業種別会計
鉄道業

第3回:収益認識

2015.12.21
新日本有限責任監査法人 旅客運輸セクター
公認会計士 忍頂寺 大

3.ICカード乗車券の収益認識と内部統制

スイカ、トイカ、イコカ、パスモ、ピタパなどのICカード乗車券の収益は、原則、運輸サービス提供完了基準により計上することになっています。
ICカードは通常、カード内にあるICチップのデータが、ICカードの管理システム内にも共有され、双方にデータが蓄積されていきます。このデータの処理について、鉄道事業者が自らカード発行会社(自社発行)となり管理・会計処理する方法と、鉄道事業者とは別会社である計算受託会社がカード発行会社(他社発行)となり、計算受託会社で作成された精算データに基づいて各鉄道事業者が会計処理を行う方法があります。
自社発行と他社発行のケースそれぞれについて、会計処理を解説します。
以下、自社をA社とします。

(1) 自社発行の場合

通常利用によるICカード乗車券による収入については、入金された金額がすぐに利用されるものではないため、ICカード乗車券に入金された場合は前受運賃として計上され、実際の利用時に定期外運賃として収益を計上します。

① A社の駅でのICカード乗車券への入金時

(借)現金100 (貸)前受運賃100

② 自社路線内での使用時

(借)前受運賃50 (貸)旅客運輸収入50

ICカード乗車券は、通常は複数の鉄道会社で共通して利用されるため、自社で発売した金額のうち、他社の路線で利用された部分の運賃については各社で精算する必要があります。例えば、A社および別の鉄道事業者B社の二つの路線を経由して目的地に到着した場合、ICカード乗車券に入金されたA社では、その入金額の一部がB社に対する預り金となります。B社では、その営業路線の一部を提供したわけですから、未収運賃として収益認識がなされます。この2社間の按分額は、利用者の乗降者情報(自動改札機への入札および出札)をもとに算定されます。次にA社の会計処理を例示します。

③ A社の駅でICカード乗車券へ入金され、B社路線を利用した場合

(借)前受運賃 20 (貸)預り連絡運賃 20

また逆のケースでは、A社の会計処理は次のようになります。

④ B社の駅でICカード乗車券へ入金され、A社路線を利用した場合

(借)未収運賃 60
(貸)旅客運輸収入
60

(2) 他社発行の場合

都市圏における相互乗り入れ利用者は非常に多く、また、多様なICカード乗車券への入金方法があります。各鉄道事業者の運賃情報を集め、独自で精算額を計算することは非常に困難であることから、一般的に計算受託会社が、各社間の精算を一元管理する仕組みになっています。
ICカード乗車券のデータが計算受託会社に転送され、計算受託会社で一括して計算された各社間の精算データをもとに、各鉄道事業者は会計処理を行うことになります。
A社の会計処理を例示します。

① A社でICカード乗車券に入金が行われ、入金データが計算受託会社へ送信された時の仕訳

(借)現金
100
(貸)預り連絡運賃
100

② 計算受託会社から精算データが送られてきた時の仕訳

(借)未収運賃 80 (貸)旅客運輸収入 80

③ 計算受託会社との精算処理

(借)預り連絡運賃 100 (貸)未収運賃 80
    現金 20

(3) ICカード乗車券の収益認識に係る財務報告上のリスクおよび統制活動

一般的なICカード乗車券による収入計上業務を図示すると、次のような例が考えられます。

図3:ICカード乗車券による収益計上の流れの例
(※画像をクリックすると拡大します。)

ICカード乗車券による収入計上業務も同様に、乗降者情報が変換又は転送される時点において財務報告に係るリスクが生じると考えられます。ただ、外部の計算業務受託会社を利用している場合は、その外部計算結果の利用という面で、内部計算による運賃収入計上に関連して発生するリスク、統制活動と異なる点があるものと考えられます。

図4:ICカード乗車券による収入業務に係る財務報告リスクと統制活動の例

  情報又はデータの変換時点(例) 財務報告に係るリスク(例) 統制活動(例)
図3a. 自動改札機から乗降情報集計サーバへのデータ転送 誤情報の転送、転送漏れ、二重転送など
  • 自社の自動改札機データと、計算業務受託会社への転送データの照合
図3b. 乗降情報集計サーバから計算業務受託会社サーバへのデータ転送 誤情報の転送、転送漏れ、二重転送など
  • 計算業務受託会社の業務に対する、内部統制体制へのヒアリング
  • 計算業務受託会社の業務に対する、利用会社による計算および集計業務のサンプル確認
  • 計算業務受託会社の集計および計算業務に係る内部統制評価報告書の検討
図3c. 計算業務受託会社で、集計されたデータから各社の精算金額を計算し、各社の鉄道収益および精算情報を作成 誤計算、誤集計など
図3d. 計算業務受託会社から、各利用会社へ精算額を通知 誤情報の通知など
図3e. 通知された精算額情報の、会計システムへの入力 誤入力、入力漏れ、二重入力など
  • 計算業務受託会社からの精算通知額と入出金情報との照合
  • 会計システムから出力される資料と精算通知額との照合
  • 乗降人員動向と精算額との比較
  • ITに係る全般統制と業務処理統制

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