業種別会計
物流・倉庫業

第3回:物流・倉庫業の会計処理・表示の特徴

2016.05.06
新日本有限責任監査法人 物流セクター
公認会計士 須賀勇介

I.はじめに

第3回目の今回は、物流・倉庫業の会計処理・表示の特徴について説明します。

なお、本稿において意見にわたる部分は執筆担当者の私見であることを予めお断りしておきます。

II.物流・倉庫業の会計処理・表示の特徴

1. 会計処理の特徴

(1) 収益計上基準

一般に収益計上は、役務提供を完了した時点で行うことが原則とされていますので、本来的には貨物が送付先に配送された時点で収益を計上すべきです。しかし、物流業においては、短期間に貨物を大量輸送し同質のサービスを反復継続していることなどに基づき、実務上は会計上の影響が僅少であることを前提に、国内輸送における積込基準や海上輸出におけるB/L(船荷証券)発行日基準など、会社が合理的と認める収益計上基準を継続して適用しているケースがあります。一方で、海外向けなどの大型設備などで輸送が長期間にわたって行われる場合、作業の進捗に応じて売上計上するケースがあります。

また、倉庫業においては、通常、保管業務の取引慣行として1カ月の保管料収入を10日ごとに分割して計上するいわゆる3期制が採用されています。

【収益計上基準の事例】

  • 国内トラック輸送
    トラックへの積込完了時に収益を計上する方法。
  • 海上輸出
    B/Lを発行した段階で収益を計上する方法。
  • 長期間にわたる輸送
    作業の進捗に応じて収益を計上する方法。
  • 倉庫の入出庫作業
    倉庫の入出庫完了時に収益を計上する方法。
  • 倉庫の保管業務
    1カ月の保管料収入を10日ごとに分割して収益を計上する方法。

なお、法人税法においても、業界の実務慣行を考慮した次のような取り扱いを定めています。

【法人税基本通達2-1-13】

①発売日基準
乗車券等を発売した日(自動販売機によるものは集金した日)に、その販売に係る運送収入の額を計上する方法。

②積切出帆日基準
船舶、航空機等が積地を出発した日に当該船舶、航空機等に積載した貨物に係る運送収入の額を計上する方法。

③航海完了基準
一航海に要する期間がおおむね4カ月以内である場合、当該航海に係る運送収入の額を航海完了日に計上する方法。

④日割・月割基準
運送に要した期間又は通常要する期間の経過に応じて、日割又は月割等により運送収入の額を計上する方法。

(2) 売上債権貸倒時の債権回収手段

民法第174条において、運送賃に係る債権は1年間の短期消滅時効となる旨が定められています。これは、日常的に頻繁に行われている契約に基づく債権について、権利関係を単純化する趣旨で設けられているものですが、物流・倉庫業においては本条の適用を受けることを踏まえ、一般事業会社と比較してより厳密な債権管理を行う必要があります。

物流・倉庫業において売上債権の貸し倒れが発生した場合、債権回収の手段として留置権の行使が有効です。留置権には民法第295条で定める民事留置権と、商法第521条で定める商事留置権があります。

民事留置権とは、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置する権利をいいます。一方、商事留置権とは、債権者、債務者ともに商人である場合、商行為によって生じた債権の弁済を受けるまで、債権者が商行為によって占有するに至った債務者所有の物又は有価証券を留置する権利をいいます。

民事留置権においては、債権と物との間に個別関連性が必要とされますが、商事留置権においては、債権と物との間に個別関連性が必要とされていないことから、物流・倉庫業の債権回収においては、商事留置権の行使がより有効な手段であるといえます。

(3) 本支店会計の適用

前述のとおり、物流・倉庫業においては、事業所が散在しており、また事業所間の取引が比較的多いという特徴があります。そのため、事業所間で本支店会計を適用しているケースが見受けられます。

(4) 燃料費に係るヘッジ取引

物流・倉庫業においては、トラックの燃料である軽油等に関する市場価格の変動リスクを回避する目的で原油スワップ等のデリバティブ取引を利用するケースがあります。費用に占める燃料費の割合が比較的高い業界の特徴から、こうしたヘッジ取引が行われるようです。

こうしたヘッジ取引に関連して、平成27年4月14日付で、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計実務指針」という。)が改正され、異なる商品間でのヘッジが認められる点が明確化されました。具体例として、石油関連商品の価格変動リスクをヘッジする場合に、流動性が高く価格変動が類似する原油関連のデリバティブ取引を用いる場合が該当する可能性がある旨(金融商品会計実務指針第314-2項)が示されました。

軽油購入取引の価格変動リスクを原油デリバティブ取引を用いてヘッジする取引についても、ヘッジ会計の要件を満たしヘッジ会計を適用できる可能性もあると考えられます。しかし、軽油と原油の価格変動には一定程度の相関関係はあるとは考えられるものの、ヘッジ有効性の評価における高い相関関係(金融商品会計実務指針第156項)があるとは言えずヘッジ会計の適用要件を満たさない可能性等も相当程度存在すると考えられます。このため、このような取引については、ヘッジ会計の適用要件について慎重に判断する必要があると考えられます。

(5) 減価償却方法の変更

物流・倉庫業においては、近年、倉庫内の設備やトラック等の有形固定資産の減価償却方法を定率法から定額法に変更するケースも見受けられます。大型倉庫の新規設備稼働、導入の意思決定や物量の平準化といった主力事業、事業環境の変化等を契機として減価償却方法の見直しを行った結果、今後は安定的な設備の稼働や安定的な収益獲得が見込まれること等から変更を行うケースがあります。

2. 表示の特徴

物流・倉庫業の貸借対照表及び損益計算書には、以下のような特徴点があります。

(1) 業界特有の勘定科目の存在

物流・倉庫業の貸借対照表及び損益計算書を見てみると、営業未収金、営業未払金、営業収益、営業原価、傭車料等の業界特有の勘定科目が見られるケースがあります。

(2) 貸借対照表の勘定科目

物流・倉庫業の貸借対照表を見てみると、業界特有の大規模装置産業的な要素の強さという特徴が出ています。

具体的には、大型トラック等の高価な車両や大規模な倉庫等を保有又はリースしていることから、建物、車両運搬具、土地、リース資産(債務)等の金額が比較的大きいという特徴があります。さらに、倉庫を賃借していることも多く、賃借契約に関する敷金や原状回復義務に関する資産除去債務が比較的大きいという特徴も挙げられます。なお、資産除去債務の計上に代えて、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を費用配分し敷金を償却する方法が簡便処理として認められており(企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」第9項)、当該処理を採用するケースも見受けられます。

また、業界の慣行として、通運関係の鉄道運賃や関税等の輸出入関係諸費用を、物流業者が一時的に立て替えることから、立替金が比較的大きいという特徴があります。

(3) 損益計算書の勘定科目

物流・倉庫業の損益計算書を見てみると、業界の特徴をよく表す勘定科目を見ることができます。

人件費は売上原価の中での構成比率が高い傾向にありますが、これは労働集約性の高い、この業界の特徴の表れであるといえます。

また、傭車料や外注費・下請費が別掲されているケースが多く見られますが、これは荷主―元請―下請の多層化が進んでいる業界の特徴の表れであるといえます。

さらに、燃料費が別掲されているケースが多く見られますが、これはトラックの燃料補給が日常的に行われているこの業界の特徴の表れであるといえます。

【物流・倉庫業の貸借対照表、損益計算書の概観】
貸借対照表
営業未収入金(売掛金) 業界特有の勘定科目
貸倒時に商事留置権を行使できる
営業未払金(買掛金) 業界特有の勘定科目
立替金 輸出入関係の諸費用の立替払いが生じる リース債務 倉庫、トラック等、自社保有に加えリース物件も多い
建物・土地 倉庫等の物流拠点は大きな投資額であり、金額が大きい  資産除去債務  賃借倉庫における原状回復義務に関する資産除去債務が多い
車両運搬具 トラックを多く所有しており、金額が大きい    
リース資産 倉庫、トラック等、自社保有に加えリース物件も多い    
敷金 賃借倉庫における敷金の差入が多い
原状回復義務に関する償却を行う場合がある
   

損益計算書
営業収益(売上高) 業界特有の勘定科目
輸送が短期間で完了する場合、積込完了時点で売上計上する場合がある
輸送が長期間にわたって行われる場合、作業の進捗に応じて売上計上する場合がある
倉庫の保管業務では、10日ごとに売上計上する会計慣行がある(3期制)
営業原価(売上原価) 業界特有の勘定科目
人件費 労働集約的な産業のため、トラックドライバーや倉庫内作業にかかる人件費の割合が高い
傭車料 業務を委託し他の運送会社のドライバー付トラックを利用した際の支払運賃
外注費・下請費 トラックドライバーや倉庫内作業を請負業者に委託する際の請負料金
燃料費 トラックの燃料である軽油価格相場や仕事量の多少により変動

<参考文献>

  • 「業種別会計シリーズ 物流倉庫業」 第一法規
  • 「第12次業種別審査辞典(第9巻) 9014トラック運送業」 金融財政事情研究会
  • 「第12次業種別審査辞典(第9巻) 9030倉庫業」 金融財政事情研究会
  • 本橋信隆(公認会計士)「業種別会計・監査実務をめぐる留意点 貨物運送業・倉庫業」JICPAジャーナル No.445(1992.8) 第一法規
  • 村山徳五郎(公認会計士)監修「制度会計・法会計の実務」(1992.1) 中央経済社
  • 加美和照「商法(商行為)入門」(1989.3) 北樹出版
  • (週刊 経営財務 平成22年3月22日 No.2959 掲載)

物流・倉庫業

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