業種別会計
建設業

第5回:建設業における収益認識(1)~工事契約に係る認識の単位~

2020.02.10
EY新日本有限責任監査法人 建設セクター
公認会計士 浅川 修/石田悠介/蜂谷 亮/本多英樹

1. はじめに

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、新収益認識基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、新収益認識適用指針)が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。これに伴い、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、工事契約会計基準)及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、工事契約適用指針)が廃止されます。

第5回から第7回の「建設業における収益認識」では、新収益認識基準及び新収益認識適用指針の適用による影響について、3回に分けて解説します。本稿では、収益認識の5ステップのうち、(Step1)顧客との契約を識別する、(Step2)契約における履行義務を識別する、に関連する工事契約に係る認識の単位について解説します。

なお、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことを、あらかじめお断りします。

収益認識の5ステップ

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2. 工事契約に係る認識の単位

(1) 概要

建設業では、例えば解体工事・設計業務・本体工事といった複数の工事やサービスで構成される建築工事を、単一の契約として締結する場合があります。また、土木工事で当初の契約内容を変更する場合に、当初の契約書を変更するのではなく、別個の注文書で発注することもあります。このように、建設業では一つの契約の中に複数の工事やサービスが存在することや、一つの履行義務が複数の契約として存在することがあります。そのため、工事契約に係る認識の単位が論点となります。

工事契約に係る認識の単位は、工事契約会計基準では実質的な取引の単位に基づくとされています。

新収益認識基準及び新収益認識適用指針では、契約の識別、契約の結合、契約変更、履行義務の識別のプロセスがあり、契約の結合ならびに履行義務の識別で、工事契約に係る認識の単位を判断します。契約の実質を勘案して判断する点は変わりませんが、判断する要件が、より具体化されており、契約の識別では支払条件が識別できない契約は識別できないこと、契約の結合では同一顧客でない契約は結合することができないことなどが明確化されています。

(2) 工事契約会計基準及び工事契約適用指針の取扱い

工事契約に係る認識の単位は、工事契約において当事者間で合意された、実質的な取引の単位に基づくので、契約書が実質的な取引の単位を適切に反映していない場合には、これを反映するように複数の契約書上の取引を結合し、又は契約書上の取引の一部をもって、工事契約に係る認識の単位とする必要があります(工事契約会計基準7項)。

(3) 新収益認識基準及び新収益認識適用指針の取扱い

(Step1)顧客との契約を識別する、では、まず定められた5要件を満たしたものについて契約を識別します。識別された契約のうち、複数でも実質的には単一の契約と判断される要件を満たしたものについては、単一の契約とみなします。また、契約変更がある場合には、変更される内容等に応じて、既存契約変更として処理するか、独立の契約として処理するか、などの判断を行います。

(Step2)契約における履行義務を識別する、では、契約内に別個の履行義務がないか検討し、要件を満たしたものは別個の履行義務を識別します。

収益認識の5ステップ

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① 契約の識別

契約とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいう、と定義されており、以下5要件の全てに該当する場合に識別します(新収益認識基準5項、19項)。

  • (ⅰ)当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
  • (ⅱ)移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
  • (ⅲ)移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
  • (ⅳ)契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)
  • (ⅴ)顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと

特に、「(ⅲ) 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること」の要件を満たすかについては留意が必要です。

② 契約の結合

識別された複数の契約が、同一の顧客と同時又はほぼ同時に締結されており、かつ以下3要件のいずれかに該当する場合には、複数の契約を結合し、単一の契約とみなします(新収益認識基準27項)。

  • (ⅰ)当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと
  • (ⅱ)一つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受けること
  • (ⅲ)当該複数の契約において約束した財又はサービスが単一の履行義務となること

同一顧客で、同時又はほぼ同時に締結された複数契約でないと結合できないため、その点は留意が必要です。例えば、オフィスビル等の建設工事で、本体工事の発注者以外の入居予定テナントからも内装工事を請け負う場合は、顧客が異なるため、別個の契約として識別します。

ただし、前述の要件を満たさない場合でも、代替的な取扱いがあります。工事契約について、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約(異なる顧客と締結した複数の契約や、異なる時点に締結した複数の契約を含む)を結合した際の、収益認識の時期及び金額と、個々の契約を複数の契約として扱い、別個の履行義務を識別した際の、収益認識の時期及び金額との差異に重要性が乏しいと認められる場合には、当該複数の契約を結合し、単一の履行義務として識別することができます(新収益認識適用指針102項)。

また、前述の要件を満たした場合にも代替的な取扱いがあります。個々の契約が、当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であり、個々の契約金額が合理的に定められており、独立販売価格と著しく異ならない場合には、複数の契約を結合せず、個々の契約において定められている顧客に移転する財又はサービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約において定められている当該財又はサービスの金額に従って収益を認識することができます(新収益認識適用指針101項)。

③ 契約変更

契約が変更される場合には、ケースごとに詳細に規定しており、以下フロー図の手順に従い判定することとなります。契約の当事者が契約の範囲又は価格の変更を承認していない場合には、契約変更の会計処理は行われないので、変更契約書が未締結のときは、契約の当事者が変更を承認しているかの検討が必要です。

契約変更の判定フロー図

契約変更の判定フロー図

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収益認識の5ステップ

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④ 履行義務の識別

履行義務とは、顧客との契約において、別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)、もしくは一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)を顧客に移転する約束をいいます(新収益認識基準7項)。

契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、別個の履行義務であるかどうかの判定を行います(新収益認識基準32項)。以下2要件のいずれも満たす場合に、別個の履行義務を識別することとされています(新収益認識基準34項)。例えば、一つの契約に解体工事と本体工事が含まれている場合や、設計業務と施工業務が含まれている場合は、別個の履行義務を識別する必要がないか留意が必要です。

  • (ⅰ)当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、当該財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができること(すなわち、当該財又はサービスが別個のものとなる可能性があること)
  • (ⅱ)当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できること(すなわち、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点において別個のものとなること)

(ⅱ) を判定するに当たっては、約束の性質が、契約において、財又はサービスのそれぞれを個々に移転するものか、あるいは、財又はサービスをインプットとして使用した結果生じる結合後のアウトプットを移転するものかを判断します。財又はサービスを顧客に移転する複数の約束が区分して識別できないことを示す要因として、以下の3点が例示されています(新収益認識適用指針6項)。

  • (ⅰ)当該財又はサービスをインプットとして使用し、契約において約束している他の財又はサービスとともに、顧客が契約した結合後のアウトプットである財又はサービスの束に統合する重要なサービスを提供していること
  • (ⅱ)当該財又はサービスの1つ又は複数が、契約において約束している他の財又はサービスの1つ又は複数を著しく修正する又は顧客仕様のものとするか、あるいは他の財又はサービスによって著しく修正される又は顧客仕様のものにされること
  • (ⅲ)当該財又はサービスの相互依存性又は相互関連性が高く、当該財又はサービスのそれぞれが、契約において約束している他の財又はサービスの1つ又は複数により著しく影響を受けること

ただし、代替的な取扱いがあり、約束した財又はサービスが、顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合には、当該約束が履行義務であるのかについて評価しないことができます。顧客との契約の観点で重要性が乏しいかどうかを判定するに当たっては、当該約束した財又はサービスの定量的及び定性的な性質を考慮し、契約全体における、当該約束した財又はサービスの相対的な重要性を検討します(新収益認識適用指針93項)。

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