業種別会計
鉄道業

第1回:鉄道業の事業と会計の概要

2015.12.21
新日本有限責任監査法人 旅客運輸セクター
公認会計士 忍頂寺 大

1.はじめに

鉄道業とは特定の地点から別の地点に鉄道(軌道を含む)を敷設し、その上を走る車両により、旅客や貨物を運ぶというサービスを提供することで収益を獲得する事業です。

鉄道業は、大きく分けると一般的な鉄道、地下鉄、路面電車、モノレール、新交通システムなどの「旅客鉄道」と貨物の運輸を行う「貨物鉄道」に分けることができます。また、鉄道の経営主体によって、旧国鉄が民営化されたJR各社、民間の鉄道会社(私鉄)、公営(都営・市営地下鉄)、第3セクターなどに分けることができます。

本稿では旅客鉄道会社を対象として、さらに具体的にはJR各社や民間鉄道会社(通称、民鉄)を念頭において上記の事項を3回に分けて連載します。

第1回の今回は

  • 鉄道業の事業環境、特有の取引事象・取引慣行
  • 鉄道業の財務報告に関する内部統制の特徴
  • 鉄道業の会計処理・表示の特徴

について解説します。

2.鉄道業の事業環境、特有の取引事象・取引慣行

鉄道業は特定の地点から別の特定の地点まで軌道を敷設し、その上を走る車両を利用して人を運ぶというサービスを提供することにより、運賃という収益を得る事業です。旅客運輸事業は人が移動するための重要な社会インフラであること、また、大量の人員を輸送するため高い安全性の確保が求められていること、特定の地域において独占的に営業することなどから、国土交通省の管轄下にあり、「鉄道事業法」という特例法によりさまざまな許認可を得ることが求められる規制業種です。

(1) 設備投資と資金調達の特徴

鉄道業においては、「旅客の安全」の確保が最も重要で欠かせないものとなります。このため、踏切道の廃止や構造改良、運行管理システムの機能向上、各種保安設備の整備等の推進が大きな課題となります。また、新線の建設や線路の複々線化、車両の新造、駅の改良、線路の高架化、地下化などの利便性の向上を行い、通勤混雑を緩和するための「輸送力増強」を図っています。さらには駅や車内施設の「バリアフリー化」の実施による乗客へのサービス向上や、省エネ車両導入による環境への取り組みなども行っています。これらの事業環境から、鉄道事業者は毎期多額の固定資産への設備投資を行っています。

このように鉄道業は公共性の高い事業であり、「安全確保」等のため毎期多額の設備投資を行うことを求められていることから、政府等の助成・補助制度、特定都市鉄道整備積立金制度、日本政策投資銀行からの総事業費の50%までの政策融資など各種制度が設けられています。

(2) 運賃の設定方式の特徴

鉄道業においては、その設備投資コストを運賃に転嫁できなければ経営が成り立ちません。しかし、特定の地域において独占的な事業であることから無制限にコストを転嫁できないよう、鉄道運賃は「総括原価方式の下での上限価格制」により決定され、国土交通省への届出制となっています。

鉄道運賃は一般的に「総括原価方式の下での上限価格制」によって決められていますが、総括原価を求めるにあたってはJRグループ各社と大手民鉄についてはさらに効率的な経営が要求される、「ヤードスティック方式(基準比較方式)」が採用されています。

① 総括原価方式の下での上限価格制

鉄道事業者が、人件費や減価償却費などの費用合計に鉄道事業者の利益を加えた「総括原価」を申請し、「上限運賃」として認可を受け、この範囲で鉄道事業者が運賃を決定し届け出をする制度です。

② ヤードスティック方式

営業費のうち、路線費・電路費・車両費・列車運転費・駅務費については、国土交通省が定めた「基準コスト」を基準として適正コストを決定し、これに各鉄道業者の税金や減価償却費、利益を加えて「総括原価」を決定する方式です。具体的には国土交通省が最初に「基準コスト」を設けておき、各鉄道事業者において実際に発生した路線費等と比較して適正コストを判定します。両者を比較して、「基準コスト」の方が低かった場合には「基準コスト」が適正コストとされます。また「基準コスト」の方が高かった場合には、両者の間が「適正コスト」となります。これにより、鉄道運賃は基準コストが上限となりその範囲で決定されます。

(3) 共通カード乗車券等の拡大

① SFカード

共通カード乗車券は、1990年代の後半から2000年代前半にかけて、磁気カードの形態で「ストアード・フェアカード」(SFカード。ストアード=蓄積する、フェア=運賃)として導入されました。この「SFカード」は乗降情報を記録することができますので、券売機で切符を購入する必要がなくなり自動改札機に通すだけで電車に乗れるようになったほか、一つの鉄道事業者のみでなく、複数の加盟鉄道事業者間では1枚のカードで乗り降りできるようになりました。近年は、後述のICカード乗車券の普及により、利用される機会が減少してきています。

② ICカード

鉄道事業者は近年、共通カード乗車券のICカード化を急速に進めてきました。平成25年3月以降、全国で相互利用の範囲が大幅に拡大し、利用者は基本的に1枚のカードで全国各地の公共交通機関を利用できるようになりました。また、これらのICカード乗車券は運賃精算に限らず、駅売店や自動販売機での、代金決済手段として利用できるエリアが広がってきています。

ICカード乗車券の普及により、利用者は紙乗車券を利用した時の運賃よりも安く乗車でき、駅での迅速な改札通過が可能になりました。鉄道事業者にとっても、運賃精算事務の効率化、人件費の削減、紙乗車券よりも偽造や不正がされにくい、などの点においてメリットがあります。

今後はさらに地方部を中心としたICカード乗車券の導入や、相互利用ができる地域の拡大などにより、地域利用者の利便性向上に向けた取り組みが検討されています。また、訪日外国人旅行者をはじめとする地域外からの来訪者の利便性を高めることによって、地域経済の活性化に資することが期待されています。

(4) 多角化経営

駅は人が移動するときの通り道になりますので、鉄道事業者は駅を拠点とした土地に密着した事業を多角的に展開しています。都心のターミナル駅周辺では、オフィスビルや店舗の賃貸業、百貨店業、ホテル業などを経営しています。また、郊外の駅周辺では不動産業、建設業、スーパーマーケットやレストランなどの事業を行っています。最近では、駅構内に様々な分野の店舗を展開していく、駅ナカ事業も急速に拡大しています。

鉄道事業者は、現在、少子高齢化による輸送人員の減少という事業リスクを抱えています。このため鉄道事業者の多くは、収益源の確保のため関連事業を強化しており、事業の種類別セグメント情報において、鉄道事業の売上より関連事業の売上高の合計が多い会社もあります。

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