の仕入形態より高い原価率になっており、そもそも百貨店の資産ではない売上仕入分について原価率の算定に売上仕入のデータを含めると、実態より高い原価率となってしまい、期末帳簿価額が過大に計上されるおそれがあります。

(3) 商品券

① 商品券の発行及び商品引渡

商品券の発行時点においては、収益計上はなされず、負債項目として「商品券」や「前受金」といった勘定で処理され、商品引渡時に収益計上されます。

(発行時の仕訳例)

(発行時の仕訳例)

(商品引渡時の仕訳例)

(商品引渡時の仕訳例)

② 商品券の雑収処理

商品券の雑収処理とは、商品券を発行したときから一定期間経過後未使用分について負債計上を中止し収益計上する処理です。法人税法上は、商品引換券等について発行した期に収益計上を行うことが原則となっていますが、発行に係る年度管理を行っている場合には、商品引渡時に収益計上することも認められています。ただし、この場合には、発行年度終了の翌日から3年を経過した日に引渡し未了分について収益計上が求められています(法人税基本通達2-1-33)。この点、会計上も、実務慣行的に未使用分について発行時から一定期間経過後に収益計上を行うことが一般的です。

(雑収処理時の仕訳例)

(雑収処理時の仕訳例)

③ 負債計上を中止した項目に係る引当金

商品券について雑収処理を行ったとしても、引き続き顧客は商品券を使用することができるため、負債計上中止した商品券に対してその利用可能性に備え、今後使用が見込まれる額を引当金として計上することを検討する必要があります(監査保証実務委員会報告第42号)。当該引当金については商品券の他に、負債計上を中止した友の会の買い物券等も設定対象となります。当該引当金の会計処理は次のようになります。

(引当金計上時の仕訳例)

(引当金計上時の仕訳例)

引当金計上額は合理的に見積る必要がありますが、実務上は過去の回収実績をもとに見積ることが考えられます。

(雑収処理済商品券回収時の仕訳例)

(雑収処理済商品券回収時の仕訳例)

(4) 固定資産受贈益

改装実施に際し、百貨店が売場の内装工事、陳列ケース等の広告宣伝用資産等について仕入先等から贈与を受けることがあります。百貨店側は、受贈益の計上や改装時に百貨店の判断で廃棄・移動することが可能となるといったメリットがあります。仕入先等にとっても、固定資産の管理から解放され、また、法人税法上、広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生じる費用に関する耐用年数の短縮化(耐用年数の7/10(5年を超えるときは5年))が認められるため、早期の償却が可能となるといったメリットがあります。

① 百貨店の仕訳例

(固定資産受贈時)

(固定資産受贈時)

(減価償却費の計上)

(減価償却費の計上)

(注) 耐用年数10年、残存価額ゼロで計算。

② 取引先の仕訳例

(固定資産受贈時)

(固定資産受贈時)

(長期前払費用の償却)

(長期前払費用の償却)

なお、これまでの仕訳例の勘定科目名称は一般例となります。

5. まとめ

百貨店業に係る特徴、業務の流れ、会計処理及び内部統制の特徴を中心に解説してきました。本稿が特に百貨店業界に会計、監査等の立場から初めて関与する方々の理解の一助になれば幸いです。

参考文献等

  • 百貨店返品制度の研究 中央経済社
  • 日本百貨店協会 www.depart.or.jp
  • 会計制度委員会報告第13号 「我が国における収益認識に関する研究報告(中間報告)―IAS18号に照らした考察―」