1. はじめに

スマートフォン・携帯電話向けゲーム市場は、2000年代後半からのスマートフォンの普及を背景に拡大を続けています。また、新型コロナウイルス感染拡大の状況下における「巣ごもり」需要の高まりは、スマートフォン・携帯電話向けゲーム市場の更なる拡大に寄与しており、特に、旧作ゲームタイトルは、新作に比べて、開発費や広告宣伝費などが抑えられ、販売が増えるほど利益率が高まる傾向にあることから、旧作のゲームソフトによる高い利益率獲得にも繋がっています。

一方、2021年4月1日以後開始する事業年度からは、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識会計基準等」という。なお、同基準の項番号を引用する際は、「基準○○項」、関連する適用指針の項番号を引用する際は「指針○○項」という)が適用されています。スマートフォン・携帯電話向けゲームサービスを提供する会社においては、収益認識会計基準適用に際し、幾つかの論点の整理が求められており、これらの会計論点について次項以降で説明します。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

2. 会計処理の特徴

(1) スマートフォン・携帯電話向けゲーム事業及びこれまでの会計処理の紹介

従来、オンラインゲームにおいては月額課金が一般的な課金モデルでしたが、近年においてはF2P(Free to playの略)でのサービス提供が主流となっています。F2Pの場合、ゲームアプリはGoogleやAppleなどのプラットフォームを通じて無料でダウンロードが可能であり、基本料金やアプリの購入代金は必要ないものの、プレー範囲の拡大やより楽しくプレーできるアイテムの利用のために課金が求められるようになり、ゲーム内バーチャルアイテム等の販売を通じて課金が行われます。収益の認識時点については、ゲームユーザーがゲーム内で利用するアイテムを購入するためのゲーム内通貨を購入した時点、すなわちゲーム内通貨販売時点ではサービス提供前であるためユーザーからの受取金額を前受金などの負債として認識し、その後ユーザーによってゲーム内通貨が実際にアイテムに交換された時点で収益計上する実務が多くみられました。

収益認識会計基準等の適用後は、五つのステップに分けて収益認識に関する会計処理を整理する必要があります。

(2) 新収益認識会計基準における処理

a. 5ステップによる収益認識

収益認識会計基準等は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用されます。「約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識すること」を基本原則としており、以下の五つのステップに従って会計処理を決定することとされています。

  • [Step1]契約の識別
  • [Step2]履行義務の識別
  • [Step3]取引価格の算定
  • [Step4]履行義務に取引価格を配分
  • [Step5]履行義務の充足により収益を認識

b. 履行義務の識別及び充足

本稿では主に、F2Pモデルであるスマートフォン・携帯電話向けゲームにおいて特徴的な履行義務の識別及び充足に関して解説します。

契約の識別 [Step1]

最初に、顧客との契約を識別します。収益認識会計基準等において識別する契約は、以下の要件を全て満たす契約です。企業は、顧客であるユーザーに提供するサービスに関する諸条件(提供サービスの内容、履行義務、支払条件)について、各ゲームアプリ・ゲーム内通貨の利用規約及びガイドラインといった形式で示し、ユーザーがゲーム上で同意することが一般的です。収益認識会計基準等における「顧客」は、「対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者」とされており、ユーザーが企業に対して対価を支払うことを同意する契約について、収益認識会計基準等の対象となります。

【顧客との契約として、次の全ての要件を満たす契約を識別 (基準19項)】

  • 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
  • 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
  • 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
  • 契約に経済的実質があること
  • 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと

履行義務の識別及び充足 [Step2] [Step5]

次に、識別した契約に含まれる履行義務を識別します。履行義務は企業が顧客に提供を約束した財又はサービスとされ、配信するゲームの特性によってさまざまであることから一律に定めることはできませんが、スマートフォン・携帯電話向けゲームにおいては以下のような特性を勘案して決定されます。

【スマートフォン・携帯電話向けゲームの特性】

  • F2Pモデルにおける都度課金方式
    ゲーム自体が有料であるパッケージソフト購入や月額課金方式と異なり、F2Pではゲーム自体は無料で提供されます。ユーザーは、ゲームを進める上で有利となるアイテム・キャラクター等のコンテンツを有料で利用することを選択でき、その場合に都度課金方式が採用されることがあります。
    都度課金方式では、ユーザーが現金で直接的に利用料を支払う形式の他に、まずゲーム内で利用できるゲーム内通貨を購入し、当該通貨とコンテンツを交換する間接的な形式があります。ゲーム内通貨は法定通貨等とは異なり換金性がなく、最終的にコンテンツと交換して利用することを前提としています。
  • オンライン接続を前提としたコンテンツ利用
    ユーザーが保有するアイテム・キャラクター等のコンテンツは限られたゲームの中でしか利用できないことが多く、企業がゲーム配信を停止した場合には使用できなくなることがあります。企業はユーザーがコンテンツを利用できるような環境を維持し、必要に応じてゲームやコンテンツのアップデートを実施しています。

識別した履行義務に対して、今度は当該義務の充足時点を決定します。企業は、約束した財又はサービスを顧客に移転することによって、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識します。F2Pモデルを採用するスマートフォン・携帯電話向けゲームの流れは、一般的に【図1】のとおりです。

【図1】F2Pモデルにおけるゲームの流れ

【図1】F2Pモデルにおけるゲームの流れ

ここで、収益認識会計基準等は、諸外国ですでに適用されているIFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点としています。また、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行った経緯があり、IFRS第15号とともにFASBにおけるTopic606を適用した海外企業の事例は収益認識会計基準等を適用する際に参考となります。

海外企業の事例では、履行義務の充足時点として【図1】の③を採用しているケースがあります。このような場合において、スマートフォン・携帯電話向けゲームにおけるアイテム・キャラクター等のコンテンツの使用パターンには、使用により一時点で消耗されるもの、一定期間にわたり使用可能なもの、永久に使用可能なもの、などさまざまです。企業はコンテンツの使用パターンを直接的に観察する他、各種ライフサイクルなどのユーザー動向を示す間接的な情報を収集することで、履行義務の充足時点を合理的に決定します。

日本企業においては、収益認識会計基準等適用前の収益認識時期は、実務上各社さまざまであったと考えられます。収益認識会計基準等の適用に際しては、海外と国内における提供されているゲームの特性やユーザー動向の違いも考慮して、企業は自社の運営するゲームの実態に即した履行義務の充足時点を決定する必要があります。

その他(ライセンス)

モバイルゲームは自社での運営の他、他社へゲームのライセンスを付与し自社では運営を行わないケースが想定されます。収益認識会計基準等において、ライセンスは次の二つに区分され、それぞれで収益認識のタイミングが異なります。

  • 知的財産へのアクセス権
    ライセンス期間にわたり存在するベンダーの知的財産にアクセスする権利である場合、一定の期間にわたり充足される履行義務として処理する。
  • 知的財産の使用権
    ライセンスが供与される時点で存在するベンダーの知的財産を使用する権利である場合、一時点で充足される履行義務として処理し、顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できる時に収益を認識する。

ここで、指針第63項では、アクセス権であるか使用権であるかについて判定基準を設けており、ライセンスを供与する際の企業の約束の性質は、次の(1)から(3)の要件の全てに該当する場合には、アクセス権であると判断されます。

  • (1)ライセンスにより顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことが、契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること
  • (2)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により、顧客が直接的に影響を受けること
  • (3)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として、企業の活動が生じたとしても、財又はサービスが顧客に移転しないこと

なお、知的財産のライセンス供与に対して受け取る売上高又は使用量に基づくロイヤルティが知的財産のライセンスのみに関連している場合、あるいは当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目である場合には、基準第54項及び第55項の定めを適用せず、当該売上高又は使用量に基づくロイヤルティについて収益を認識することとなります。具体的には、知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時と売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時のいずれか遅い方で収益を認識することとなります。

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