業種別会計
建設業

第7回:建設業における収益認識(3)~履行義務の充足と収益認識を行う期間、事後的に信頼性がある見積りができなくなる場合~

1. はじめに

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、新収益認識基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、新収益認識適用指針)が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。これに伴い、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、工事契約会計基準)及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、工事契約適用指針)が廃止されます。

第5回から第7回の「建設業における収益認識」では、新収益認識基準及び新収益認識適用指針の適用による影響について、3回に分けて解説します。本稿では、収益認識の5ステップのうち、(Step5)履行義務を充足又は充足するにつれて収益を認識する、に関連して、履行義務の充足と収益認識を行う期間、事後的に信頼性がある見積りができなくなる場合に関する論点を解説します。

収益認識の5ステップ

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2. 履行義務の充足と収益認識を行う期間

(1) 概要

工事契約会計基準及び工事契約適用指針では、工事進行基準もしくは工事完成基準により収益を認識します。新収益認識基準及び新収益認識適用指針では、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものは一定期間にわたって収益を認識し、履行義務が一時点で充足されるものは一時点で収益を認識します。

(2) 工事契約会計基準及び工事契約適用指針の取扱い

工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗(しんちょく)度の各要素について、信頼性をもって見積もることができる(以下、成果の確実性が認められる)工事については、工事進行基準を適用し、この要件を満たさない工事については、工事完成基準を適用します。また、工期がごく短いものは、金額の重要性が乏しいばかりでなく、工事契約としての性格に乏しい場合が多いと想定されます。このような取引については、工事進行基準を適用して工事収益総額や工事原価総額の按分計算を行う必要はなく、通常、工事完成基準を適用することになると考えられます(工事契約会計基準53項)。

(3) 新収益認識基準及び新収益認識適用指針の取扱い

収益認識の5ステップ

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① 一定の期間にわたり充足される履行義務となるかの検討

契約における取引開始日に、識別された履行義務が、一定の期間にわたり充足されるものか一時点で充足されるものかを判定します(新収益認識基準36項)。取引開始日に以下の3要件のいずれかを満たす場合には、資産に対する支配を顧客に一定期間にわたって移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識します(新収益認識基準38項)。いずれの要件も満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識します(新収益認識基準39項)。

  • (ⅰ)企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
  • (ⅱ)企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
  • (ⅲ)次の要件のいずれも満たすこと
    • (a) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
    • (b) 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

(ⅱ) に関連し、資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんど全てを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む)をいいます(新収益認識基準37項)。例えば、顧客が所有している土地に、顧客の本社ビルを建築する場合は、(ⅱ) に該当するものと考えられます。

(ⅲ) (a)に記載されている、別の用途に転用することができない資産が生じることとは、別の用途に容易に使用することが契約上制限されている場合、あるいは別の用途に転用するためには実務上制約されている場合をいいます(新収益認識適用指針10項)。実務上制約されている場合とは、別の用途に使用するために重要な経済的損失が生じる場合です。例えば、新しい高速道路を建設する場合は、(iii)(a)に該当するものと考えられます。

また(ⅲ) (b)に記載の、義務の履行完了部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していることとは、契約期間にわたり、企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際に、少なくとも履行を完了した部分についての補償を受ける権利を有している場合です(新収益認識適用指針11項)。履行を完了した部分についての補償額は、合理的な利益相当額を含む、現在までに移転した財又はサービスの販売価格相当額となります(新収益認識適用指針12項)。

工事契約は、(ⅱ) 又は(ⅲ) の要件を満たし、一定の期間にわたり履行義務を充足する場合が多いものと考えられます。ただし、工事の内容はさまざまであり、実態に応じて慎重に検討する必要があります。

② 履行義務の充足に係る進捗度の見積り

一定の期間にわたり充足される履行義務について、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができる場合、進捗度に基づき、収益を一定の期間にわたり認識します(新収益認識基準41項、44項)。履行義務の充足に係る進捗度の適切な見積り方法には、アウトプット法とインプット法があります。インプット法には、発生したコストを使った方法等が例示されています(新収益認識適用指針15項、20項)。これまで進捗度の見積りに関しては、原価比例法を採用している会社が多いことを考えると、実務での影響は少ないと想定されます。ただし、発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に寄与しない場合、比例しない場合は、進捗度の見積りを修正するか判断が必要です(新収益認識適用指針22項)。例えば、施工ミスにより著しく非効率なコストが発生した場合には留意が必要です。

③ 履行義務の充足に係る進捗度が見積もれない場合

一定の期間にわたり充足される履行義務について、進捗度を合理的に見積もることができないが、発生する費用を回収することが見込まれる場合には、進捗度を合理的に見積もることができる時まで、原価回収基準により処理します(新収益認識基準45項)。原価回収基準とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法をいいます(新収益認識基準15項)。

ただし、詳細な予算が編成される前等、契約の初期段階において進捗度を合理的に見積もることができない場合には、収益を認識せず、進捗度を合理的に見積もることができる時から収益を認識することができます(新収益認識適用指針99項、172項)。これは、従来の実務等に配慮し、また契約の初期段階で発生した費用の額に重要性が乏しいと考えられ、原価回収基準により収益を認識しないとしても、財務諸表間の比較可能性を大きく損なうものではないと考えられるため、代替的な取扱いが認められたものです(新収益認識適用指針164項、172項)。詳細な予算が編成される前等、契約の初期段階のみ容認される代替的な処理のため、留意が必要です。

工事契約会計基準における工事進行基準の収益認識の時期と、新収益認識基準の収益認識の時期

工事契約会計基準における工事進行基準の収益認識の時期と、新収益認識基準の収益認識の時期

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④期間がごく短い工事契約

一定の期間にわたり充足される履行義務について、代替的な取扱いとして、契約における取引開始日から、完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間が、ごく短い工事契約は、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます(新収益認識適用指針95項)。工事契約会計基準における考え方と同様に、工期がごく短いものは、通常、金額的な重要性が乏しいと想定され、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識しても、財務諸表間の比較可能性を大きく損なうものではないと考えられるため、代替的な取扱いが定められています(新収益認識適用指針168項)。ただし、ごく短いとする期間については、財務諸表間の比較可能性も考慮し、慎重に検討する必要があります。

3. 事後的に信頼性がある見積りができなくなる場合

(1) 概要

事後的な事情の変化により成果の確実性が失われた場合、工事契約適用指針では工事完成基準を適用します。新収益認識基準では、発生する費用を回収することが見込まれるときには原価回収基準を適用し、その後の決算日に進捗度を合理的に見積もることができる場合には、一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識します。

(2) 工事契約会計基準及び工事契約適用指針の取扱い

進捗部分に成果の確実性が認められる工事について、事後的な事情の変化により成果の確実性が失われた場合、その後の会計処理は工事完成基準を適用します(工事契約適用指針4項、16項)。

(3) 新収益認識基準及び新収益認識適用指針の取扱い

収益認識の5ステップ

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履行義務の充足に係る進捗度は、進捗度を合理的に見積もることができるか否かも含め、各決算日において見直します(新収益認識基準43項、154項)。見直しにおいて、契約における取引開始日後に状況が変化し、進捗度を合理的に見積もることができなくなった場合で、発生する費用を回収することが見込まれるときには、その時点から原価回収基準により処理します(新収益認識基準45項、154項)。その後の決算日に、進捗度を合理的に見積もることができるようになった場合には、一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識します(新収益認識基準44項)。

建設業

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