建設セクター
公認会計士 石川裕樹/橋之口 晋/藤井 陽/本多英樹
1. はじめに
第4回では、建設業で会計実務を行うに当たり、基礎的な内容ではあるものの会計処理方法で時折迷う部分について、Q&A形式で記載しています。会計処理を説明するに当たり、実務慣行は知っているものの根拠となる会計基準がよく分からないときなどにご使用ください。ただし、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことを、あらかじめお断りします。
また、当Q&Aは平成28年10月時点の会計基準に基づき作成しています。なお、今後、定期的な更新を予定しています。
2. Q&A項目一覧
3. Q&A
質問1
当社には少額の工事や、短期間で完成する工事もあるのですが、このような工事も含め全ての工事に工事進行基準を適用しなければいけないのでしょうか?
(回答)
全ての工事に工事進行基準を適用するとは限りません。
工事の進行途上において、進捗部分に成果の確実性が認められる場合は工事進行基準を適用しますが、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用することとなります。
また、進捗部分に成果の確実性が認められる工事であっても、工期がごく短い工事は、金額的重要性が乏しく、工事契約としての性格にも乏しいことがあると考えられます。そのような場合には、工事進行基準を適用せずに工事完成基準を適用する方法も考えられます。
【工事契約に関する会計基準(企業会計基準第15号)第9項、第53項】
質問2
外貨建ての工事を受注しましたが、工事進行基準を適用する場合に、完成工事高・完成工事未収入金は、どのように換算すればいいですか?為替差損益は発生するのでしょうか?
(回答)
工事進行基準における外貨建完成工事高及び外貨建完成工事未収入金の換算方法について、外貨建取引等会計処理基準の例外となるような特有の取扱いは、工事契約に関する会計基準及び同適用指針で特有の取扱いは定められておらず、外貨建取引等会計処理基準に従った会計処理を行えばいいことになります。
工事進行基準により発生した完成工事未収入金について、決算時の為替相場で換算する旨の記載が工事契約に関する会計基準にありますが、外貨建取引等会計処理基準に基づく会計処理を行うことを確認したものです。
ヘッジ会計の適用対象でなければ、取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録することになります。取引発生時の為替相場としては、取引発生日の為替相場、合理的な基礎に基づいて算定された平均相場(前月の平均レート等)の他、取引日の直近の一定の日(前月末レート等)によることも認められています。
完成工事未収入金は取引発生時のレートで当初換算され、決算時には決算時の為替レート、入金時には入金時の為替レートで換算するので、未完成の工事進行基準適用工事でも為替差損益が発生することになります。
【工事契約に関する会計基準(企業会計基準第15号)第59項、外貨建取引等会計処理基準1、外貨建取引等会計処理基準注解2】
質問3
工事進行基準を適用していた工事が中断してしまい、再開のめどがたちません。工事原価総額も見積もれない状況になってしまったのですが、どのように会計処理すればいいですか?
(回答)
工事進行基準を適用するためには、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度が信頼性をもって見積もることができる必要があります。工事原価総額を信頼性をもって見積もることができなくなったのであれば、工事進行基準の適用を中断し、その後の会計処理については工事完成基準を適用することとなります。
なお、それまでに計上された完成工事高、完成工事原価を過去にさかのぼって修正する必要はありません。これは、事後的な事情の変化は会計事実の変化であり、従前の会計処理を否定するものではないと考えられるためです。
【工事契約に関する会計基準(企業会計基準第15号)第9項、工事契約に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第18号)第4項、第15項、第16項、第17項】
質問4
工事進行基準の適用範囲に、会計基準と法人税法での違いはありますか?
(回答)
会計上、工事進行基準を適用した工事については、法人税の計算においても工事進行基準が適用されます。基本的には同じですが、会計上、工事進行基準を適用していない工事でも、長期大規模工事は法人税法上、工事進行基準の適用が強制されるので、該当する工事がある場合には法人税の計算において調整が必要です。
長期大規模工事とは、①工事期間が1年以上、②請負金額が10億円以上、③対価の50%以上が引渡しから1年以内に支払予定、の全ての要件を満たす工事となります。ただし、以上に該当する場合であっても、工事の進捗度が初期段階の場合は(着手の日から6カ月を経過していない、もしくは進行割合が20%未満)、工事進行基準の適用は強制されません。
【法人税法64条、法人税法施行令129条】
質問6
工事進行基準を適用している場合、未完成の工事でも完成工事高に対応する消費税を計上する必要があり、結果として早期に納税することになるのでしょうか?
(回答)
消費税法上、請負による資産の譲渡等の時期は、原則として目的物の引渡日とされており、工事進行基準を適用している工事であっても同様です。そのため、会計上、工事進行基準を適用して未完成の工事に完成工事高を計上している工事でも、消費税法上は工事物件の引渡時に仮受消費税を認識するのが原則的な処理となります。
なお、会計上の処理と合わせ、工事進行基準により計算した完成工事高の額だけ、資産の譲渡等を行ったものとする処理も認められており、この場合は、工事物件の引渡前に仮受消費税を認識することとなります。
【消費税法4条、17条】
質問9
工事進行基準で計上された、未完成の工事に関する未収入金は、貸倒引当金の計算対象となりますか?また、金融商品の時価等に関する事項で開示すべき対象となりますか?
(回答)
工事進行基準を適用した結果、工事の進行途上において計上される未収入金は、法的債権とはいえませんが、会計上は、それに準ずるものと考え、金銭債権として扱うことになっています。そのため、通常の金銭債権と同様に金融資産と見なされ、貸倒引当金の計算対象となり、金融商品の時価等に関する事項で開示すべき対象となります。
【工事契約に関する会計基準(企業会計基準第15号)第17項、第59項、金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)第4項、第14項】
質問10
建設業におけるジョイント・ベンチャー(JV、共同企業体制度)とは何ですか?また、目的別分類、施工別分類とは何ですか?
(回答)
国土交通省のウェブサイトに「共同企業体(ジョイント・ベンチャー、JV)とは、建設企業が単独で受注及び施工を行う通常の場合とは異なり、複数の建設企業が、一つの建設工事を受注、施工することを目的として形成する事業組織体のことを言います」と記載されています(mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000101.html)。
また、JVは目的別、施工別に、以下のように分類されます。
(1) 目的による分類
分類 | 趣旨 |
---|---|
① 特定建設工事共同企業体 (特定JV) |
大規模かつ技術難度の高い工事の施工に際して、技術力等を結集することにより工事の安定的施工を確保する場合等工事の規模・性格等に照らし、共同企業体による施工が必要と認められる場合に工事毎に結成する共同企業体を言います |
② 経常建設共同企業体 (経常JV) |
中小・中堅建設企業が継続的な協業関係を確保することにより、その経営力・施工力を強化する目的で結成する共同企業体を言います |
③ 地域維持型建設共同企業体 (地域維持型JV) |
地域の維持管理に不可欠な事業につき、継続的な協業関係を確保することによりその実施体制の安定確保を図る目的で結成する共同企業体を言います |
(2) 施工方式による分類
質問11
当社がスポンサーで、共同施工方式のジョイント・ベンチャー(JV、共同企業体制度)を行うことになりましたが、分担施工方式の場合と比べて、どのような会計処理の違いが生じますか? また、当社は独立させずに社内で行う会計処理を行っていると聞きましたが、どのような意味なのでしょうか?
(回答)
共同施工方式の場合は、工事全体を出資割合で乗じて、完成工事高、工事原価を計算することとなります。
分担施工方式の場合は、分担した工区ごとでの請負金額で完成工事高を計上し、その工区で発生した原価を工事原価として計上します。共通経費の配分はありますが、基本的には自社の工区で発生した原価が工事原価となります。
このように、共同施工方式では工事全体に貴社出資割合を乗じて計算するのに対し、分担施工方式では貴社担当工区部分のみを、そのまま計上するのが違いとなります。
また、JVの会計処理には、(a)JVを一つの企業体と見なして会計処理を行う独立会計処理方式と、(b)独立させずにJVの会計をスポンサーの会計の中に取り込んで行う方式があります。実務的には、(b)の独立させない方式により会計処理を行うことが多いと考えられ、貴社では(b)の方式を取られているという意味かと思われます。
質問13
有価証券報告書の開示で、個別財務諸表は会社法の様式に合わせた開示が認められるようになりましたが、建設業では適用できないと聞きました。なぜ、適用できないのでしょうか?
(回答)
平成26年3月26日に内閣府令「財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」が公布され、有価証券報告書の単体開示簡素化が図られました。基本的には、連結財務諸表を作成している会社で、会計監査人を設置している会社(特例財務諸表提出会社)を対象として、会社法の様式に合わせた開示の特例が設けられています。ただし、別記事業を営む株式会社又は指定法人は対象外となっており、建設業は別記事業に該当します。建設業を営む会社は特例財務諸表提出会社とはならないため、会社法の様式に合わせた開示の特例は適用できません。
【財務諸表等規則第1条の2、第2条、第127条】
建設業
- 第1回:建設業の概要 (2016.12.28)
- 第2回:工事会計基準 (2016.12.28)
- 第3回:建設業の内部統制 (2016.12.28)
- 第4回:建設業会計Q&A (2016.12.28)
- 第5回:建設業における収益認識(1)~工事契約に係る認識の単位~ (2020.02.10)
- 第6回:建設業における収益認識(2)~保証サービス、重要な金融要素~ (2020.02.10)
- 第7回:建設業における収益認識(3)~履行義務の充足と収益認識を行う期間、事後的に信頼性がある見積りができなくなる場合~ (2020.02.10)