業種別会計
素材産業

第1回:素材産業のビジネスモデルと業界の概要

2016.08.29

新日本有限責任監査法人 素材セクター
公認会計士 高野将一/鈴木雅也/井上孝一/鈴木崇之/仲川充/服部悦久

業種別会計の基礎シリーズについて

本シリーズでは、業種別に事業の特徴に注目し、事業の概要、業種における特徴的な会計処理や開示、関連する内部統制などについて分かりやすく解説したいと考えています。
なお、文中の意見は執筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをお断りしておきます。

素材産業とは、主として素材を購入、加工し、他産業へ材料を供給することによって収益を得る業界をいいます。一言に素材といっても様々なものがありますが、本稿においては主として鉄鋼業界、非鉄金属業界(銅業界、アルミニウム)、セメント業界、紙・パルプ業界について解説します。

以下、その事業内容、生業・分類・特徴等を概観し、業界を取り巻く事業環境について説明した後に、素材産業における会計上及び内部統制上の特徴、その業務の流れに沿って解説します。

1.素材産業の事業内容

(1) 素材産業の位置づけ

素材産業は、すべての産業の基盤となる業界ともいえます。現に回りを見渡すと、私たちの生活を取り巻く製品のほとんどが鉄、銅、アルミニウム、セメント、プラスチック、紙といった素材からできています。

素材産業においては、購入した素材を加工し、他産業への材料として供給するほか、自らが最終製品に近い形態までの加工を行うこともあります。このような素材産業のイメージを示すと、図表1のようになります。

なお、日本標準産業分類(総務省)によれば、素材産業は大分類「E.製造業」に含まれ、中分類においては各素材に応じて「14. パルプ・紙・紙加工品製造業」、「21.窯業・土石製品製造業」、「22.鉄鋼」および「23.非鉄金属製造業」の区分に定義されています。

(2) 主な素材産業の歴史、業界動向、製造工程

わが国における素材産業は、主に官営工場から出発し、戦後の基幹産業として、経済発展とともに成長をしてきました。その後、オイルショックからバブル経済までの成熟期を経て、バブル経済の崩壊後から試練期ともいえる時代へと入りました。

特に近時新興国の台頭が目覚ましく、グローバルでの競争に打ち勝つために、規模のメリットをとるための統合・再編が進んでいます。

ここでは、各業界動向及びその製造工程の概略について解説します。

図表1 素材産業のイメージ

図表1 素材産業のイメージ

①鉄鋼業界

鉄鋼業界は、製造方法によって次のように大別されます。

  1. (a)高炉メーカー
    ・・・鉄鉱石、原料炭から、高炉(溶解炉)で銑鉄を作り、製鋼の後、最終の鋼材製品まで一貫して生産するメーカー
  2. (b)電炉メーカー
    ・・・鉄スクラップなどを電気炉で溶解し、不純物を取り除き、鋼を生産し、鋼材製品を製造するメーカー
  3. (c)単圧メーカー
    ・・・製鋼工程を持たず、国内外の高炉メーカー又は電炉メーカーから鋼片等を購入し、最終鋼材製品を製造するメーカー

本稿では、高炉メーカーに主眼を置いて解説します。

鉄鋼業界は、合併・買収のほか事業提携などが世界的にも盛んに行われています。2000年代前半は、中国における需要増加に伴い粗鋼生産量は大幅に増加したため、中国経済が鉄鋼業界を牽引していました。リーマンショック後は先進国の需要が伸び悩むものの、新興国での需要は旺盛で世界的に見て鉄鋼需要は年々増加しています。その一方、中国における生産能力及び生産量の拡大・増加が恒常的に供給過剰の状況を作り出しており、市況価格の悪化など日本の鉄鋼業にも影響を及ぼしています。

(製造工程):図表2

図表2 高炉と電炉の製造工程

図表2 高炉と電炉の製造工程

鉄鉱石と石灰石を焼き固めた焼結鉱と石炭を蒸し焼きにしたコークスを高炉に入れて、還元・溶解して銑鉄を取り出します。この銑鉄を転炉や電気炉に移し、鉄の中の炭素含有量を減らし、他の金属元素を添加することにより鋼ができあがります。

②非鉄金属業界(銅業界)

銅は、世界的な需給バランスによって市場価格が変動するコモディティです。近年、銅業界では、最大需要国である中国の成長減速による消費量の減少及び国際市況の軟調が懸念材料となっています。

銅の製錬方法は、大きく分けて2種類の方法があります。

  1. (a)乾式製錬
    ・・・銅鉱石を段階的に燃焼し純度を高め、最終的に電解精製して製造する方法です。
  2. (b)湿式製錬
    ・・・銅鉱石に硫酸をかけて銅を抽出し、銅を溶かした溶液から電気を用いて製造する方法です。

本稿では、国内製錬所で主流である乾式製錬について解説します。

銅の製造工程は、銅品位1%前後の銅鉱石から、銅品位99.99%以上である電気銅を製造する工程です。現在、国内では銅鉱石の採掘はほぼ行われておらず、国内の銅製錬所では、チリなどの南米を中心とした海外の銅鉱山で採掘された銅鉱石を選鉱し、銅品位を30%前後まで高めた銅精鉱を原料として輸入しています。

(製造工程):図表3

図表3 銅の製造工程(乾式製錬)

銅の製造工程は、次のように大別されます。

  1. (a)原料調合
    ・・・原料である銅精鉱は溶剤である珪酸と調合後、ドライヤ等で乾燥し、溶錬工程へ送られます。また、銅分を含んだスクラップも部分的に原料として利用されています。
  2. (b)溶錬工程
    ・・・炉内に銅精鉱、珪酸と一緒に高濃度酸素を吹き込むことによる化学反応等で、銅精鉱内の銅化合物から硫黄分と鉄分を除去する工程です。この工程後、銅品位が約99%の粗銅が作られます。
  3. (c)電解精製工程
    ・・・溶錬後の粗銅を電気分解することにより銅品位99.99%以上の電気銅を精製する工程です。

なお、銅の製造工程では別工程で金、銀、プラチナ、パラジウム等の貴金属も副産物として回収されます。

③非鉄金属業界(アルミニウム業界)

国内アルミニウム業界は、市場の成熟化が進んでいることに加え、海外同業他社の低価格攻勢による販売価格の下落、供給先企業の海外移転といった厳しい経営環境が続いていました。そのため、業界大手2社の経営統合や、中国をはじめとする東アジアへの海外投資の強化といった動きが進みました。

近時においては、自動車ボディのアルミ化等の新たな用途展開による、新規需要の獲得を目指す動きがみられはじめています。

アルミニウムの製造工程は、次のように大別されます。

  1. (a)アルミナの抽出
    ・・・アルミニウムの原料は、ボーキサイトと呼ばれる赤褐色の鉱石です。このボーキサイトを苛性ソーダ液で溶かしてアルミン酸ソーダ液をつくり、そこからアルミナ分を抽出する工程です。
  2. (b)アルミニウム地金の製造
    ・・・アルミナを溶融氷晶石の中で電気分解することによりアルミニウム地金を製造します。
  3. (c)製品素材の成形
    ・・・地金を原材料として圧延・押出・鍛造・鋳造などの加工を行い、いろいろな形の製品素材に成形する工程です。

(製造工程):図表4

図表4 アルミ製品素材のできるまで

(下の図をクリックすると拡大します)

④セメント業界

わが国のセメントに対する国内需要は、バブル経済終盤の1990年度にピークとなる8,600万トンを記録した以後、長期にわたり縮小傾向が続きました。特に2007年以降の落ち込みは激しく5,000万トンを大きく割り込むこととなりました。

その後、2010年に底打ちし、東日本大震災の復興需要等によって需要は回復していますが、今後については、ピーク時の水準までに回復することは難しいものの2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る整備事業等により、大きな落ち込みはなく増加・安定基調で推移するといわれています。

セメント業界は、1990年代の大きな業界再編以降、大きな動きはなく、大手3社がシェアの約7割を占めています。

セメントの製造過程において、その設備や焼成技術を活用することで、他産業等から多量の廃棄物等を受け入れ、燃料又は原料代替として使用することにより、製造コストの低減を図っています。

(製造工程):図表5

図表5 セメントの製造工程

セメントの製造工程は、次のように大別されます。

  1. (a)原料工程
    ・・・原料乾燥・粉砕機(ミル)の中で、原料を混ぜ合わせ、乾燥、粉砕を行います。最近では、多くの廃棄物・副産物を原料や燃料の代替として利用しています。
  2. (b)焼成工程
    ・・・融合された原料に予熱装置(プレヒーター)で熱を加え、さらに回転窯(ロータリーキルン)で焼成します。その後、急冷却するとクリンカと呼ばれる黒い塊ができます。
  3. (c)仕上工程
    ・・・クリンカに石膏を加え、仕上粉砕機(仕上ミル)で細かな粉末になるまで砕くことによってセメント製品が完成します。

なお、一般的になじみのある生コンクリートは、セメント製品に水、砂、砂利等を加えたものをいいます。

⑤紙・パルプ業界

紙・パルプ業界でも1990年代ごろから、国内の業界再編が起きています。紙の国内需要は、電子媒体の台頭もあり、リーマンショック以降は、減少傾向にあります。そのため、近年においても事業提携の拡大による再編が続くとともに、海外企業の買収など、海外進出にも力を入れています。

(製造工程):図表6

図表6 紙・パルプの製造工程

図表4 紙・パルプの製造工程

紙の製造工程はセルロース繊維の集合体であるパルプの製造方法によって大きく次の2つに分類されます。

  1. (a)化学パルプ
    ・・・原料となる木材チップを購入、蒸煮し、洗浄・漂白してパルプを作ります。化学パルプは、繊維が強いという特徴を持っているのでリサイクル性に優れています。
  2. (b)古紙パルプ
    ・・・古紙を調達し、紙を再度繊維状にほぐして、除塵・脱インクをして洗浄・漂白しパルプを作ります。古紙パルプは、省資源・省エネルギー・省コストに優れています。

パルプができたら抄紙工程で、紙層の形成、脱水、乾燥、巻き取りなどを行います。この段階で紙として出荷されることもありますが、印刷物・チラシ等に使用する紙については、表面を滑らかにするため塗工・仕上工程などにより表面にコーティングを施して完成となります。

2.素材産業における事業の特徴

素材産業における事業の特徴は、次のようなものです。

(1) 製品ライフサイクルが長い

前述のように、他産業の基礎となる材料等を製造することから、納品する製品の仕様・規格変更はほとんどありません。従って、他産業と比較し、製品ライフサイクルが長い点に特徴があります。

(2) 大規模製造設備を有する

いわゆる装置産業の典型であり、同種製品を大量に反復継続的に生産するための、大規模製造設備が必要となります。そのため、設備の新設にあたっては、一件当たりの投資金額が大きく、稼働までの時間を要します。また一旦稼働を停止すると再稼働にも投資金額・時間を要することが多いといえます。

従って、生産が開始されれば、規模のメリットを得ることができる一方、需給変動に伴う設備の再配置に伴う影響が大きいといえます。

(3) 国際的な市況・為替の影響が強い

資源の乏しいわが国においては、鉄鋼石、銅、ボーキサイト、といった原料や石炭等の燃料を諸外国からの輸入によって調達しています。そのため、国際的な商品市況や為替の影響を強く受けることとなります。

特に、昨今のような市況の乱高下は、売上原価や在庫価額、さらには原材料の上昇分を価格転嫁できるかという点で、販売価額にも強く影響を与えることとなります。

また、輸出販売がなされることから、為替についても仕入・販売の両面においてその影響を強く受けることとなります。

(4) 規模の大きい重要産業への納品

素材産業メーカーの多くは、より規模の大きな重要産業メーカーへ納品します。そのため、納品先に対する価格交渉力が相対的に弱く、価格転嫁の可否やそのタイミングが難しい環境にあります。

また、川下産業である納品先の影響をさかのぼって受けることにより、通常の景気循環サイクルと比べてワンテンポ遅れて社会全体の景気動向の影響を受けることとなります。

(5) 商流と物流

販売にあたっては、素材産業メーカーが納品先(ユーザー)に対して直接販売することは少なく、代理店、特約店、商社等を通した販売形態になります(商流)。一方、製品自体は素材産業メーカーから直接にユーザーへと納品されることが多いことから(物流)、商流と物流は異なることもあります(直送取引 図表7)。

図表7 素材産業における販売形態~商社経由の商流と物流

図表5 素材産業における販売形態~商社経由の商流と物流

(6) 環境対策

エネルギー多消費型産業であることから、環境に対する社会的な要請が強いといえます。これに応えるべく、業界各社も環境に対する意識を高く持ち、省エネと環境対策に優れた設備投資を積極的に行っています。

<参考文献等>


素材産業


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