電気事業 第2回:電気事業ビジネスの特徴と流れ

2024年3月7日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 電力・ユーティリティセクター
公認会計士 川口 颯汰/黒川 壽明

1. 電気事業ビジネスの特徴

(1) 公益事業であること

電気事業は、電気という日常生活、産業活動に不可欠な生活インフラを供給する、公益事業の性格を有しています。ゆえに、一般送配電事業者の託送料金設定等に際して監督官庁への届出・認可が必要であったり、採算が取れない辺地に対しても法律によって電気の供給義務を負ったりするなど、事業活動に制約を受けます。


(2) 設備産業であること

電気事業は、電気を供給するために発電設備や流通設備といった膨大な固定資産を必要とする、典型的な設備産業です。ゆえに、その建設や更新には多額の設備投資が必要となり、同時に、当該設備投資のため巨額の資金調達が必要となります。


(3) 製品の貯蔵が困難であること

電気は物理的に貯蔵することができません。近年、燃料電池などの研究も進められていますが、基本的に電気事業者が販売する電気は生産されると即時に消費されます。ゆえに、需要が少ない時に作りためておいた電気を、需要が多い時の供給に充てることはできません。


(4) 様々な電力取引市場があること

小売市場以外に様々な電力取引市場が整備されています。電力システム改革の目的等を事業者の経済合理的な行動を通じて、より効率的に達成する観点から、実際に発電された電気が取引される卸電力市場に加え、発電することができる能力が取引される容量市場、短時間で需給調整できる能力が取引される需給調整市場、非化石電源で発電された電気に付随する環境価値が取引される非化石価値取引市場があります。

【図表1】

【図表1】

出典:資源エネルギー庁「電源投資の確保(2020年10月)」3ページ

2. 電気事業のビジネスの流れ

(1) 長期計画

電気の供給を安定的かつ経済的に行うために、電気事業者は次のような種々の計画を総合的な観点から立案します。

a. 電力需要想定

販売製品である電気の需要予測は、後述する諸計画の基礎となります。電気事業における需要予測は、他の一般事業会社における需要予測のように特定の産業、商製品を対象とするものではなく、GDPなど経済全体を対象としたマクロ予測の性格を有する点に特徴があります。

b. 電力供給計画

想定した電力需要に対応して、どのように電気を供給するかを計画します。具体的には、需要を満たす供給を確保できる範囲で最も経済的な供給ができるよう、水力、火力、原子力などの最適な電源の組み合わせを計画したり、設備の補修をいつ実施するかを計画したりします。電気事業者においては、事業法の定めにより、毎年度、当該年度以降経済産業省令で定める期間について計画を作成し、当該年度の開始前に電力広域的運営推進機関を経由して経済産業大臣に届出をすることが義務付けられています(事業法第29条第1項)。

※ 電力広域的運営推進機関
電力システム改革の第1弾として、2015年4月に発足した機関です。全国規模での平常時・緊急時の需給調整機能の強化、中長期的な安定供給の確保、電力系統の公平な利用環境の整備などの役割を担っています。また、2020年6月に成立した「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(エネルギー供給強靭化法)により、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)に関する交付金の交付などの役割が追加されています。

c. 電源開発計画

電力供給計画に基づいて、いつ・どこに・どのような形式の発電所を建設するかを計画します。電源は水力、火力、原子力など、おのおの特徴を有しています。

d. 送変配電設備計画

発電された電気は、送電・変電・配電というプロセスを経て需要家に到達します。電源から、どのように流通させるかを計画することも重要です。

e. 資金計画

多額の設備投資を行うためには、多額の資金を必要とするため、その資金調達計画も重要です。

(2) 燃料調達

発電方法は火力発電、原子力発電のほか、水力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーによる発電に分けられます。ここでは、火力発電に使用する燃料の調達について記載します。

a. 石炭

熱量当たりの単価が化石燃料の中で最も安く、地政学的リスクが相対的に低く、貯蔵が容易です。豪州など海外から輸入したものを主に使用しています。埋蔵量が豊富で安価なため安定供給が見込めますが、他の化石燃料に比して二酸化炭素(CO2)の排出量が多く環境負荷が高いという課題があります。

b. 石油

発電用に限らずわが国の一次エネルギーとして重要な位置を占めています。石油資源に乏しいわが国は、中東など海外の産出国から輸入される石油を使用しています。地政学的リスクが大きく、燃料価格も高いですが、電力需要の変動に応じた出力変動が容易です。

c. LNG

火力発電の中で最も多くの電気を生み出しています。他の化石燃料に比して、環境負荷が低いエネルギーであり、かつ、調達先が世界各地に分散しているため安定供給源としても優れています。また、2000年代に採掘技術が確立し、主に北米において開発・生産が行われているシェールガスも利用されています。

d. 水素・アンモニア

2050年カーボンニュートラル達成に向け、CO2を排出しない燃料として注目を集めているのが、水素とアンモニアです。直ちに実用化という事は困難であるものの、今後の実用化へ向けた取組みが進められています。

(3) 発電

a. 電源の種類

2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画において、将来における電源構成の在り方として図表2が示されています。

【図表2】

【図表2】

出典:資源エネルギー庁「2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」70ページ

b. 再生可能エネルギー

再生可能エネルギーとは、非化石燃料に該当し温室効果ガスを排出せず、国内で生産できるエネルギーです。エネルギー源としては、太陽光、風力、地熱、水力、木質バイオマス等が挙げられます。これらのエネルギーは2050年カーボンニュートラル実現のための主力電源として期待されています。

再生可能エネルギーのうち、太陽光発電や風力発電等は天候によって発電量が左右されるため、発電量が低下した場合の調整力となる電源を確保することが必要になります。火力発電は調整力の1つの手段になります。
再生可能エネルギーによる発電方法は、以下のような種類があります。

  • 太陽光発電
    太陽電池を用いて、太陽光エネルギーを利用して発電する方法です。太陽電池には半導体が使われており、光が当たると電圧を生じる仕組みを持ちます。
  • 風力発電
    風の力を利用して発電する方法です。風車を回転させることで、風車に直結された発電機が回転し、電気が作られます。
  • 地熱発電
    汽力発電におけるボイラーの代わりに、地中のマグマ等を原因として噴き出す蒸気や熱水が持つエネルギーを利用して発電する方法です。
  • 水力発電
    水が高い所から低い所へ落ちるエネルギーによって水車を回して発電する方法です。水の利用面・構造面から、調整池式・貯水池式・揚水式などのように分類されます。
  • バイオマス発電
    バイオマスとは、生ゴミや木屑といった動植物に由来するエネルギー源をいいます。バイオマスを直接燃焼させたり、加工して得られるガス等を利用したりして発電する方法をバイオマス発電といいます。

c. 原子力発電

燃料ウランなどの核燃料が核分裂する時に発生する熱を利用して、ボイラーで発生させた蒸気でタービンを回すことで、発電機を回転させて発電する方式です。

d. 火力発電

LNG、石炭、石油などの燃料を燃焼させて得られる熱エネルギーを利用する発電方法であり、次の三つに大別されます。

  • 汽力発電
    燃料を燃焼させて発生する熱を利用して、ボイラーで発生させた蒸気でタービンを回すことで、発電機を回転させて発電する方式をいいます。この方式が火力発電の主流であり、通常、火力発電というと、この汽力発電を指します。
  • 内燃力発電
    燃料を燃焼させて発生するガスの膨張力を利用して、直接、発電機を回転させて発電する方式をいいます。ガスエンジン、ディーゼルエンジンが該当し、離島などの小規模発電所においては、この仕組みが用いられています。
  • コンバインドサイクル
    前述の二つの方式を複合させた発電方式であり、一つのエネルギーから二重、三重に発電できる効率的な仕組みです。現在の火力発電所では、このコンバインドサイクルに基づく発電方式が主に採用されています。

(4) 流通

電気が流通する仕組みは図表3のとおりです。

【図表3】

【図表3】

出典:資源エネルギー庁「電力供給の仕組み」

a. 送電

発電所で発電された電気は、変電所へ運ばれます。この発電所と変電所、または変電所同士を結ぶ電線路を送電線といいます。送電線には、地上の鉄塔などを利用する送電容量が大きい架空送電線と、地中の共同溝などを利用して風雪の影響を受けない地中送電線があります。

b. 変電

発電所で発電された電気は高圧であるため、工場や一般家庭で使用できる電圧に変換する必要があります。この電圧変換のことを一般的に変電といい、これを行うところを変電所といいます。

c. 配電

一般的に変電所から需要家へ電気を供給することを配電といい、変電所と需要家を結ぶ電線を配電線といいます。

(5) 料金計算の特徴

2016年4月から、低圧電力、電灯も含めた電気の小売全面自由化が開始され、全面的に電気料金について、各事業者が自由に設定できることとなりました。ただし、旧一般電気事業者の小売部門(みなし小売電気事業者)から特定需要部門(低圧電力、電灯の需要家)への電気料金については、環境激変を緩和し、需要家保護を図る観点から、経過措置として、少なくとも2020年までは自由化前と同様の規制料金メニューの提供が義務付けられ、2020年以降競争の進展状況を確認して解除されることになっていますが、現在のところいずれの供給区域においても解除されていません。また、一般送配電事業者が行う託送供給等は、電力の安定供給及び公共インフラとしての公平性の維持のため、引き続き料金規制がなされています。

a. 自由化料金

自由化料金は、需要家と事業者との交渉により自由に決められる仕組みとなっています。現在は、例えば携帯電話とのセット割引がある料金メニューなど、さまざまな電気料金メニューを設定しており、需要家の選択肢が広がっています。

b. 規制料金

規制料金(みなし小売電気事業者の特定需要部門に対する電気料金及び一般送配電事業者が設定する託送料金等)は、事業法によって規制されており、その特徴は次のとおりです。

  • 認可または届出制
    規制料金については、電気事業者が自由に決めることはできず、経済産業大臣の認可(値下げの場合は届出で足りる)が必要です。
    これは、独占的な地位を利用した高い料金が設定されることを避けるとともに、需要者相互の公平な取扱いを損ねないよう、規制料金の透明性及び公平性を確保するために規定されたものです。
  • 電気料金
    電気料金は、電気の提供に必要と見積もられる全ての原価に、適正な利潤(事業報酬)を加えて算定されます。これを総括原価方式といいます。
    さらに、他の電気事業者の電気料金と比較した結果、事業の効率化が不十分であると経済産業省に査定された場合には、総括原価方式において見積もられた原価が減額され、結果として電気料金も減額されます。これをヤードスティック査定といいます。
  • 託送料金
    2020年6月に事業法が改正され、2023年4月から必要なネットワーク投資の確保と国民負担の抑制を両立させるため、一般送配電事業者が、一定期間ごとに事業計画を作成し、見積もられた費用を収入上限として設定し国から承認を受け、その範囲で柔軟に託送料金を設定できることとなりました。これをレベニューキャップ制度といいます。

c. 再生可能エネルギー発電促進賦課金

2012年7月から、再生可能エネルギーの普及促進を目的に「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」(FIT制度)が開始されました。当該制度は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーで発電した電気を、電気事業者が一定価格で買い取ることを国が約束する制度です。また、2022年4月から、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、再生可能エネルギーを早期に主力電源化する目的で「フィードインプレミアム制度」(FIP制度)が開始されました。当該制度は、FIT制度のように固定価格で買い取るのではなく、卸市場などにおける売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度です。これらの制度の買取費用については再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、「賦課金」とする)として、電力料金を通して全ての需要家に負担してもらう仕組みです。賦課金は、賦課金単価に使用電力量を乗じて算定され、毎月の電気料金に加算して徴収されます。なお、賦課金単価は、年度の再生可能エネルギー買取費用の見込額をもとに毎年、見直されます。

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