業種別会計
鉄道業

第3回:収益認識

2021.03.22
EY新日本有限責任監査法人 旅客運輸セクター
公認会計士 桑垣圭輔
|1|23次のページ

1.収入の形態

鉄道事業者は、鉄道や車両、構築物等の固定資産に設備投資し、これを利用して運輸サービスを提供することにより旅客運輸収入を獲得します。旅客運輸収入には、定期券利用の他、切符や回数券、ICカード乗車券の利用による収入などの収入形態(収益獲得形態)が含まれます。これら収入形態については、それぞれに異なる会計処理、財務報告に係るリスク、それにかかわる統制活動があります。

今回は、

  • 定期運賃および定期外運賃の収益認識と内部統制
  • ICカード乗車券の収益認識と内部統制
  • 鉄道事業者の営業収益の表示

について解説します。なお、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」適用後の処理としています。また、以下は、同基準および同適用指針の適用下において一般的と考えられる会計処理等を示しています。実務においては担当会計士と協議の上、適用する会計処理等を決定します。

2.定期運賃および定期外運賃の収益認識と内部統制

(1) 定期運賃の収益認識

定期運賃とは、定期券利用による運賃収入のことをいいます。定期券は、駅窓口や自動券売機などで発売されており、1カ月、3カ月、6カ月定期券といったものが一般的です。

定期運賃は、定期券の有効期間にわたって履行義務が充足されるものとし、有効期間に応じて収益を認識することとなります。すなわち、発売時に全額を収益とせずに、有効期間に応じた額を収益とし、残りは前受運賃(契約負債)として計上します。

例えば、3月末に4月1日から使用開始の6カ月定期券を発売した場合、定期券の有効期間である4月から9月にわたって収益を認識することになります。なお、鉄道事業者が鉄道事業会計規則に従い会計処理をするうえでの参考となる鉄道事業会計規則の運用方針において、「前受定期運賃は月割等適正な方法により整理する」とされていることから、期間按分に際しては日単位ではなく月単位で計算することも合理的な方法として認められると考えられます。

(例)4月1日利用開始の6カ月定期を3月に発売した場合

① 6カ月定期券発売時(3月)

(借)現金600 (貸)前受運賃(契約負債)600

※発売月は収益認識に関する仕訳なし。

② 有効期間按分時(4月から9月)

(借)前受運賃(契約負債)100 (貸)旅客運輸収入100

(2) 定期外運賃の収益認識

次に、定期外運賃とは、通常の切符や回数券などによる運賃収入のことをいいます(ICカード乗車券による収入については後述します)。

これら収入も発売時には収益認識されず、実際に使用された日に収益を認識することになります(使用日基準)。なお、通常の切符は発売当日のみ有効であることから発売日と使用日を同じとみなして収益を認識します。

① 回数券などの発売時

(借)現金100 (貸)前受運賃(契約負債)100

② 回数券などの使用時

(借)前受運賃(契約負債)100 (貸)旅客運輸収入100

(3) 定期券および切符・回数券の発売業務における財務報告リスクと統制活動

一般的な定期券発売業務および切符・回数券の発売業務を図示すれば、次のようになります。

図1:定期券・乗車券の収益認識の流れの例
(※画像をクリックすると拡大します。)

このような業務活動の流れの中で、入力された発売金額や有効開始日(月)等の情報が変換又は転送され計算・集計されることにより、最終的な収益の財務報告数値が作成されます。通常、情報が変換又は転送される時点で誤りが発生する可能性が高くなると考えられ、誤りが発生した場合には、最終的に損益計算書の収益計上金額に影響を及ぼすことになり、ここに財務報告に係るリスクが生じることとなります。次にいくつかの具体例を挙げます。

図2:定期券乗車券の発売業務における財務リスクと統制活動

  情報又はデータの変換時点(例) 財務報告に係るリスク(例) 統制活動(例)
図1a. 駅窓口による発売から鉄道収入システムへの入力 駅窓口による発売記録の誤入力、入力漏れ、二重入力など
  • 駅窓口管理の金券類実査
  • 駅窓口の発売管理台帳と金券類残高との照合
  • 乗車券売機の現金残高(発売金額)の実査
  • 鉄道収入システムの収入データと、現金残高および発売管理台帳との照合
  • 現金照合状況に対する駅上長の定期的な査閲および承認
  • 現金残高の回収作業における外部専門業者の利用とその振込入金額の検証
  • 鉄道収入システムの駅納金情報と、回収入金情報(銀行口座への振込金額など)との照合
図1b. 自動券売機による発売から鉄道収入システムへの転送 誤情報の転送、転送漏れ、二重転送など
図1c. 鉄道収入システムで有効開始日、使用日等の乗車情報を自動計算し、鉄道収益情報へデータ変換 誤計算、誤集計など
  • 本社管理部門による鉄道収入システムから出力される収入データと現金残高の照合
  • 本社管理部門による収入情報計算および集計結果のサンプリング確認
  • 鉄道収入システムに対するIT全般統制と業務処理統制
図1d. 鉄道収入システムから会計システムへの転送 誤情報の転送、転送漏れ、二重転送など
  • 会計システムから出力される資料と鉄道収入システムから出力される資料の照合
  • 本社管理部門での予算および前年実績との比較分析
  • 会計システムに係るIT全般統制と業務処理統制
|1|23次のページ

鉄道業