業種別会計
外食産業

第1回:外食産業のビジネスと会計の概要

2016.04.12
新日本有限責任監査法人 外食セクター
公認会計士 戸田 哲生 山﨑 祐史

はじめに

外食産業とは、顧客に飲食サービスを店舗で提供することにより、収益を得ることを目的とする産業です。

街に出ると多くの飲食店が軒を連ねており、一言で外食産業といってもレストランやファーストフード、居酒屋チェーンなど様々な形態があることが分かります。いわゆる飲食店という意味では、個人で営むものから、大手外食チェーンまで含まれますが、本稿では、外食産業の中でも多店舗展開を行い、飲食サービスの提供がシステム化されている企業を対象として解説を行います。

本稿の各回は次のようになります。


第1回:外食産業のビジネスと会計の概要

外食産業は、顧客に対して飲食サービスを店舗で提供する産業であるため、そのビジネスと会計処理にはいくつか特徴があります。本項では、外食産業におけるビジネスと会計処理の概要について解説します。

1. 外食産業の経営環境と業務の特徴

(1)外食産業の経営環境

外食産業における経営環境には、以下のような特徴があります。

① 低い参入障壁による競争の激化

飲食店の出店について厳しい規制はなく、食品衛生法に基づき保健所に届出を行うことにより比較的容易に出店することができます。また、土地や建物を購入することなく賃借して出店することによって、出店時の初期投資額も比較的抑えることができるといえます。このように、他の業種と比較して参入障壁は低いといえ、立地等の条件が良い地域においては競争が激化する傾向がみられます。さらに、コンビニエンスストアやスーパー等で弁当や惣菜を購入し、自宅へ持ち帰って食べる「中食」の利用も増加傾向にあり、外食産業の競争を激化させる要因となっています。

②  既存店の売上減少とスクラップ・アンド・ビルド

外食産業は流行に左右され、出店後の環境も常に変化するため、一般的には出店から時が経過するに従い、次第に集客力が低下する傾向にあります。こうした要因による既存店の売上減少に対応するため、外食企業は頻繁にメニューの改定、店舗改装や既存メニューの磨き上げを行います。また、出店当初から既存店の売上減少を見越して投資回収期間を短く設定し、出店と退店を頻繁に繰り返し(スクラップ・アンド・ビルド)、環境の変化に応じて業態を変更するケースも多くみられます。

③  業態の多角化

現在の外食産業では、競争が激化し、顧客の嗜好も多様化するとともに、取り巻く環境が絶えず変化しています。このような環境下では、単一の業態やブランドのみで安定的な経営を長期間継続することは難しくなっています。そのため、一つの会社で複数ブランドの店舗を運営する場合や、持株会社を親会社として設置し、子会社で複数の業態やブランドを展開する手法も多くみられるようになりました。また、激しい環境の変化に対応するため、M&Aを用いた多角化もみられます。

(2)外食産業における業務の特徴

外食産業においては、主に店舗の出店、食材の仕入、加工(調理)、飲食サービスなどの業務があります。

① 出店・退店の意思決定と店舗損益管理

外食産業は地域性や流行等に左右される業界であり、どこに、どのような店舗を出店するかという戦略が重要です。そのため、多くの企業が店舗開発の専門部署/専門チームを設け、出店候補地の市場調査、当該地域の物件の調査を行ったうえで、出店した場合の採算を予測し、出店の意思決定を行っています。なお、店舗の拡大にあたっては、自社による出店のほか、フランチャイズ形式による出店を行う場合もあります。また、出店後の店舗損益管理も重要です。多数の店舗管理のための組織やシステムを構築している企業もあり、損益情報に基づいて各店舗を機動的に運営します。そして、不採算店舗については損益改善のための施策を行い、改善が見込めないと判断した場合には、退店の意思決定を行うこともあります。

② 食材の仕入・加工における安定調達及び集中管理

外食産業では、安心・安全な食材を安定的に調達するため、食品商社や卸売業者を通じた食材の調達や、農家との野菜の供給契約の締結、さらには自社による農場経営を行うこともあります。また、大手ファミリーレストランなどでは、セントラルキッチン(中央集中調理方式)によって食材の集中加工を行い、品質を集中的に管理するケースも多くみられます。なお、消費者の食材に対する安全・品質への意識の高まりに対応するため、トレーサビリティの追求や調達先のモニタリングにより、産地・製造過程・物流を確認する流れも一般的になりつつあります。

③ 店舗におけるオペレーションと衛生管理

外食産業には、チェーンストア化やフランチャイズ化によって多店舗展開を図るケースが多いという特徴もあります。そのため、多くの店舗において均一のサービスを効率的に提供できるよう、一般的にはオペレーションのマニュアル化が図られています。特に、外食産業は食品衛生法による規制を受けるため、このマニュアルは衛生管理を意識したものが多くなっています。

④ 営業支援システムの構築とその運営

外食企業においては、一般的に店舗のオペレーションを支えるための営業支援システムが構築されています。多くの外食店舗においては、POSシステム(販売時点情報管理システム)及びOES(オーダー・エントリー・システム)が導入され、店舗において注文から調理、レジの会計までの情報が自動的かつ迅速に一元管理されるという特徴があります。また、経理についても、POSシステムの情報を自動で会計システムに転送しているケースが多くみられます。こうしたシステムの導入により、販売情報管理に加え、売上金の管理、食材の発注についても本社による一元管理が可能となります。

2. 外食産業の業務と会計処理及び内部統制の特徴

外食産業における業務、会計処理及び内部統制の特徴を財務諸表に関連付けて図表に示すと、次のようになります。

【図表1】 外食産業における財務諸表の特徴

(下の図をクリックすると拡大します)

【設例7】(前提条件)T字勘定とキャッシュ・フロー精算表

(1)固定資産の特徴

①  リースか自社物件か

飲食店の出店にあたっては、通常、店舗の出店場所をリース(賃借)取引によって確保するか、自社物件の取得として確保することになります。外食産業はスクラップ・アンド・ビルドを前提としているため、店舗物件を賃借することが多いといえますが、立地が良いなどの条件次第では自社物件として取得することが有利な場合もあります。なお、リース契約の内容によっては、契約期間が長期にわたり、契約に解約不能条項がある場合や、解約時に違約金の支払いが求められる場合があります。このような場合にはファイナンス・リースとしてリース資産を計上する場合や、解約不能のオペレーティング・リースとして開示対象となる場合があります。ただし、外食産業における店舗物件の賃借については、通常オペレーティング・リースに該当することが大部分であるといえます。

②  固定資産管理

飲食店舗の設備は劣化や入替えが頻繁に行われる傾向にあり、また様々な備品を保有することから、資産の管理が煩雑になる傾向があります。従って、固定資産台帳等で受払いを管理するほか、定期的な固定資産実査により、実在性を確認することが重要と考えられます。

③  減損リスク

業態の陳腐化や競合店の出現等の環境の変化によって、店舗の損益が悪化することがあります。大規模なチェーン展開を行っている企業であれば、全ての店が黒字であることは稀でしょう。一定期間、店舗の損益が赤字であり今後も改善の目途がつかない場合には、減損損失の計上を検討します(第2回参照)。

(2)売上取引の特徴

外食産業の売上取引では、顧客への飲食サービス提供の対価として、現金やクレジットカード利用による売掛金等を収受します。基本的に現金商売であるため、収益の認識時期は対価の受取り(顧客の支払い)ときとなります。なお、各店舗における店員と顧客との現金の授受が頻繁に行われると共に、売上金は通常、一定期間店舗内に保管されます。このため、現金が横領されるリスクが非常に高く、現金管理の仕組みを内部統制として構築する必要があります。具体的にはPOSによる現金有高管理、レジ締めの業務フローの構築、職務分掌等により、厳格な現金管理を行うことが考えられます。

(3)コストの特徴と関連する業務

外食産業におけるコストは、材料費、人件費、経費の三つに分類されます。

①  材料費

材料費は主に食材費です。食材等は、通常、保存期間が短いため、効率的に費消されなければ廃棄ロス(ロス)が発生してしまいます。従って、在庫を確保した上で、ロス率を下げるための効率的な発注システムを構築する必要があります。具体的にはPOSを利用し、店舗での注文データから食材の消費量を本社にて集中管理し、本社又はセントラルキッチンに自動的に発注する仕組みや、店舗ごとに食材購買責任者が機動的に店舗端末から発注できる仕組みが考えられます。また、発注及び検収の頻度が高いため、棚卸資産の数量について月中における受払い管理は行わず、月次の実地棚卸法によることが多いといえます。また棚卸資産の単価は最終仕入原価法による評価が多くみられます。

②  人件費

外食産業はサービス業として労働集約型の産業であるため、原価における人件費率が高いといえます。従って、人件費を適正水準に保つため、パートタイマーやアルバイトの割合を高める傾向にあり、きめ細かい人員管理(シフト管理等)が必要になります。
なお、食材費(Food cost)と人件費(Labor cost)を合わせてFLコストと呼び、外食産業おける原価管理では、このFLコストをいかにコントロールするかが重要となります。このFLコストを売上高で割ったFL比率は、業態によってバラつきがあるものの、概ね60%が一つの目安とされています。

③  経費

主に減価償却費、水道光熱費、地代家賃が挙げられます。これらは固定費又は準固定費的な性格を有しています。従って、出店計画時の損益分岐点分析を行うにあたり、重要な要素となります。


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