外食産業 第3回:外食産業における営業業務

2024年3月22日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 外食セクター
公認会計士 中塚拓也/堀井秀樹

外食産業における営業業務は、顧客が来店し、注文を受け、仕入れた食材等を調理した飲食サービスを提供し、レジにて精算を行うといった一連の業務があります。店舗形態には、路面店や商業施設のテナント店もあります。本稿では店舗における売上、売上代金の回収とその管理の流れ、さらにコスト面で特徴的な労務費について解説します。

1. 売上取引

(1) 取引の概要及び会計処理

① 売上時における業務の概要

一般的には、全店舗に共通のPOSシステムやOES(Order Entry System)が導入されており、店舗の従業員が顧客からの注文をハンディターミナルやPOSレジに入力すると(最近では、顧客が自身の携帯端末や客席に設置した注文用タブレット端末で注文する方式もあり)、システムに商品名(メニュー)と数量が登録され、自動で売上金額が計算されます。会計の際に、POSシステムにて精算処理を行うとPOSシステム上で売上が確定します。なお、取引件数が膨大であるため、通常、一日の営業終了後POSシステムに蓄積された当日の売上金額データを確定処理し、会計上、店舗における販売金額を一括して売上計上します。

【売上計上時の仕訳例】

【売上計上時の仕訳例】

② 売上金の回収

顧客より受け取った売上金は、最終的に本社が管理する預金口座に入金されます。本社管理の預金口座への集金は次の三つの方法に大別されます。

a. ATMなどを利用した送金方法

一つ目は銀行やコンビニ等のATMを利用して店舗内の売上金を定期的に預金口座へ直接入金する方法です。会計処理は預金口座へ現金を送金した際に、店舗の現金勘定から預金勘定へ振り替えます。

大手外食チェーンでは、店舗数が多く、店舗ごとに預金口座を開く場合には管理が煩雑となることから、各店舗の口座はバーチャル口座とし、本社の預金口座に一括して入金される方法をとる企業も散見されます。

【現金送金時の仕訳例】

【現金送金時の仕訳例】
b. 集金業者に依頼する方法

二つ目は定期的に外部の集金業者(主に警備会社等)が店舗の売上金を回収し、本社預金口座へ送金する方法です。この方法では、外部業者へ現金を渡してから入金がなされるまでの間、債権が生じていることになるため、店舗の現金勘定から預け金勘定等へ振り替えます。

【現金引渡し時の仕訳例】

【現金引渡し時の仕訳例】
c. テナントオーナー預けとする方法

三つ目は主に商業施設に入居している店舗において、日次等で売上金をテナントオーナーへ預け、テナントオーナーから家賃や光熱費等の経費を差し引かれた金額が本社預金口座へ一定期間ごとに送金される方法です。この方法も、上記bと同様、入金がなされるまでの間、債権が生じていることになるため、店舗の現金勘定から預け金勘定等へ振り替えます。

【テナントオーナー引渡し時の仕訳例】

【テナントオーナー引渡し時の仕訳例】

この他、最近では、クレジットカードや各種電子マネー等、現金以外での支払方法も幅広く利用されています。ただし、これらは外食産業固有の取引ではないため、今回は割愛します。

(2) 関連する業務管理と内部統制

① 共通して行われる内部統制

売上金は盗難、流用、といった不正リスクが高く、頻繁に発生するのが売上金または釣銭からの従業員による着服です。特にPOSシステムのデータを操作して日々の売上金を数字上減らすとともに同額の現金を着服するケースが見られます。

従って、内部統制上、自動釣銭機を導入する、現金を2人でダブルカウントする、エリアマネージャーが定期的に現金実査を行う、防犯カメラを設置する、POS上の売上マイナス金額を一定額以上は営業日報にて報告する等、事前対策の仕組みを整えることが重要です。また、売上マイナス等のデータを本社で毎月チェックする事後的なチェックも、被害額の拡大を防ぎ不正実行者を早期に発見するために重要な内部統制となります。

② 売上金の回収方法ごとに一般的に行われる内部統制

a. ATMなどを利用した送金方法

本社では店舗から本社預金口座への入金が、決められた方法・タイミングで実施されているか確認する必要があります。これは、店舗で多額の現金を長期に保管することは盗難、流用、紛失のリスクが高く、このような不正を防止する必要があるためです。金額の正確性はもちろん、入金の遅れをチェックすることでこうしたリスクを防止します。

b. 集金業者に依頼する方法

本社では現金授受の検証のため、業者の各店舗からの集金データと本社が把握する各店舗の引渡し金額とを照合し、差異が生じている店舗はその原因を調査します。業者から入金がなされた際も、入金額を検証するため実際の入金額と本社把握の金額を照合する必要があります。

c. テナントオーナー預けとする方法

本社では売上金を適切に入金したことを確認するため、テナントオーナーより受け取る「預り証」の金額と預けた金額に相違がないか確認します。また、金額認識の相違がないか確認するため、テナントオーナーから通知される「精算書」や「入金明細書」等の売上金の金額をPOSデータと照合することや実際の入金額と照合することも必要となります。

(3) 外食産業における収益認識基準の主要論点

2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識基準」という)が適用となっています。外食産業における収益認識基準の主要論点は以下のとおりです。

① 自社ポイント及び他社ポイント(追加の財またはサービスを取得するオプションの付与)

a. 自社ポイント

顧客に対する商品の販売の一環として付与するものであり、自社ポイントが顧客に重要な権利を提供すると考えられる場合は、追加の財又はサービスを取得するオプションの付与に該当するため、収益を繰り延べ、契約負債を計上する必要があります(企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識基準適用指針」という)第48項)。

b. 他社ポイント

外食産業においては、顧客の利便性向上や顧客層拡大等の観点から、自社ポイントを運営するだけではなく、他社が運営するポイントプログラムに参加する場合があります。ポイントプログラムの運営の責任や、顧客に対して将来のポイント利用時に値引きを受ける重要な権利の提供を行う義務を他社のみが有している場合、ポイントプログラムに参加する企業としては、ポイント運営会社に対してポイントに相当する代金を第三者である他社のため顧客から回収し、その代金を他社に支払う義務のみを有しているケースも多いと考えられます。このようなケースにおいては、企業が飲食サービスを提供して受領した対価から他社ポイントに相当する金額を除外して収益を認識するとともに、他社への支払債務を計上することになります(収益認識基準第47項)。

② 割引券、クーポン券等(顧客に支払われる対価)

外食産業では、チラシや街頭配布等により、割引券やクーポン券等を発行するケースがあります。割引券、クーポン券等は、将来、飲食サービスの提供等を無償又は割引価格で購入可能な権利を付与するものですが、飲食サービスの提供から独立した取引であり、別個の履行義務には該当しないと考えられます。従って、これらは将来の飲食サービスの提供時に顧客が企業に対する債務額に充当できるものであり、飲食サービスの提供時に収益を減額することになると考えられます(収益認識基準第63項、第64項)。

③ 宅配業者への手数料と配送料

外食企業が宅配業者にデリバリー・代金回収業務を委託している場合、宅配業者への手数料や配送料の支払いについて、収益から控除すべきかどうかの検討が必要です。例えば、支払手数料が商品代金の名目で顧客から回収され実質的に顧客が負担している場合や配送料の名目で顧客が負担している場合は、これらが「第三者のために回収する額」に該当するかどうかを検討すべきと考えます(収益認識基準第47項)。

④ フランチャイズ契約における本部から加盟店への商品販売(本人代理人取引)

フランチャイズ契約に基づき、仕入業者の食材等が本社である企業を通じて加盟店に販売される場合、企業の履行義務が食材等を自ら提供すること(すなわち、企業は本人に該当すること)なのか、仕入業者によって食材等が提供されるように手配すること(すなわち、企業は代理人に該当すること)なのかを判断することに留意が必要です(収益認識基準適用指針第39項、第40項)。特に、仕入業者から直送で店舗まで配送される間、在庫リスクが企業にない場合には、企業は代理人と判断される可能性があります(収益認識基準適用指針第47項)。

⑤ フランチャイズ契約におけるフランチャイズ加盟料(ライセンスの供与)

フランチャイズ契約に関して、返還義務を負わない加盟金は、通常、将来のライセンス供与に対する前払いであるため、ライセンス供与に関する契約上の義務の履行に応じて(例えば、ライセンスの契約期間にわたり)収益を認識する必要があります(収益認識基準適用指針第58項)。なお、フランチャイズ契約は様々な条項が盛り込まれる場合が多いため、契約内容を確認した上で、契約内容に応じて収益を認識するタイミングを判断する必要があります。

2. 人件費

(1) 外食産業における人件費の特徴

外食産業では、製造業等の他業種と比べて、人件費率が相対的に高い傾向にあります。製造業等では、機械による大量生産を行うことで売上に対する人件費率は低下しますが、外食産業では、店舗での調理や接客等に人員を割く必要があり、提供しているサービス(売上)に対する人件費率が高くなります。国内の上場外食企業について、有価証券報告書等から各社の売上高人件費率をみると25~35%程度となっており、一般的な他業種のそれが10%程度となっていることからも、その比率が高いといえます。このように、外食産業では人件費がコストの大きな比重を占めており、若年者を含む、時間当たり単価の低いパートやアルバイトを多く採用することで、人件費率をコントロールしている企業が多数あります。一方、人件費削減のため、勤務時間の不正な操作やサービス残業の強要が起こりやすいといった点に留意が必要です。

(2) ITシステムを活用した勤怠・シフト・人件費の管理

外食産業では、人件費は質的にも金額的にも重要性が高く、人の入れ替わりが頻繁にあるため、その管理についてシステム対応を行っている企業が多いことも、業種の特徴といえます。多くの企業では、各従業員の出退勤や休憩時間の打刻、休暇等の各種申請、シフト管理等について、各店舗からアクセス可能な勤怠システムにより管理が行われ、給与計算システムとの連携も図られています。これにより、多数のパートやアルバイトの勤務時間の正確かつ迅速な集計を可能にし、給与計算を円滑に行うとともに、店舗別の損益管理も可能となります。また、外食企業における人件費の管理は、内部統制上も重要なプロセスと考えられるため、関連するITシステムについて適切な内部統制の整備・運用が求められます。

(3) 損益計算書上での取扱い

人件費については、各社でその計上区分に違いが出ていることも特徴です。外食産業における人件費は、店舗運営を行う従業員に係るもの、セントラルキッチンで調理を行う従業員に係るもの、本社等で間接業務に従事する従業員に係るものに大別されます。一般的には、店舗運営を行う従業員に係る人件費は販売費及び一般管理費、セントラルキッチンで調理を行う従業員に係る人件費は製造原価(売上原価)、本社等で間接業務に従事する従業員に係る人件費は販売費及び一般管理費として表示されることになります。

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