業種別会計
小売業

第1回:小売業の概要と百貨店業

2016.04.05
新日本有限責任監査法人 小売セクター
公認会計士 衣川清隆
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4. 百貨店業の会計処理の特徴

(1) 売上仕入

「売上仕入」された商品について販売がなされた場合には、小売業においては販売時に売上を計上し、同時に仕入を計上する実務慣行となっています。

(2) 棚卸資産

  • 評価方法
    百貨店では商品管理を売価で行っているため、棚卸資産の評価方法は、絵画や美術工芸品等の高額商品を除き、多くは売価還元法を採用しています。
  • 評価基準
    売価還元法を採用している場合であっても、期末における正味売却価額が帳簿価額よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とするとされています(「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号)第7項)。ただし、値下額等が売価合計額に適切に反映されている場合には、値下額及び値下取消額を除外した売価還元法の原価率(連続意見書第四に定める売価還元低価法の原価率)によって算定した期末棚卸資産帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができるとされています(同基準 第13項ただし書き)。
  • 評価に関するポイント
    • 【売価等の変更が適切に行われているか】
      売価還元法を採用している場合、算式が期末における適切な価額を反映していることが重要です。特にセール等での売価の切下げに加え、過去の販売及び廃棄実績等を勘案した一定の切下げ基準を設定するなど評価体制を整備する必要があります。
    • 【原価率を算定する単位が適切か】
      売価還元法は、実務上、棚卸資産グループごとの期末の売価合計額に原価率を乗じて期末の棚卸資産の価額を算定します。原価率は類似の商品ごとに算定することになりますが、より細かい単位で算定することにより、実態を反映した期末の棚卸資産価額を算定することができます。ここで留意すべきは、使用する原価率に売上仕入のデータを含めないことです。
      通常、売上仕入は他の仕入形態より高い原価率になっており、そもそも百貨店の資産ではない売上仕入分について原価率の算定に売上仕入のデータを含めると、実態より高い原価率となってしまい、期末帳簿価額が過大に計上されるおそれがあります。

(3) 商品券

① 商品券の発行及び商品引渡

商品券の発行時点においては、収益計上はなされず、負債項目として「商品券」や「前受金」といった勘定で処理され、商品引渡時に収益計上されます。

(発行時の仕訳例)

(借)現金預金100 (貸)商品券100

(商品引渡時の仕訳例)

(借)商品券100 (貸)売上高100

② 商品券の雑収処理

商品券の雑収処理とは、商品券を発行したときから一定期間経過後未使用分について負債計上を中止し収益計上する処理です。法人税法上は、商品引換券等について発行した期に収益計上を行うことが原則となっていますが、発行に係る年度管理を行っている場合には、商品引渡時に収益計上することも認められています。ただし、この場合には、発行年度終了の翌日から3年を経過した日に引渡し未了分について収益計上が求められています(法人税基本通達2-1-33)。この点、会計上も、実務慣行的に未使用分について発行時から一定期間経過後に収益計上を行うことが一般的です。

(雑収処理時の仕訳例)

(借)商品券20 (貸)雑収入20

③ 負債計上を中止した項目に係る引当金

商品券について雑収処理を行ったとしても、引き続き顧客は商品券を使用することができるため、負債計上中止した商品券に対してその利用可能性に備え、今後使用が見込まれる額を引当金として計上することを検討する必要があります(監査保証実務委員会報告第42号)。当該引当金については商品券の他に、負債計上を中止した友の会の買い物券等も設定対象となります。当該引当金の会計処理は次のようになります。

(引当金計上時の仕訳例)

(借)商品券回収損引当金繰入5 (貸)商品券回収損引当金5

引当金計上額は合理的に見積る必要がありますが、実務上は過去の回収実績をもとに見積ることが考えられます。

(雑収処理済商品券回収時の仕訳例)

(借)商品券回収損引当金5 (貸)売上高5

(4) 固定資産受贈益

改装実施に際し、百貨店が売場の内装工事、陳列ケース等の広告宣伝用資産等について仕入先等から贈与を受けることがあります。百貨店側は、受贈益の計上や改装時に百貨店の判断で廃棄・移動することが可能となるといったメリットがあります。仕入先等にとっても、固定資産の管理から解放され、また、法人税法上、広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生じる費用に関する耐用年数の短縮化(耐用年数の7/10(5年を超えるときは5年))が認められるため、早期の償却が可能となるといったメリットがあります。

① 百貨店の仕訳例

(固定資産受贈時)

(借)固定資産20 (貸)固定資産受贈益20

(減価償却費の計上)

(借)減価償却費2 (貸)減価償却累計額2

(注) 耐用年数10年、残存価額ゼロで計算。

② 取引先の仕訳例

(固定資産受贈時)

(借)長期前払費用20 (貸)現金預金20

(長期前払費用の償却)

(借)長期前払費用償却費4 (貸)長期前払費用4

なお、これまでの仕訳例の勘定科目名称は一般例となります。

5. まとめ

百貨店業に係る特徴、業務の流れ、会計処理及び内部統制の特徴を中心に解説してきました。本稿が特に百貨店業界に会計、監査等の立場から初めて関与する方々の理解の一助になれば幸いです。

参考文献等

  • 百貨店返品制度の研究 中央経済社
  • 日本百貨店協会 www.depart.or.jp
  • 会計制度委員会報告第13号 「我が国における収益認識に関する研究報告(中間報告)―IAS18号に照らした考察―」
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