業種別会計
電機産業

第1回:電機産業の事業の特徴・事業上のリスク

2016.10.18
新日本有限責任監査法人 テクノロジーセクター
公認会計士 松本貴弘/渡邊裕介/小島慎一

はじめに

電機産業と一口に言っても、非常に幅の広い業界であり、総務省が公表している日本標準産業分類の中分類では主に、電気機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業、情報通信機械器具製造業あたりを指していると考えられます。電機産業に属する日本企業としては、総合電機メーカー、総合家電メーカー、総合エレクトロニクスメーカー、重電メーカー、光学系メーカー、音響・映像系メーカー、電子部品メーカー等様々な種類の企業が存在します。関連事業の業界団体の一つである社団法人日本電機工業会(JEMA)の正会員企業は181社(2016年5月17日現在)、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の正会員企業は379社(2016年7月13日現在)に上っており、非常に多くの企業が当業界に属しています。本稿では、このような多様な電機産業のうち、電子デバイス産業、個別受注産業及びコンシューマ産業を取り上げ、それぞれの事業の特徴・事業上のリスク・会計処理・内部統制の特徴について以下の5回に分けて解説します。

なお、文中の意見にわたる部分については執筆担当者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをお断りしておきます。

電機産業の事業の特徴・事業上のリスク

1. 電機産業の分類と事業の特徴

(1) 電機産業の分類

先に述べたとおり、電機産業には様々な業種が含まれ、それを一纏めにして論じることが困難です。そこで今回は、大きく半導体や液晶パネル、自動車向けの電子部品を扱う電子デバイス産業、B to Bビジネスに属する個別受注産業及びPCや家電製品等のコンシューマ産業の3つに分類して、それぞれの産業の事業の特徴、事業上のリスク、会計処理及び内部統制について解説します。

なお、個別受注産業の会計処理や内部統制の詳細については、受注個別セクターの下記記事をご参照ください。

(2) 電子デバイス産業の事業の特徴

電子デバイス産業の事業の特徴としては、次の点が挙げられます。

① 多額の設備投資

まず多額の設備投資が必要となることが挙げられます。製造装置自体が高額であるだけでなく、電子デバイスの製造はごみやほこりを嫌うため、空気清浄度が確保されたクリーンルームの設置が必要となります。また洗浄する水に不純物がまじると性能に悪影響を与えるため、超純水装置も必要になる等多額の設備投資が必要となります。さらに、製造技術の革新のスピードも速く、微細化や大口径化への対応が必要になるため、継続的に設備投資費用がかかることになります。設備投資総額が数百億~数千億円に及ぶ企業もある等設備投資計画は、経営上の重要な意思決定の一つとなっています。

② 多額の研究開発

また、世界規模での技術開発競争が激しいため、研究開発に多額の費用がかかります。特に微細化の技術は、コスト削減に大きく影響するため、シェアアップを目指しての開発競争はますます激しくなっています。また、これまでとは違った新しい材料を開発することによって競争力を高めようとする動きも活発になっています。年間の研究開発費額が1千億円近くになる企業もある等研究開発計画も設備投資計画と同様に、経営上の重要な意思決定の一つとなっています。

③ 知的財産権の保護

さらに、技術開発を成功させても、特許や実用新案等の知的財産権をいかに守るかが重要な経営課題となっています。世界中で特許侵害訴訟が問題となっている一方、特許に関するライセンス契約を締結してライセンス収入を得るというビジネスがあるのもこの業界の特徴といえます。また、各企業が独自で研究開発を進めるには、時間もコストもかかり過ぎるとの判断から、企業間で特許に関するクロスライセンス契約を締結し、それぞれが保有する様々な特許を相互に利用可能にし、国際競争力を高めようとする動きも活発になっています。

(3) 個別受注産業の事業の特徴

個別受注産業の事業の特徴として、次の点があげられます。

① 原価計算と主要な原価の内訳

個別受注産業の場合、顧客の要求する仕様に応じた製品の提供を行うことから、顧客の要求する仕様を満たす製品を製品設計から構築していきます。そのため、材料費から間接費の配賦額まで一つ一つ原価を特定の製造指図書に積み上げることで製品原価が集計される個別原価計算が主として用いられます。また受注された製品がソフトウェアであった場合には、顧客仕様に応じたソフトウェアの構築を主にシステムエンジニアが行うため、原価の内訳は直接人件費や外注加工賃が占める割合が多くなります。

② 収益認識の認識単位

個別受注産業の事業の特徴として、顧客の仕様に応じたシステム品の構築のほか、システム品単独の注文のみならず当該システムに関する保守サービス業務の受注を合わせて獲得する場合があります。その際、取引実態として顧客に対してどのような価値を提供する取引なのかという観点から、システム品と保守サービスをそれぞれ単独の取引として収益認識すべきか、システム品と保守サービス業務を一体と考えて収益認識すべきかを検討する必要があります。

③ 工事進行基準の適用

個別受注産業の事業の特徴から、取り扱う製品には大規模なもので長期にわたって製造されるものがあるため、工事進行基準の適用が検討されます。しかし個別受注産業においては、顧客の仕様に応じて製品を構築する必要がありますが、顧客納期の関係上細かい仕様を製造着手前に詰め切れず、製造工程中に顧客とすり合わせるといった実務が行われる場合があります。その際、顧客の要求する仕様が工期中に変更されることで見積総製造費用が大きく変更される場合もあるため、工事進行基準の適用は慎重に行われます。