業種別会計
保険業

第1回:保険の意義・機能と会計基準

2010.11.09

2. 保険契約と会計基準

(1)会計上の保険の定義

次に会計上の保険について説明します。国際財務報告基準(以下IFRS)では、「IFRS第4号保険契約」が定められており、事業体が発行する保険契約(再保険契約を含む)、及び保有する再保険契約ならびに裁量権のある有配当性を伴って発行する金融商品については、この基準により会計処理されることになっています。IFRS第4号は「保険」のうち保険者が引き受ける保険リスクが、"重大(significant)"である場合に限り、原則、会計上保険として会計処理をすることになっています。

一方、日本の会計基準では、後述の実務指針第13項、第224項等のように、保険法上の「保険」(言い換えれば、保険業法等により設立された保険者が保険として引き受けしているもの)は原則、会計上も全て保険として取扱われます。

(2)保険契約と会計基準

IFRSでは、IFRS第4号があるのに対し、日本の会計基準では保険契約の会計処理を正面から取り扱う会計基準はなく、金融商品に該当すれば「金融商品会計に関する実務指針」(日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号、以下「実務指針」という。)により会計処理することになります。実務指針では金融商品を以下のように定義しています。

  • 「金融商品とは、一方の企業に金融資産を生じさせ他の企業に金融負債を生じさせる契約及び一方の企業に持分の請求権を生じさせ他の企業にこれに対する義務を生じさせる契約(株式その他の出資証券に化体表章される契約である。)ということになる。」(実務指針第3項)

また、金融資産及び金融負債を以下のように定義しています。

  • 「金融資産とは、現金、他の企業から現金若しくはその他の金融資産を受け取る契約上の権利、潜在的に有利な条件で他の企業とこれらの金融資産若しくは金融負債を交換する契約上の権利、又は他の企業の株式その他の出資証券である。」(実務指針第4項)
  • 「金融負債とは、他の企業に金融資産を引渡す契約上の義務又は潜在的に不利な条件で他の企業と金融資産若しくは金融負債(他の企業に金融資産を引き渡す契約上の義務)を交換する契約上の義務である。」(実務指針第5項)

実務指針は、このように金融商品を包括的に定義する一方で、一定の保険契約については「金融商品に関する会計基準」の対象外としています。

  • 「保険者が特定の事故の発生によって生ずる損害額等(損害保険又は生命保険)を通常保険金支払の形で補填することを約する一方、保険契約者が保険料の支払義務を負う保険契約は、金融商品会計基準の対象外である。」(実務指針第13項)
  • 「満期返戻金のない契約(掛け捨てのもの)は、金融商品ではない。これに対し満期返戻金のある契約は、保険事由が発生しない限り満期に返戻金が支払われる。しかし、後者は純粋な保険部分と積立金部分が組み合わされているから、両者の区分計算が必要となるが、保険契約と密接な関係にあり区分計算は極めて困難であるため、金融商品会計基準の対象外とした。」(実務指針第224項)

(3)日本の保険業会計

日本では保険業には「保険業法で定められた会計」としての保険会計が適用されます。保険業とは、「人の生存又は死亡に関し一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する保険、一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し保険料を収受する保険その他の保険で、第3条第4項各号又は第5項各号に掲げるものの引受けを行う事業をいう。(保険業法第2条)」とされています。保険業を営むには内閣総理大臣の免許を受けることが必要です。

保険業法では、①事業年度は4月1日から翌年3月31日までとすること(第109条)、②事業年度ごとの中間業務報告書及び業務報告書の作成義務(第110条)、③株式の評価の特例(第112条)、事業費等の償却(第113条)、契約者配当(第114条)などが定められています。さらに、保険業法施行規則においても、業務報告書の詳細な内容(第59条)、業務及び財産の状況に関する説明書類に記載する事項(第59条の2)など、保険会社の経理について規定されています。このような保険業法に基づく会計をSAP(Statutory Accounting Principles)と呼びます。日本では、全ての保険会社は保険業法に基づく会計処理によって決算書を作成することが求められますが、保険会計に関する部分については、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP)と呼ばれるものは存在しないため、SAPがGAAPとされているのが現状です。なお、金融商品会計基準や固定資産の減損会計などは保険会社固有の事象に対応するものではなく、これらと異なる保険業法等の定めはないため、そのまま適用されています。なお、保険会計は、日本の場合は「保険業法で定める会計」なので、他の規制業種と同様、別記事業(会社計算規則第146条)となっています。

一方、米国では、保険会社の認可が州単位のため保険会社は各認可州の保険業法に基づいて決算財務諸表を作成しなければなりません(SAP)。また、これに加えて、SEC登録企業などはFASBの作成した会計基準書(Financial Accounting Standards Board:米国財務会計基準審議会)に基づく決算書の作成をしなければなりません。すなわち、2つの財務諸表を作成しなければならないのです。

(4)保守主義の採用

保険業においては保険業法第1条に記載されているとおり、保険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資することを目的としていることから、保険会社は極めて高い健全性が要求されるため保守主義の考え方が強く残っています。価格変動準備金・危険準備金、異常危険準備金など保険業法で特別に認められた準備金が存在し、利益を一部内部留保することが負債の計上として認められています。生命保険契約においては、費用は早めに、収益は遅くという保守主義の考え方が強く反映されています。


(週刊 経営財務 平成22年7月19日 No.2975 掲載)


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