不動産業 第2回:不動産分譲業の事業と会計の特徴

2019年11月14日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 阿部徳仁/村上和典

1. 不動産分譲業とは

不動産の分譲業とは、社団法人不動産協会によれば「宅地の造成や建物の建設を行い、それを分譲して土地に付けた付加価値から収益を得る事業」とされています。宅地建物取引業者は「宅地若しくは建物の売買若しくは交換、又は宅地若しくは建物の売買・交換若しくは賃貸の代理若しくは媒介をする行為を業として行うもの」とされているので、不動産分譲業は宅地建物取引業に該当します。ここでは、分譲業の中でも住宅分譲業、すなわち、戸建て住宅、マンションなどの住宅の造成、開発、分譲を行う業者を不動産分譲業として解説します。

2. 不動産分譲業の特徴

(1) 開発期間が長期にわたること

不動産の分譲については、造成・建設工事が必要となるので、用地の取得から、物件の開発、販売、引渡しまで、マンションの場合で一般的に1~3年程度はかかるものとされています。このため、地価上昇の局面では付加価値を価格に転嫁しやすくなる一方で、地価の下落局面になると、高く仕入れた土地に建てた建物を相場が下がる中で売らなければならないので、割高感が出て売れにくくなります。すなわち、開発期間中の不動産の価格変動リスクを負うことになります。また、建築コストが、人件費および資材の価格によって変動するリスクがあります。

(2) 多額の資金負担が必要となること

不動産は一般的に高価であり、棚卸資産である土地、建物の購入には、多額の資金が必要となります。そのため、不動産業界では一般的に借入金依存度が高くなっています。不動産の開発については、プロジェクトの規模にもよりますが、1~3年程度の期間を要するので、その間の金利負担も大きなものとなります。さらに、返済期日における不動産市況および金融市況によっては、返済や借換えが困難になる場合も考えられます。

(3) さまざまな法規制を受けること

国土利用計画法、都市計画法などによる用途制限などが関連してきます。建物を建てて販売する場合には、建築基準法や、住宅では、住宅の品質確保の促進等に関する法律、マンションであれば、建物の区分所有等に関する法律による規制を受けます。なお、不動産の分譲を行うには宅地建物取引業の免許が必要です。

(4) 税制や金利動向などの政策に左右されやすいこと

住宅を購入するに当たっては、住宅ローンを利用することが多いため、金利の負担が低い時に購入することで、ローンの返済額を軽減させられます。住宅ローン減税などの優遇税制を行うことにより、住宅の取得を促進することもできます。また、建物の取引には消費税等が課税されるため、増税前に駆け込み需要が発生します。

(5) 物件の引渡しが年度末に集中すること

日本では、進学、就職、転勤などが年度で行われることから、3月末から4月初めに人の移動が多く、不動産分譲物件の引渡し時期も年度末の2、3月に集中します。会社によっては、売上が第4四半期に集中することを注記している場合もあります。

(6) 回転型ビジネスであること

不動産分譲業は住宅を造り続けて在庫を抱えていても利益は生まれないので、常に販売引渡しする一方で、将来を見越して新たに開発用地を取得し、次に備えなければなりません。(1)に記載したように住宅の開発期間が長期にわたるため、不動産分譲業者は、たとえ将来、不動産価格が下落すると見越していたとしても、好むと好まざるとにかかわらず事業を続ける以上、その時点の時価で開発用地を取得し開発に着手する必要があります。過去、幾度となく多くの不動産分譲業者が景気の波にのみ込まれてしまったのは、このようなリスクが内在しているからなのです。

3. 不動産分譲業の業務の流れ

(1) 用地確保・物件企画

不動産を分譲するには、まず売り物にする土地を仕入れなければならないので、情報収集して開発・分譲に適当な開発用地を購入することが必要となります。適当な開発用地があれば、その土地にどのような建物が建てられるのか、近隣の状況から、どのくらいの値段で売れるのかを検討して物件を企画します。その結果、当該プロジェクトに関する収益・費用を概算で見積もり、当該土地の買収見込額が算定されます。この買収見込額について意思決定を行い、売主と交渉または入札、コンペなどを経て土地売買契約を締結します。土地の引渡しは通常、代金の支払いと同時に行われます。

(2) 企画設計と造成・建築工事

開発用地を確保したら、当該不動産の開発に取り掛かります。土地については、整地・造成などの作業が必要となります。分譲地として売り出すこともありますし、土地に戸建て住宅やマンションを建設して販売することもあります。建物の建設については、自社で行う場合もありますが、日本のデベロッパーは、物件の購入、企画、販売を自社で行い、建設については建設会社に依頼するのが一般的です。

(3) 販売活動・成約

開発物件については、チラシなどで広告を打ち、モデルルームを設置して、販売を行います。関東での青田売りを前提とすると、不動産会社と顧客は、物件の完成前に売買契約を締結し、一般的に物件価格の10%程度の手付金を収受します。この手付金は契約により解約手付の性格を持つため、買主の都合で契約を解除するときは、手付金を放棄しなければなりません。一方、売主の都合で契約を解除する場合は、いわゆる「手付の倍返し」が必要となります。

総合不動産会社によっては、物件の企画力と資金力を生かして、物件の企画・開発のみに特化して、販売については、販売代理・仲介専門の子会社や外部の業者に委託し、契約締結または引渡しに対して販売手数料を支払う製販分離方式も存在しますが、昨今は、多様化する顧客ニーズに迅速に対応できるとして、製販一体方式が主流となっています。

(4) 引渡・売上計上

物件が完成すると、完成前に契約している場合には、残代金の入金と引き換えに、契約者に土地建物を引き渡し、売上計上します。完成前に買手が付かない場合には、物件完成後も販売活動を継続します。

4. 不動産分譲業における会計処理の特徴

(1) 用地の取得・物件企画

①販売用不動産の取得価額

販売用不動産の取得価額には、一般的に、土地代金、仲介手数料、不動産取得税、登記移転の場合の登録免許税、造成費用、建物の建築費用などが含まれると考えられます。このほかに、不動産開発事業を行う場合のいわゆる、ひも付き融資にかかる利子については、特定のプロジェクトを遂行するための重要な原価要素の性格が強いものと考えられることから、「不動産開発事業を行う場合の支払利子の監査上の取扱いについて」(日本公認会計士協会)により、一定の条件を満たす場合には、利子を原価算入することが監査上妥当と認められるとされています。実務上は、要件の判定の煩雑性や保守主義の観点から、実際に利子を原価算入しているケースは少ないと考えられます。

また、取得価額は一般的に個別の物件単位、または一連の販売区画(いわゆる「団地」)ごとに集計します。

(2) 不動産の開発・保有

①評価方法

販売用不動産は個別性の強い棚卸資産であることから、一般的に個別の物件単位または団地単位ごとに個別法による受払いが行われると考えられます。また、プロジェクトごとの原価の集計は、管理台帳などにより行われます。この際、プロジェクト間での原価の付け替えや、原価の計上漏れがないように注意が必要です。

②販売用不動産の評価基準

販売用不動産の期末評価については、企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」が適用され、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、収益性が低下しているとみて、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とするとともに、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理することとされています。

また、販売用不動産の正味売却価額の算定に当たっては、監査・保証実務委員会報告第69号「販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い」において、ⅰ. 開発を行わない不動産または開発が完了した不動産の評価、ⅱ. 開発後販売する不動産の評価の方法が示されています。その中で、開発後販売する不動産の評価に当たっては、不動産開発の実現可能性についての判断が求められています。

【販売用不動産評価と事業収支計画】

【販売用不動産評価と事業収支計画】

(3) 販売活動

① 販売費用の会計処理

不動産の販売に当たっては、新聞への折り込みチラシの配布、パンフレットの街頭配布、ポストへの投函、分譲物件の看板の設置、インターネット広告などによって潜在顧客に周知し、モデルルームまたは現地販売事務所を設けて、販売員を配置して説明を行い、不動産売買契約に至ります。

ここで、発生した特定物件に関連する広告宣伝費用やモデルルーム建設費、販売担当者の人件費などを会計上、発生時に費用処理すべきか、または、引渡し時まで費用処理すべきか、という論点があります。

ⅰ. 特定物件に関連する広告宣伝費用の会計処理

新築マンション分譲や建売分譲においては、多様な広告宣伝活動が行われますが、その支出は特定のプロジェクトとの関連性が明確なものが多く、かつ、販売価格に占める割合は大きく重要性が高くなります。これらの会計処理について、広告を掲載し、広告というサービスを費消した時点で販売費として費用計上する方法が考えられます。しかし、大型物件の青田売りを行う場合には、販売開始から建物の竣工引渡しまで相当の期間を要するため、多額の広告宣伝費用が収益に先行して発生し、広告の成果として引渡し時に計上される収益と計上時期が対応しないという問題が生じます。そのため、特定の物件に関連する広告宣伝費について、a. 販売収益に関係なくサービス費消時に費用処理する方法に加えて、b. 販売収益に対応させて引渡し時まで繰延処理する方法が、会計慣行として行われています。

a. 販売収益に関係なくサービス費消時に費用処理する方法

会計原則や他の業種の会計慣行から、広告等の宣伝費は広告サービスの費消時に費用処理することが原則であると考えられます。原価計算基準においても、販売費は原価を構成するものではなく、期間費用として処理するものとされています。一般的に、広告宣伝の効果については、どのメディアに、いくら広告費をかけたからモノが売れたという明確な説明が困難です。従って、この方法には、繰延処理をしたところで、実際にどの収益に対して、どの範囲の広告宣伝費を対応させるかが不明であるという考えが根底にあります。

b. 販売収益に対応させて引渡し時まで繰延処理する方法

分譲業における広告宣伝費は、プロジェクトごとに対応関係が明確であること、および費用と収益を対応させることで損益計算書が、より適切な経営成績を表示する結果となることを根拠として、実務上合理的な方法として認められているものです。ただし、当該会計処理を採用する場合には、収益に対応させる広告宣伝費の範囲を明確にすること、引渡し時における広告宣伝費の費用化のタイミングについて合理的な説明ができることが求められます。

ⅱ. モデルルームの会計処理

モデルルームに関係する支出として、以下のものが考えられます。これらは原則として発生時の期間費用として計上することとなります。ただし、特定のプロジェクトとの関連性が明確であるという観点より、直接プロジェクトに関連する宣伝費として会計処理を行う場合もあります。

a. モデルルームや販売事務所用の土地建物賃借料

土地建物の賃借期間に応じて、販売費として計上することとなります。

b. モデルルームの建物、設備および備品等の支出

目的物の引渡しを受けた時点で、販売費として計上することとなります。ただし、1年以上の使用貸借が予定されている場合には、一度、固定資産として計上し、使用期間にわたり、減価償却費として費用配分することが考えられます。この際には、税務上の耐用年数との差異について留意が必要です。

c. モデルルーム、販売事務所の人件費

モデルルーム等での販売要員の人件費は、製販分離方式の場合には、販売会社が負担することとなります。分譲会社は販売委託料手数料を販売の成否に応じて支払うこととなります。

② 契約・手付金の受領

販売活動の結果、不動産売買契約が成立すると、不動産会社は通常、物件価格の10%程度の手付金を受領します。手付金は物件の引渡しまでは前受金などの科目に計上されることが一般的であると考えられます。

(4) 不動産の引渡・収益認識

① 収益認識

不動産の販売に関する収益認識については、実現主義の原則に従い、物件の引渡しをもって認識されます。不動産販売では、代金を受領せずに引渡しをすることは考えにくいため、通常は、物件の引渡しと、ほぼ同じタイミングで代金の受領と所有権移転登記が行われます。

不動産は、物が動かず、引渡しが外形的に確認できないため、登記簿謄本で移転登記の事実を確認したり、物件や鍵の受領証を顧客から入手したりするなどして、収益計上の客観性を確保する必要があります。

また、日本では不動産の引渡しは3月に集中し、不動産取引は1件当たりの金額が大きいことから、3月決算の会社においては、特に期末の売上の期間帰属に注意が必要となります。

② 収益金額の測定

収益金額の測定は顧客との売買契約金額が基礎となりますが、不動産の販売価額の測定については、顧客に対する販売インセンティブが実質的に値引きに当たるのではないかという論点があります。これについては、販売インセンティブの内容に応じて値引きに当たるのか、売上原価に当たるのか、販売費に当たるのか、実態に応じた会計処理が必要です。

販売インセンティブは、顧客に販売を促すために、さまざまな形態で提供されます。

例えば、以下のような形態が考えられます。

  • 現金値引きを行う。
  • 商品券を提供する。
  • 家具やオプション工事等を負担する。
  • 登記申請に関する諸費用を負担する。

これらは会計処理において、①売上の値引きとするのか、②売上原価とするのか、③販売促進費として販売費及び一般管理費に計上するのか、検討が必要となります。契約書に記載する購入代価を直接控除する現金値引きが行われた場合には、売上の値引きとして会計処理すると考えられますが、商品券でキャッシュバックが行われた場合には、売上値引きとする方法のほか、販売促進費として会計処理する方法が考えられます。家具や追加工事の負担、または顧客が負担すべき購入時の諸経費を売主が負担した場合には、販売促進費として会計処理する方法が考えられます。ただし、無償のオプション工事を実施した場合など、建物原価の一部を構成する場合には売上原価となることもあります。

③ 不動産の販売原価の配分

不動産が販売され収益計上された時点で、棚卸資産に計上されていた販売用不動産は、不動産販売収益に対応する不動産販売原価として費用化されます。分譲不動産の原価配分については、明確な会計基準はなく、面積比例または売価比例等の合理的な基準により原価配分されることになると考えられます。また、これらの合理的な基準は毎期継続して適用することが求められます。

5. 不動産分譲業における内部統制の特徴

(1) 事業収支計画・実績のモニタリング

一般的に、土地の取得前、建築工事依頼前、販売開始前などの時点で収支計画が作成・見直され、実績との比較分析が行われます。販売用不動産の評価は今後の販売見込額、原価発生見込額や販売経費の発生見込額を勘案して行われるため、市況の変化による販売見込額の変動、工事の遅れやそれに伴う販売の遅れは原価や経費の増加を招き、評価減につながりますので注意が必要です。適時な見直しのためには、管理部門がプロジェクトチームと綿密なコミュニケーションをとり、これらの変更の事実だけでなく、変更の可能性について、適時に情報を収集する仕組みができているかが重要です。

(2) 現地・現物の管理

不動産は動かすことができず、物の引渡しを外見的に確認することができないので、実在しない土地や、売主に所有権がない土地を仕入れてしまうというリスクがないとも限りません。そのため、仕入れ前に漏れなく登記内容を確認する仕組み、仕入れ後に適時に登記を行い、それを維持するための仕組みの整備、運用状況に留意する必要があります。

また、物件の採算管理を行う上で、実際の現場の状況が事業収支に反映されないリスクや、事業収支計画のスケジュール通りに造成・建築、販売できないリスク、場所の利便性などを考えると売出価格が実勢と乖離(かいり)してしまっているリスクなど、適時に情報を収集する仕組みができているか、管理部門がプロジェクトチームと綿密なコミュニケーションをとり、これらのリスクについて、対応できているかを確認することが重要です。

そのほか、原価の付替えや計上漏れのリスクなどが発生することが考えられます。

(3) システム化しにくいこと

不動産分譲業は、個性のある物件を、非定型的な契約により販売する取引で、まったく同じ取引を反復して行うことが少ないため、一般的にシステム化がしにくい取引であると考えられます。また、原価計算においても、一般的にプロジェクト件数が少なく、プロジェクトごとの個別原価計算が行われるため、複雑なITシステムを用いた管理は必要としない場合が多いと考えられます。

6. 不動産分譲業に関する税金

まず、取得時には、売買契約書作成に伴って印紙税が、不動産の取得に当たって不動産取得税が、所有権移転登記を行う場合に登録免許税が、それぞれ課税されます。

売買契約の内容にもよりますが、通常、固定資産税および都市計画税の負担額の精算も行われます。さらに、土地の売買については、消費税および地方消費税(以下、消費税等)は課税されませんが、建物の売買や造成工事、建築工事については消費税等の課税取引となります。また、造成工事や建築工事などの工事請負契約書には印紙税が課せられます。

不動産の保有中は、固定資産税および都市計画税が課税されます。売却時にも、売買契約書作成に伴う印紙税が課税されます。不動産の売却益については、法人税の課税所得に含まれ、法人税等が課税されます。消費税等については、売主が消費税の課税事業者であれば、買主から預かった建物部分に係る消費税等を納付する義務があります。

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