業種別会計
化粧品・トイレタリー業界

第4回:収益認識基準が化粧品・トイレタリー業界に与える影響

2020.07.06
EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 海野潔人

1.はじめに

第4回では、収益認識基準が化粧品・トイレタリー業界に与える影響について説明します。

企業会計基準委員会(ASBJ)は、わが国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発について検討を進め、2018年3月に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)を公表しました。これら収益認識基準及び適用指針は、21年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用されます(早期適用可)。

なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

2.化粧品・トイレタリー業界における収益認識の論点

(1) 化粧品・トイレタリー業界の商流

化粧品・トイレタリー業界においては、さまざまな商流があります。伝統的な商流としては、次の三つがあります。

  1. メーカーから百貨店、化粧品専門店などの小売業者に直接販売する商流
  2. メーカーから卸売業者を経由し、量販店、ドラッグストア、コンビニエンスストアへと流通する商流
  3. メーカーが販売員を消費者の家庭や職場などに派遣し、直接販売活動を行う訪問販売

これらに加え、④Eコマースも近年増加してきており、またライフスタイル提案型の⑤直営店も見られるようになってきています。経済産業省の「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によれば、化粧品、医薬品のEコマース市場規模は、消費行動におけるインターネット活用の広まりを受け、18年に6,136億円、対前年比で8.21%の上昇となり、引き続き拡大基調にあります。収益認識基準の適用に当たっては、商流によって顧客や契約形態が異なるため、それぞれの商流に応じた検討が重要になります。

(2) 個別論点―商流との関連

a. 履行義務の充足

主に、前述の商流①で生じる取引で検討が必要になります。収益認識基準では、資産に対する支配を顧客に移転することにより、履行義務が充足される時に収益を認識しますが(収益認識基準第39項)、支配の移転を認識する際には、例えば、次の指標を考慮することとされています(収益認識基準第40項)。

  • (1)企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること
  • (2)顧客が資産に対する法的所有権を有していること
  • (3)企業が資産の物理的占有を移転したこと
  • (4)顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること
  • (5)顧客が資産を検収したこと

商品又は製品を最終顧客に販売するために、販売業者等の他の当事者に引き渡す場合には、その時点で、販売業者等が当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します。販売業者等が支配を獲得していない場合には、委託販売契約として商品又は製品を保有している可能性があり、その場合は、販売業者等への引渡し時には収益を認識しません(適用指針75項)。委託販売契約であることを示す指標としては、例えば、次のものがあります(適用指針76項)。

  • (1)販売業者等が商品又は製品を顧客に販売するまで、あるいは所定の期間が満了するまで、企業が商品又は製品を支配していること
  • (2)企業が、商品又は製品の返還を要求することあるいは第三者に商品又は製品を販売することができること
  • (3)販売業者等が、商品又は製品の対価を支払う無条件の義務を有していないこと(ただし、販売業者等は預け金の支払を求められる場合がある)

化粧品・トイレタリー業界では、メーカーと百貨店の契約関係として、消化仕入、売渡契約、売場の賃貸契約などがあります。一方で実務では、百貨店側が負う在庫負担リスクが限定的である、販売価格の決定権がメーカーにある、百貨店の店舗でメーカーの美容部員が直接販売しているといった場合もあるので、契約関係及び取引実態に鑑みて、顧客が誰であるのか、いつの時点で製品の支配が移転しているのかを検討することが求められます。

b. リベート

主に商流②で、卸売業者や小売業者にリベート、販売促進費などを支払う場合に検討が必要です。化粧品・トイレタリー業界では、契約に定められた一定期間の取引数量、取引金額に基づき支払われるリベート、あらかじめ契約に定められた一定以上の取引数量、取引金額を満たした場合に支払われる条件達成型のようなリベートのほか、センターフィーや販売促進費補助など、さまざまな形で販売先への補塡(ほてん)的なものが「広義のリベート」として存在します。

収益認識基準では、リベートは、顧客から受領する別個の財又はサービスとの交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額されます(収益認識基準第63項、適用指針第30項)。次のいずれに該当するかを判断し、収益控除か販管費として計上するかを検討することが考えられます。

個別の財又はサービスに対する支払である
支払対価=受領する財又はサービスの時価 財又はサービスを仕入先からの購入と同様の方法で処理する
支払対価>受領する財又はサービスの時価 同上。ただし、時価を超える部分は取引価格から減額する
個別の財又はサービスに対する支払でない
顧客に支払われる対価の全額を取引価格から減額する

また、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分(変動対価)が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換に、企業が権利を得ることとなる対価の額を見積もる必要があります(収益認識基準第50項)。このため、期末においては、計上した収益に対応して発生すると見込まれるリベートがある場合には、適切に見積もり、収益から減額する必要があります。

c. ポイント

主に商流①④⑤で生じる取引で検討が必要になります。化粧品・トイレタリー業界では、化粧品のカウンセリング販売、訪問販売、通信販売などの、消費者とメーカーが直接取引する商流において、ポイント制度が見られます。

収益認識基準では、顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合に、当該オプションが顧客に重要な権利を提供するときには、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識することとされています(適用指針第140項)。実務上の対応として、ポイント付与数、ポイント残高、ポイントの利用割合などを管理することが求められます。

売上計上時にポイントを付与する場合の仕訳は次の通りです。

売上計上時にポイントを付与する場合の仕訳

d. 返品

主に商流①②で生じる論点です。化粧品・トイレタリー業界では、新製品と既存製品の入れ替えが頻繁であることから、メーカーが卸売業者や小売業者から自社製品の返品を受け入れる取引慣行があります。訪問販売や通信販売においても、返品の取引慣行は存在しますが、一般的にはB to Cの取引では返品率が低いと考えられます。

これまでの日本基準及び実務慣行では、販売時に対価の全額が収益として計上されるとともに、過去の返品実績に基づき返品調整引当金が計上され、その引当金の繰入額については売上総利益の調整としてきました。収益認識基準では、返品されると見込まれる商品等の対価を除いた額で収益を計上することとされ、これまでの実務のように、販売時に対価の全額を収益として計上することは認められなくなります。

返品権付きの商品又は製品(及び返金条件付きで提供される一部のサービス)を販売した場合は、次の処理を行います(適用指針第85項)。

  • (1)企業が権利を売ると見込む対価の額(返品されると見込まれる商品又は製品の対価を除く)で収益を認識する。
  • (2)返品されると見込まれる商品又は製品については、収益を認識せず、当該商品又は製品について受け取った又は受け取る額で返金負債を認識する。
  • (3)返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について資産を認識する。

(3) について、売上計上時点で認識する資産の金額については、返品された製品又は商品を廃棄するのか、再販するのかなど、企業が経営上、返品された商品又は製品をどのように取り扱っているかに応じて、金額が変わってくるものと考えられます。このように、返品に関する検討に当たっては、企業ごとに返品取引の実態を基準に当てはめて判断することが求められます。

返品権付きの商品又は製品の収益計上時の仕訳は次の通りです。

返品権付きの商品又は製品の収益計上時の仕訳 収益の計上
返品権付きの商品又は製品の収益計上時の仕訳 売上原価の計上

e. その他の論点

輸出取引については、契約内容や貿易条件に応じ、収益を認識する時点を判断する必要があります。インコタームズ2010で定義されている輸出取引のうち、例えば、貿易取引条件として仕向地持込渡(DAP:Delivered at Place)が合意されている場合、輸入地での引渡しまで、運送、保険、危険負担を売手が負うことになるので、船積時点では収益の認識要件を満たさない可能性があります。

有償支給取引では、企業が支給品を買い戻す義務を有しているか否かによって、会計処理が異なります。企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合、企業は譲渡時に当該支給品の消滅を認識することになりますが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しません。一方、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、企業は当該支給品の消滅を認識せず、支給品の譲渡に係る収益も認識しないことになりますが、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができます(適用指針第104項)。

海外における収益認識基準には、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」と、ASU第2014-09号「顧客との契約から生じる収益(Topic 606)」があり、在外子会社の財務諸表がIFRS又は米国会計基準に準拠して作成されている場合、当面の間、それらを連結決算手続上、利用することができるものとされています(実務対応報告第18号 当面の取扱い)。また、収益認識基準の適用に当たっては経過措置があります(収益認識基準第87項)。しかし、在外子会社で、これらの基準以外の基準を適用している会社についても、国内子会社の検討と同様に、検討が求められる点に留意が必要です。

<参考文献>

  • 中島美佐子著『業界の最新常識 よくわかる化粧品業界』(日本実業出版社)
  • 経済産業省ウェブサイト www.meti.go.jp/
  • 太田達也著『「収益認識会計基準と税務」 完全解説』(税務研究会出版局)
  • 新日本有限責任監査法人『何が変わる? 収益認識の実務』(中央経済社)
  • EY新日本有限責任監査法人『企業への影響からみる 収益認識会計基準 実務対応Q&A』(清文社)

化粧品・トイレタリー業界

情報量は適当ですか?

文章はわかりやすいですか?

参考になりましたか?