電機産業 第3回:棚卸資産評価に関する会計処理と内部統制の特徴

2020年11月5日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 テクノロジーセクター
公認会計士 小島慎一/松本貴弘/渡邊裕介

1. 棚卸資産評価に関する会計処理

電子デバイス産業やコンシューマ産業においては、製品のコモディティ化が進み、価格変動リスクが大きいため、需要の下降局面においては価格の下落が激しくなる傾向があります。従って、棚卸資産の時価が簿価よりも低下して、評価減を計上する必要が出てくることがあります(企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下、棚卸資産評価会計基準)第7項)。

また、コンシューマ産業においては、数年間の有償保証期間を設けているケースが多いため、メーカー側は保守用部品を抱えなければなりません。しかし、保有している保守用部品をすべて使用するかが不明であるため、収益性の低下の事実をどのように会計処理につなげるかが問題となります。一般的に、このような保守用部品は営業循環過程から外れた滞留品として扱うことが多いと考えられますが、合理的に算定された価額を算定することが困難なケースが多いため、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、一定の回転期間を超える場合には規則的に帳簿価額を切り下げる方法を採用するなど、収益性の低下の事実を適切に反映する会計処理が必要となります(棚卸資産評価会計基準第9項)。

前述により発生した評価減については、原則として、売上原価として処理します(棚卸資産評価会計基準第17項)。

一方、個別受注産業においては、第1回の事業上のリスクでも記載していますが、単独の受注規模が大きく、受注内容の採算が合わず損失となってしまう契約を受注する場合があります。また、製造期間が長期間にわたることも多く、受注時に見積もれなかった製品仕様の変更等による製造コストの増大で損失となってしまう場合があります。このように、個別受注産業における一定の機械装置の製造等の請負契約(以下、受注契約)について、製造原価総額等(製造原価総額と販売直接経費の合計額)が収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額が合理的に見積可能な場合には、その超過見込の受注損失額のうち、当該工事契約に関して、すでに計上された損益の額を控除した残額を、受注損失が見込まれた期の損失として処理し、受注損失引当金として計上する必要があります(企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、工事契約会計基準)第19項)。

この場合、該当する受注契約について適用されている収益認識基準が工事進行基準であるか工事完成基準であるかにかかわらず、また、案件の進捗の程度にかかわらず、受注損失引当金は計上されます。工事進行基準適用案件に係る受注損失引当金は、当該案件の受注損失見込額から、これまでに計上済の損益額を控除した金額となります。一方、工事完成基準適用案件に係る受注損失引当金は、当該案件の受注損失見込額となります。

また、収益金額の通貨と、発生する製造原価の通貨が一致しない場合、通貨間の為替相場の変動が、見込まれる受注損失の金額や受注損失引当金計上の要否の判断に影響を及ぼす可能性があります。このような場合、受注損失引当金の計上要否の判断、及び計上すべき受注損失引当金の額の算定に当たっては、為替相場の変動による影響額も考慮に入れる必要があります(企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」第8項)。

前述により算定した受注損失引当金の繰入額は損益計算書上、売上原価に含めます(工事契約会計基準第21項)。

なお、収益認識会計基準においても、工事契約会計基準における、工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱いは踏襲されています(収益認識適用指針第90項、第91項)。

2. 棚卸資産評価に関する内部統制の特徴

棚卸資産評価に関する内部統制として、電子デバイス産業やコンシューマ産業においては、製品の直近の時価をいかに適時適切に入手して、簿価と時価の比較を行って評価減計上の必要性の有無を検討し、評価減計上が必要な場合には、適切に計算して計上することが重要となってきます。そのためには、時価として何を採用するのか、採用した時価をどのタイミングで入手するのかを事前に決めておくことが必要です。売却市場における市場価格を観察できない場合には、期末前後での販売実績に基づく価額や、契約により取り決められた一定の売価等、合理的に算定された価額をどのように算定し、どのようなタイミングで入手するかを事前に決めておくことが必要となります。

また、保守用部品の規則的な評価減に関して、評価減の期間や減価の比率等をどのように見積もるかが重要となってきます。いったん採用した見積りの前提に変更がないか否かを毎期見直すことも必要になります。

一方、個別受注産業においては、受注損失引当金を適時に計上する内部統制を整備することが重要となります。具体的には、実行予算(製造原価総額)の策定、見直しに関し、適切なプロジェクト管理を行う体制を整備することです。実行予算の策定に関しては、材料費、労務費、外注費等の各原価項目について、類似案件の過去の実績や、下請業者からの見積書等の客観的根拠に基づき実行予算を積算し、適切な役職者により実行予算を承認する内部統制を整備する必要があります。また、実行予算の見直しに関しては、収益総額と製造原価総額が、適時に見直され最新の情報として管理するため、月次、四半期ごと等の適時に、プロジェクトごとに購買部門、設計部門、製造部門、エンジニアリング部門、管理部門等の関係部署相互間でプロジェクトの現状等を報告し把握するなど、内部牽制が働く体制を整備する必要があります。また、定期的な予算実績差異分析の実施も有効である場合があります。