業種別会計
食品・飲料メーカー

第1回:食品業界の概要

2016.06.13
新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 中込佑介

1.はじめに

食品・飲料メーカーとは、生ものである原材料を購入し、工業規模で食品・飲料の製造を行い、製造した製品を販売することで収益を得るものをいいます。食品・飲料メーカーのビジネスの特徴、取引慣行や食品・飲料メーカーをとりまく経済環境の特徴を説明するとともに、業種別の特性を反映した取引の発生から会計処理・表示までの業務の流れ、その流れの中で発生する可能性のある財務報告リスク及びリスクに対応する内部統制について解説します。

2.食品・飲料メーカーの製品の特徴、事業環境、特有の法規制等

(1) 食品・飲料メーカーとは

食品・飲料メーカーには、製造している品種に対応した業種が多岐にわたるという特徴があります。総務省が公表する日本標準産業分類によると、食品工業は大きく「食料品製造業」と「飲料・たばこ・飼料製造業」に分類されますが、「食料品製造業」は畜産食料品、水産食料品などの9業種に、「飲料・たばこ・飼料製造業」は清涼飲料、酒類などの6業種に分類されます。さらに細分類すると「食料品製造業」は41業種に、「飲料・たばこ・飼料製造業」は13業種にまで分類され、食品工業全体で54業種に細分されます。

(2) 食品・飲料メーカーの製品の特徴

食品・飲料メーカーも、製造設備である工場を建設し、原材料を調達してこれを加工し、卸売、小売の流通にのせて消費者に提供するというプロセスは自動車工業など他の製造業と同様です。しかし、食品・飲料メーカーでは原材料・半製品・製品などの棚卸資産が鉱物ではなく、生ものであるという点に最大の特徴があります。

その性格をまとめてみると以下のように考えられます。

  • 原料の入手時期に季節性があること
  • 生産数量が、原料の豊凶の差に依存すること
  • 保存性に乏しいこと(時間の経過により劣化すること、消費期限があること)
  • 加工しやすいこと(鉱物に比べ柔らかい)
  • 消費者の口に入るものであり、安全が求められること

特に③の保存性に乏しいという特徴から、原材料、仕掛品、製品の品質を維持するための保管方法、製造工程での品質管理、流通方法などが工夫されています。

また、製品が最終消費者の口に入るものであることから、採取、製造、加工(調理)、貯蔵、包装、運搬、販売のすべてのプロセスにおいて、病原菌による汚染、腐敗などによる変質、有毒な化学物質や髪の毛などの異物の混入などがないように対策が講じられています。

(3) 食品・飲料メーカーの事業環境

① 食の安全性

意図的な異物混入や、未承認の遺伝子組換(GM)食品の混入、食品表示偽装などの食品に関する不祥事が近年では散見されています。このような中、消費者の食に対する安全性の意識はさらに高まっていると考えられます。食の安全性については、法律により行政上の指導・監督がなされますが、個々の企業においても各種認証の取得によるフードセイフティ及び意図的な食品安全阻害行為への対応としてのフードディフェンスに取り組んでいます。食品の安全性を確認するため原材料がどこで生産・加工されたかを追跡できること(トレーサビリティー)も重要視されています。

また、2015年6月より新しい食品表示制度「機能性表示食品」の商品が発売されていますが、従来ある「特定保健用食品」(トクホ)に比べ、国の審査がなく、有効性や安全性に関する人を使った臨床試験も不要となり、論文などの科学的な根拠を添えて消費者庁に届け出れば、健康への効用を表示することができます。一方で、トクホの審査において安全性が確認できないと指摘された成分が機能性表示食品に使用されるような事例もあり、この制度自体に批判的な意見もあります。

② 原材料価格の変動

食品・飲料メーカーでは大豆や小麦、オレンジなど、主要な原料を輸入で調達するケースが多くあります。中国やインドを中心とした新興国の経済成長に伴う世界的な食糧需給の構造変化は長期的に見れば原材料価格の上昇圧力になると考えられます。また、商品市場への投機的な資金の流入、為替相場の変動、生産地国での天候変化による生産量の変動など、原材料価格は不安定さを増している状況にあります。

③ 海外市場への展開

日本市場は飽和状態にある上、少子高齢化が進んでいるため今後は市場が縮小していくと考えられています。このため、大手企業をはじめ、海外での事業展開の本格化を目指す企業が増えています。また、縮小する市場への対応や海外進出への準備として、大規模なM&Aも進んでおり、今後は海外の企業とのM&Aも盛んになると考えられます。

④業界再編

少子高齢化に伴う総需要の減少傾向や、原材料価格の高騰に伴う仕入単価の上昇、物流コストの上昇などに対応するため、国内、海外を問わず、食品・飲料メーカーによる企業買収、経営統合などが活発になっています。様々な食品・飲料メーカーにおいて、業界再編は今後も進んでいくことが考えられます。

⑤TPP

TPPとは、環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership)の略称です。TPP交渉の参加国は、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ、カナダ、そして日本の12カ国です。TPP協定の目的は、「関税の撤廃」と「各国の様々なルールや仕組みの統一」にあります。TPP協定が2015年10月に大筋合意に至り、日本が輸入している農林水産物では、その80%強が関税を撤廃されることとなりました。なお、日本は当該交渉にあたり、米、麦、乳製品、牛肉・豚肉、甘味資源作物(サトウキビなどの砂糖の原料)を、農林水産物のうち関税撤廃しない重要5項目として掲げていましたが、当該項目の一部の品目についても関税を撤廃することとなりました。

「関税の撤廃」は、製品に使用している海外からの原材料を安く仕入れたり、海外に輸出しても安く販売できるといったメリットがある一方で、海外からの安価な食品が流入することにより相対的に高価な国内の食品の販売悪化につながる可能性もあります。従って、当該合意に伴うメリット、デメリットは企業によって異なるものと考えられます。また、「各国の様々なルールや仕組みの統一」により、食品添加物、遺伝子組み換え食品、残留農薬などを海外の緩い基準に合わせることに伴い食の安全が脅かされるなどの問題もあります。

(4) 食品衛生に関する法規制等

食品には前述のような特徴があることから、すべてのプロセスにおいて衛生面の確保が図られています。食品衛生は主として法規制によって行われています。主なものとして、食品衛生法、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)などがあります。

現行の食品衛生法の目的は、「食品の安全性確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ること」にあります(食品衛生法第1条)。近年、この食品衛生法に基づき、農薬に関する新たな規制である「ポジティブリスト制度」やHACCP(ハサップ=Hazard Analysis Critical Control Point)手法の導入を推進する「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」(以下、HACCP法)などが創設されています。また、近年の海外展開に伴いFSSC(Food Safety System Certification)22000の認証取得を推進している企業も見られます。FSSC22000は、食品安全マネジメントシステムの国際規格であるISO22000と食品製造業向けの「食品安全に関する前提条件プログラム」であるPAS220を統合し、GFSI(国際食品安全イニシアチブ、Global Food Safety Initiative)によって開発された規格です。

【食品メーカーの財務諸表をめぐる経営環境】

(※画像をクリックすると拡大します)

3.食品・飲料メーカーの業務と会計処理の特徴

(1) 固定資産の特徴

食品・飲料メーカーは、食品・飲料を大量生産して、一般消費者に供給する事業であり、食品加工を工業規模で行うものです。これを行うためには、大規模な食品製造設備が必要となります。食品・飲料メーカーはいわば装置産業であり、設備への多額の資金投下が必要となります。

食品・飲料メーカーでは、いったん投資した設備を、いかに高稼働で、効率的に、低コストに、高品質で製品を製造できるかが成功の鍵になってきます。このため、生産管理システムが導入されています。

また、環境への配慮や、食品衛生に関する法規に対応するための衛生面を確保するための設備投資などが求められるほか、減価償却や減損会計が論点となってきます。

(2) 原価計算の特徴

原材料は製造工程に投入され、製品が製造されます。食品・飲料メーカーでは原材料が生ものであることに大きな特徴があり、製造方法もその特徴が反映されたものとなっています。原材料が青果物や魚畜肉等であることから加工はしやすいですが、保存性は乏しいため製造加工は迅速に行われます。そのため、酒類等を除き仕掛品は少なくなっており、原価計算も単純なものが多いと考えられます。ただし、業種の多様性、品目の多様性から原価計算の方法も多岐にわたっています。近年の食品・飲料メーカーの原価計算はシステム化され、生産管理システムからのデータにより行われます。

(3) 購買方法の特徴

少品種大量生産を行うような食品・飲料メーカーが原材料を発注する際、コストダウンを図ったり、高品質な原材料の購入を図るために以下のような購買の方法を採ることがあります。

調達方式に関して、代表的な手法を解説します。

① 大量発注・分散納入方式
この方式は発注先の製造能力、品質等を勘案し、数社に発注先を限定し、発注先との関係を強くすることで、有利な条件(価格、納期、サービスなど)を引き出すために行われる方式です。

② 集中購買方式
この方式は発注金額が大きく、各工場共通の原材料等の購買を本社資材部等に集中させることで、有利な条件を引き出すために行われる方式です。

③ 購買先の系列化
この方式は、安定的な原材料調達を目的として採用されることが一般的です。採用に際しては、関係会社の設立や、購買先に対する資本参加、役員派遣、資金援助、経営指導等の実施により行われます。

(4) 販売・流通の特徴

工場で製造加工された製品は、メーカーが消費者に直接販売するということは少なく、ほとんどが商社、問屋などの卸売業者等を経た後、全国各地のコンビニ、スーパー、デパートなどの小売店で販売されたり、外食産業へ販売されたりしています。また、EC市場(消費者向けの電子商取引市場)の急速な拡大に伴い、食品販売においても小売各社におけるネットスーパーによる販売形態が拡大しています。さらに、リアル店舗とネットを融合させたオムニチャネル化も進められています。

自社で独自に物流センターを有する食品・飲料メーカーもあり、その中には他社製品の物流を代行するものもあります。製造された製品は一般的に保存性に乏しいという特徴を持っていることから、保管の際に冷蔵倉庫、冷凍倉庫が利用されることがあります。また流通の際にもスピードが求められることから冷蔵、冷凍設備のある輸送機器が利用されることがあります。

このような背景の中、食品・飲料メーカーにおける収益計上基準は、得意先からの受注に基づき製品等を出荷した時点で売上を計上する出荷基準が採用されることが多いと考えられますが、納期(着荷)基準を採用している例もあるようです。出荷基準の枠組みの中でも、販売先と納入先が異なる直送売上など、その収益の認識時点を把握する際に留意が必要となる取引があります。

また、メーカーが製品を販売する際、販売促進のためにリベートを支払う商慣習があります。リベートにはさまざまな取引形態があります。メーカーから卸売業者への売上の数量に比例して金額が計算されるものや、卸売業者の出荷数量に比例して金額が計算されるもの、支払先が卸売業者ではなく小売の業者に対してなされるものなどさまざまです。

(5) 棚卸資産の特徴

食品・飲料メーカーにおいて生じる棚卸資産は、製造工程に投入される前の原材料が青果物や魚畜肉等の生ものであること、また最終的に製造された製品が消費者に食されるものであることから、その生鮮度を維持することが重要となります。そのため保管の際には冷蔵、冷凍設備を必要とするケースがあります。

また生鮮度が重要であるため有効期限、賞味期限の設定されている製品もあり、期限切れ間近となった製品は、製品価値が低下し、販売ができない可能性が生じます。そのような場合には棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準第9号)に従い、棚卸資産評価損の計上を検討する必要があります。

食品・飲料メーカー

情報量は適当ですか?

文章はわかりやすいですか?

参考になりましたか?