不動産業 第1回:不動産業の事業と会計の概要

2019年11月14日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 阿部徳仁/村上和典

1. はじめに

このシリーズでは不動産業について以下の予定で解説します。なお、文中、意見にわたる部分は私見が含まれることを、あらかじめご了承ください。

2. 不動産業とは

不動産とは「土地及びその定着物」とされており、不動産以外のものは、すべて動産とされています(民法86条)。土地の定着物とは、土地に永続的に固着し、撤去の困難なものを意味し、樹木等の自然物のほか、人工の定着物である各種の建物や構築物も含むと解されています。不動産業については、宅地建物取引業法において不動産業を行うものとして宅地建物取引業者が定められていますが、不動産業者には、旧財閥系、鉄道系、ゼネコン系、金融・商社系、独立系、メーカー系や個人事業者など、さまざまな業者がいます。

投資という観点から見ると、不動産業は、不動産に資金を投下し、商品とするアセット型事業と、不動産に直接資金を投下せず、不動産関連サービス業を行うノンアセット型事業に分類できます。

アセット型事業としては、不動産の開発(土地を取得し造成・インフラ整備等を行い、不動産の価値を創造し収益を得る業務)、分譲(戸建て住宅、マンション販売等を行い、収益を得る業務)、及び賃貸(保有不動産を賃貸し収益を得る業務)があります。ノンアセット型事業としては、不動産の管理(不動産管理をオーナーから受託し収益を得る業務)、不動産の流通(不動産取引の仲介や不動産販売代理業務を行い、収益を得る業務)などがあります。

3. 不動産業の特徴

(1) 取引対象が高価な資産であり、会計処理方法の選択により企業の期間損益に影響を与えること

取引対象である土地・建物といった不動産は高額な資産であることから、一取引金額が大きくなる傾向があります。また、取得、売却、資産評価など、さまざまな局面で会計処理方法の選択があり、企業の期間損益に大きな影響を与える場合があります。

(2) 取引対象である土地や建物は長期にわたって使用できること

消費財や器具備品などは消費され、減耗・劣化しますが、土地は、よほどの天変地異がない限り、永続的に存在します。建物についても、建築基準法などによる耐久性を満たし、メンテナンスを十分に行っていれば、物理的には長期間にわたり使用することができます。このため、一度取得すれば長期にわたって使用が可能であり、頻繁に購入するものではありません。

(3) 反復・継続しない取引であり、掛け売りが少ないこと

不動産には一つとして同じものがなく、一つ一つに個性があり、金額も高額です。不動産業者でない限り、個人も法人も、たびたび購入するものではないため、不動産業者においては消費財や原料メーカーのように継続して同じ相手と同じ商品の取引をするわけではありません。不動産の買手とは一度限りの取引ということになるので、与信をして掛け売りするということは通常ありません。

(4) 取引に関連する、さまざまな法令の規制を受けること

不動産が高価な資産であるので、その取引が健全に行われるため、あるいは限りある国土の開発が計画的に行われるためなど、さまざまな要因・目的から、不動産登記法、国土利用計画法、都市計画法、宅地建物取引業法、建築基準法などの法規制がなされています。このような法規制が多いことは、不動産業の事業のリスクにもつながってくるので注意が必要です。

(5) さまざまな不動産関連税制があること

安定税収確保等の観点から、不動産取引には取得・保有・賃貸・売却などの取引局面において、不動産取得税、登録免許税、固定資産税、都市計画税、売却益への課税など、さまざまな税金が課せられます。

(6) 土地価格(地価)制度の存在

土地の価格は「一物四価」などといわれるように、公的な地価指標だけでも、一般の土地取引の指標とするための公示価格、公示価格を補うものとしての都道府県基準地価格、相続税評価の基準となる相続税評価額(路線価)、固定資産税課税の基準となる固定資産税評価額など、さまざまな基準価格が存在しています。また、不動産鑑定基準では、原則として、原価法、取引事例比較法、収益還元法の3法を併用することが求められています。このほか、実際に取引された価格を示す実勢価格があります。

(7) 参入障壁が低く、規模のメリットも薄いこと

不動産業を営むに当たっては、宅建業免許等の規制はあるものの、製薬会社のように研究開発の蓄積が必要であったり、金融業のように厳しい規制があったりするわけではないため、資金さえあれば比較的、参入しやすい事業であると考えられます。従って、不動産業と関連性がない異業種を本業とする企業が、余資運用のために不動産投資や不動産業を行うこともあります。

(8) 不動産は棚卸資産にも、固定資産にもなり得ること

不動産は企業の保有目的により分類が変化します。例えば、一般的な製造業や商業を営む企業において、不動産を製造設備や店舗、会社事務所などの自社利用目的で保有している場合には、固定資産として分類されることになります。これに対して、不動産分譲業を営む企業において、不動産を売却目的で保有している場合には、棚卸資産として分類されることになります。

(9) 金融商品としての側面があること

古くは抵当証券制度、近年では資産の流動化に関する法律(SPC法)の整備などによる不動産の証券化技術と制度の発展に伴い、不動産の証券化が進展しています。さらに、不動産証券化の進展に伴い、アセットマネジメントなどのサブセクターが開拓され、J-REITや不動産ファンドの規模も拡大しています。また、不動産の管理・運営から報酬を得る手数料ビジネス市場が拡大してきています。

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